第3話 天地返しに植える
五日は雨が降らないと言われた。
背中を押された気がする。
一日目。
土を掘り返し、風を通す。
湿った土の独特の匂いが鼻についた。
『天地返し』!なんて。
男性ばかりの麺類食堂のことは良く知らないのだけど。
あの人が少しだけ教えてくれた言葉。
家柄の釣り合いで選んだ相手だったが
知らないことを話してくれる姿は好きだった。
もう、過去のことだ。
頭を振って土に向かう。
思っていたより、庭は広い。
一人で掘り返すのは骨が折れた。
庭師のジョセフが付き合ってくれた。
さすがに慣れているだけあって、鍬の動きが速い。
二日目。
2回目の天地返し。
ジョセフだけでなく、セバスチャンも手伝うと言っていた。
けれど、六十八歳の腰痛持ちに無理はさせられない。
セバスチャンには、苗に水をやる係を任せた。
如雨露から注がれた水を受けて、苗がきらきらしていた。
三日目。
腐葉土を混ぜていく。
腐葉土は比較的軽い。
だから今日は、セバスチャンにも少し頑張ってもらった。
嬉しそうに張り切って腐葉土を運びこんでくれる。
庭の端から端まで腐葉土をまいて混ぜていく。
庭全体からいい匂いがする。
歩くと優しく足が沈む。
ジョセフが嬉しそうに微笑む。
私も嬉しくなる。
そしてセバスチャンを振り返る。
腰を抑えてしゃがみ込んでいた。
四日目。
セバスチャンは湿布が効いたらしく、庭に顔を見せてくれた。
良かった。
満を持して、鶏糞を混ぜる。
刺激臭が鼻へ届き顔をしかめる。
けれど――。
楽しみもまた、大きかった。
五日目。
畝を作る。
自分の背より高い支柱を、一メートルおきに立てる。
その足元へ、トマトの苗を植えていく。
壁際には支柱を立て、麻縄を張る。
その根元へ、ゴーヤを植えた。
すべて終えて、一息つく。
庭を見回した。
かつて視界を埋めていたバラは、もうない。
視界を遮るものはなく、そこにあるのは小さな苗ばかりだった。
私は帽子のつばを押さえながら、少しだけ笑った。
今日からここで、私は『好き』を作るのだ。




