わたくしだけが、“あなた”を正しく評価できますわ――白鐘メルティアの監査日誌
聖王国・ルミナリア。
かの評価システムの総本山、国家監査院の最上階。
そこには、誰も知らぬ“個室”が存在する。
カーテンで光を遮ったその部屋の中で、
一人の少女が、静かに記録を取っていた。
白鐘メルティア。
“自己肯定感監査官”にして、聖王国直属の魔法官。
銀の髪、眼鏡、美しい筆記体。
完璧な身のこなしで、彼女は“ただ一人の対象”を記録する。
「本日も、ネオ様の観察は極めて順調。
……やはり、他者評価との乖離が著しいですね」
机の上には、びっしりと並んだネオの画像。
寝顔、食事、呆けた顔、無自覚なハーレム囲み写真――
すべての表情に、メルティアは冷静な筆致でコメントを加えていた。
「ふふ……みなさん、甘いんですのよ。
ネオ様の価値を測るには、“評価”など不要。
わたくしの目が、すべてを正しく“監査”して差し上げますわ」
机の奥、ガラス棚の中。
ネオの使用済みフォーク、脱ぎ捨てた上着の繊維、髪の毛数本――
彼女なりの“記録”が、並べられていた。
そして、静かに取り出す一冊の分厚い書物。
タイトルは、《佐々木ネオ無自覚無双日誌 第54巻》
「さあ、本日分の記録を始めましょう」
ページをめくるたびに、彼女の顔がふっと熱を帯びる。
「……ああ、ネオ様。あんなに無防備に口を開けて……
ポップコーンを食べていただけなのに、どうしてこんなに……」
眼鏡が曇る。
しかし、その奥の瞳は、ひどく冷静で――とても、熱狂的だった。
「“観察”は愛です。“評価”は独占です。
他の誰にも渡しませんわ。……ええ、絶対に――」
メルティアは、そっと結界を張る。
部屋が、完全に外界と隔絶される。
誰も知らない。
この部屋の中では、評価すら届かないことを。
彼女は、世界で唯一、“ネオを評価せずに観察する者”だった。
「――ええ、あなたの真価は、“無評価”のなかにこそあるのですから」
窓の外。
ルミナリアの空が、一瞬だけ蒼白に染まった。
だが、メルティアは気づいていない。
その“祈り”が、この観察者にも“干渉”を始めていることに




