後日談:???、邪神の決断
SIDE:ジェームス・ライデンノット
「え、辞める?」
ようやくライオネル関連の書物が完成間近に近づいた頃のこと、唐突に、彼女は告げた。
「そや。そろそろ約束の期日やし、区切りもええし、ウチはこの仕事辞めよう思うんよ」
元々から決めていたことだった、とのことでキーリクが辞職願いを告げてきたのである。
確かに書物の編纂は一区切りついたから人が入れ替わってもごたつく時期ではないが、しかしずっといると思っていたのに、こんなにあっさり?
「まぁ、のちのちライオネル関連調べたいならガレフおるやん。繋がりも作れたわけやし、オスカーの子孫相手なら向こうも話くらいはしてくれるやろ。今は既にペルグリアと戦争初めてちょいごたついとるみたいやけど、レベル差ってひどいんよ。ガレフは竜の谷ダンジョン自由に使えるから現代でもレベル9999の兵士たち扱っとるやろし、相手は頑張っても100くらいや。戦争ちゃうで蹂躙劇やで」
「ライオネル兵を敵に回したら国が亡ぶって、そういう意味なのか……」
隔絶した存在が軍となって攻め寄せてくるなど悪夢でしかないな。
「あれはな、ウチ等が残した汚点のようなもんやからな。そろそろ、嘆き悲しむ者が出んようにした方がええと思うんよ。ウチもおらんようなるし」
「いなく、なる?」
「前に言うたやん。ウチ、ようやく声かかったんよ。ずっと待っとったんやけどな、話が付いたらしゅうて。やから、迎えに来てくれんねよ」
一瞬よくわからなかったが、なんとなくだが理解した。
迎えに来るのだ、彼女の飼い主が、邪神の主が彼女を召し上げに戻ってくるのだ。
だから、彼女は主人の帰りを待ち望む忠犬のように尻尾を盛大に振っているようにみえるのだ。
さすがに、取材させて貰うのは彼女と主人の邂逅を汚すような気がして言えなかった。
「そうか。迎えが来たのなら、仕方ないのかもしれないな」
「せや。やから、はい。コレ、プレゼントな」
なんだその紙?
ん? これは……
「まだ編纂に書かれとらん場所の所在地や。この辺り調べたら新しい発見もあるやろ。あとここな。グリンドラスはんが眠っとる地になっとるから、あんま賑やかになるような状況にはしたらんとってな」
グリンドラス。確かコスタロカ王の戦友だったか? その辺りの映像も残してくれているそうなので後で見せて貰おうと思う。
「君のおかげでライオネル王国がなぜ滅んだのか、ロゼッタ神がどういう存在なのか、いろいろと判明したよ。別れは惜しいが、今までありがとう、キーリク」
私は手を差し出す。
キーリクと硬く握手を交わし、彼女の辞表を受理させてもらった。
「ちなみに、これ以後は霊薬は……」
「本来ないものやん。諦めなさい」
ですよね?
「まぁ、ウチも邪神で鬼やないんよ。はい。餞別や」
と、人数分の霊薬を10本ずつ置いてくれた。
「いいのか?」
「正体ばれても変わらず接してくれたからやね。色付けといたから大切に使ってな」
「そう、だな。今の状況だとすぐになくなりそうだ。金庫にでも入れておくべきかな」
「これを機にガレフに空間魔法でも習ったらええんよ。アイテムボックスは重宝するで?」
そりゃ君たちにとっては日常茶飯事のアイテムボックスだろうけども、それを普段使いできる段階に魔術の勉強をするとなると何十年かかることか。
昔とは違うんだよキーリク。
「ほなら、明日には挨拶回りして明後日出てくな」
「急すぎないか? もう一週間くらいいても……」
「やって、一週間前にも一回言うたやん」
そうだよな。分かってた。分かってたが信じたくなかったんだよ。
はぁ、夢のような時間は終わりか。
邪神が身近にいる生活だった今までが異常だったんだ。
これからは元に戻る。それだけのことさ。
「新人君は来そう?」
「ああ。むしろ誰を選ぶかで困るくらいさ。キーリク並みに優秀な存在が居ればいいんだけど」
「せっかくやし見てもいい?」
「本来はダメなんだが、まぁ署長権限だ。皆には内緒だぞ」
と、選ぶに選べていない数名の履歴書をキーリクに見せる。
「おー、皆よさそうやん。あー、でもこの女性は止めた方がええな」
「なぜかな?」
「歴史編纂目的やないで、経歴から見てもパーティークラッシャー言う奴や。女性で受け入れるんならこっちかこっち。何なら二人でもええんとちゃう? 男性ならこの子かな。こっちの子は付いてこれるかわからんけど、上手く鍛えればできるんちゃう。それとな、ウチからはこの子を紹介しとくわ。ちょっと変な服なんやけど、ウルスハいうんよ。最近ずっとうちで暇してるし、今後は天涯孤独になるから、よかったら面倒見たって。これ経歴書」
「ああ、ありが……キーリク。君の後釜どう考えても魔物じゃないか。アバライトピエロなんて種族聞いたことないんだが。一万年前にあった書物以外では」
はぁ、キーリクは邪神だってことだが、自分の抜ける穴を埋めるまでしてくれるとか、良い人過ぎるだろう。どこが邪なんだ。




