エピローグ
「ほな、わざわざ見送りありがとな」
「まぁ。ワンチャン神様見れるかな、とも思って来たんだけど、来ないわね」
「一番の目的はキーリクの見送りだろ。短い間だったが楽しかったよ」
握手を求めるマークスにキーリクは素直に握り返し、手を振って握手を交わす。
「僕としては君の話をもっと聞きたかったところだけどね。邪神様の人生映像はないのかい?」
「あー。ウチのはあかんよ、ウチだけの想い出や。持っとるけど誰にも渡したらん」
「それは残念」
ケヴィンと握手を交わす。
どうやら一人一人握手をする流れになりそうだ。
「君がここに来てくれてよかった。随分と楽しい一年だったよ。でも、短すぎじゃないか?」
「最初に言うたやん。迎えが来るまでの短い間ですが、よろしゅうお願いします、て」
そうだっけ? とダニエが尋ね、ジェームスが記憶を辿れば確かに言っていたな。と告げる。
じゃあ仕方ない。とダニエとの握手が終り、マグナスが前に来る。
「……この出会いは、一生の宝とする。ありがとうキーリク」
必死に言葉考えたんだろうな。とキーリクは苦笑した。
マグナスがこれだけ流暢にしゃべったのだから事前に何度となく言うことを練習したんだろう。
察知されたことに気付いてバツの悪そうな顔をするマグナスと握手を交わすと、フレミーが前に来た。
「あーあ。せっかく仲良くなれた女子仲間だと思ったのになぁ」
「後任のウルスハと仲良うしたってぇ。あの子も寂しがり屋やからさ」
「ま、そこはお姉さんに任せなさい。あ、でも年齢的には向こうが上なのか。接し方難しいわね」
「ウチ相手にしてた感じでええんよ。馴れ馴れしいくらいにぐいぐい行った方がウルスハ喜ぶし」
「そう。じゃあ、こっちは任せて」
フレミーと硬く握手を交わし、最後まで残っていたジェームスに向く。
「君は、邪神であって、神ではない。それでも、行けるんだね?」
「そのために今まで待たされてんよ。ようやく許可が出た、いうから迎えが来たん。もう、会うことはないけれど。皆と会えてよかったわ」
「そう言っていただけると光栄だよ。私たちでどうにかなる訳ではないけれど、この平和が何千年と続くように、君たちに愛想尽かされないようにせいぜい幸せに生きてみせるさ」
「そうや。何事もない平和な日々を享受したってや」
ジェームスと握手を交わす。
手荷物は全てアイテムボックスに入れた。
持たされた花束やお土産もアイテムボックス内だ。
彼らに渡すべきものは渡したし、約束は全て果たし終えた。
もう、この世界に残したモノはない。
自分を取り巻く環境の中で、やらなきゃいけないことはないのだ。
キーリク、否。邪神、キーリクライク・プライダルは踵を返し、ジェームスたちに背を向ける。
送り出す仲間の声援に背中を押され、一度も振り返ることなく歩き出す。
この世界にはもう、自分のやるべきことはないのだから。
しばらく歩くと、声が聞こえてくる。
「久々に町に来たけど、だいぶ変わってるわね」
「そりゃそうさ。君が居なくなってからどれだけ経ったと思ってるんだい」
「屋台で買った焼き串うっま。妹ちゃん用に幾つか買っちゃうんだよー」
全く、どれだけの年月経ったと思っているのだろう。
いつまでも変わらない口調と態度で、彼女は楽しそうに笑っていた。
涙が出そうになるのを必死にこらえ、キーリは声の元へと向かっていく。
黒髪を風に揺らす、勝気な瞳の悪役令嬢。
焼き串の串から肉を引っ張る彼女と隣に居座る優男。
二人の姿を見れたのは一瞬、あとはもう滲んだ視界には何も映っちゃいなかった。
「お、キーリこっちこっち。キーリも食べるこれ? 美味しいんだよ」
声など出なかった。
ただ、足取りが早くなり、駆け足からのジャンプ。
大切な、本当に大切な人の元へ、キーリは飛び込む様に抱き着いていた。
……
…………
………………
「と、いう感じにだね、彼女は我々から卒業して行ったんだよウルスハ君」
新人としてジェームスたちの元へやって来たのは四人の女性。
三人は新人なのでまだ馴染んでいないのだが、ジェームスたちとは徐々に打ち解け始めているので職員として仲良くなるのは時間の問題だろう。
キーリクにより紹介されたウルスハも奇抜なピエロみたいな格好に目を瞑れば普通の女の子だと言ってもおかしくはない。
ただ、そんな彼女は今、必死に笑いをこらえている。
それはなぜか……
「いやー、ほんと先輩辞表出したのになんでいるんですか、ねー邪神キーリクライク・プライダルさぁーん、ぷふーっ」
「う、うるっさいわウルスハ! やって主はんが、主はんがいつでも行き来できるようにしたから仕事辞める必要ないんだよって、ぬああっ。皆して涙流して別れたんに、なんで次の日に戻らなあかんのーっ」
嘆くキーリク、辞表は神の権限をもって白紙撤回になったらしく、彼女もまた、帰る場所が自宅から神界になっただけで、歴史編纂署臨時職員として今後も一緒に仕事をすることになったらしかった――――
あ と が き のようなもの
蛇足になりますので飛ばして貰って構いません。
元々ロゼッタの元へ辿り着くリオネル君でエピローグを考えていたのですが三話分気付いたら増えてました。語り部をジェームス君にお願いしたことでそっち側の終わり方も考えた結果ですね、ともかく、ロゼッタを取り巻くお話はこれにて終了になります。
次の小説についてはただいま吟味中なのでそのうち始めるとは思いますが、今しばらくはほのぼのだけを更新していきます。妖少女の続きか、18禁系に手を出すか、現代ダンジョン系か、今年の初夢で見た龍と巫女の話、と言ったところでしょうか。




