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第4話 脇芽も幹に

トマトの幹と枝の間に、小さな芽が出る。

脇芽だ。


放っておけば枝となり、栄養が分散してしまうらしい。

七ミリほどの、小さな芽。

可愛い。

けれど、心を鬼にして摘む。


指先でつまみ、そのまま土へ落とした。

ぷち、と軽い音がした。


脇芽を摘んだあとの指先には、トマトの葉の香りが移る。

青くさいが爽やか、大好きな匂い。

洗っても、なかなか落ちない。

……そんなところも、気に入っている。


トマトの成長は、早かった。

たかだか数週間で、苗は私の背丈近くまで伸びた。

支柱に結ばれながら、上へ上へと伸びていく。


脇芽も、同じだ。

小さいうちに摘まなければ、すぐに立派な枝になる。

そう、こんなふうに。


……ん?

こんなふう?


幹と枝の間から、三十センチほどの枝が伸びていた。

――脇芽の摘み残しだ。


こんなに大きくなるまで気づかないなんて。

自分の間抜けさが情けないような、

トマトの成長の早さが面白いような。


ハサミを持った。

余計な部分を残さないように、根元から切る。

パチッと言う音と共に手に枝が落ちてくる。


こんなに大きな枝を捨てるのか。

本当に捨てていいのか。

捨てた方が良いのよとも思う。


――あの人にとって、私との婚約も。

――伸びすぎた、この枝のようなものだったのかしら。


幹から出た少し大きな

いらない枝


自分を重ねてため息をつく。


……捨てなければ。

そう思うのに、捨てられない。

私はしばらく、切った枝をぼんやり見つめていた。


やがてジョセフが、小さな器を持ってきた。

中には土が入っている。

「挿し木にいたしましょう」

私は首を傾げた。

「土に枝を挿してください。

枝から根が出て、新しい苗になります」


……そんなことが、できるのね。

切って終わりではなく、

そこからまた育つこともある。


私は言われるまま、枝を土へ挿した。

水をやる。


数日後。

枝に新しい葉が育ち始めた。


「畑に植えられますよ」

とジョセフが言う。


私は畑の隅に新しい支柱を立てる

植え替えて土を軽く押さえる。


切られて捨てられる枝だったのに。

今や幹になって支柱にくくりつけられている。

立派なトマトの苗だ。


……なんだか、とても良いもののような気がして

頬がふっと緩んでいた。

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