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1958/1986

後日談:ラミネリア、私たちの卒業

SIDE:ラミネリア


 ライオネルの学園では、この日、ロゼさんたちが寄贈した無数の桜という木が一斉に咲いていた。

 学園の入り口付近が並木道と化していて、薄桃色の花びらが舞っている。

 不思議な感覚だけど、この学園をついに卒業するんだ、と思うと、木々がその門出を祝福してくれているような錯覚に陥るから不思議だ。


 寮生活は終わりを告げて、私たちは最高学年から卒業者になる。

 私のクラスメイト達も、卒業式で泣いている人が多かった。

 今までの学園だと、早く卒業してさっさと爵位を継ぐ人とか、文官になるために勉強する人とか、就職先を探す人とか、冒険者になる人とか、卒業式を尊いと思う人はほとんどいなかったそうだ。

 

 そんな生徒感情を、ロゼッタさんは変えてしまったのだ。

 たった一年前だというのに、まるで伝統的な卒業式のように、厳かに、盛大に。

 ライオネル騎士団の一部が私たちの卒業を見送りに集まり、左右に隊列組んでラッパを吹き鳴らす。


 皆、証書を貰った者から兵士たちに作られた道を堂々と実家へと帰還していく。

 並木道で一度足を止め。短くも実りある学園を振り返り。

 涙を溜めて、決意と共に拭い去り、自分の足で桜舞う小道を歩みだすのだ。


 お兄ちゃんが呼ばれた後に、先行っとくぜ、と巨体を揺らして去っていき。

 オル君とロス君も、一言、私たちに挨拶して去っていく。

 一部、卒業前に居なくなってしまった生徒たちもいたけれど、私はこのクラスで学べたこと、ずっと、記憶に残ると思う。


「さぁ、自分の商売に本腰を入れるかな。皆さん、お先に失礼するよ」


 ラコッティーノ君が証書を見せびらかして去っていく。

 

「魔物なんだけど……」


 ウルスハさんも証書を貰い。一応護衛中ということで、続くシクエスさんが証書を貰うまで待って、二人揃って卒業していく。


 アグリアさんが卒業し、マリーセルさんと泣き合って、コルキスカさんにまた会おうって拳を突き合わせて。私の番が、やってきた。

 名を呼ばれ、ガチガチに緊張しながら校長の前へと向かう。

 前にも小中高と行ったはずなのに、未だに慣れることはない。


 卒業証書を受け取り、残った卒業生たちに別れを告げて。

 一足先に、卒業する。

 兵士たちのラッパが鳴らされる。

 勇ましく、送り出す音に背中を押され、彼らの作った道を、ただ、歩く。

 後ろは振り向いたりしない。ここからは、前を向いて、新たな世界へ旅立つのだから。


 けれど。

 どんなに決意していても……

 桜が、舞っていた。


 無数の花びらが小道を彩り、巣立ちの祝福をされているようで、でも、なんとなく儚くて。

 取り残されていく在校生たちのことが、先生たちのことが、この学園での思い出が、私の後ろ髪を引っ張った気がした。


 何気なく、足を止める。

 一度だけ、そう、たった一度だけ。

 私は後ろを振り返る。


 それはいつか、馬車に乗って見上げた雄大な校舎。

 何度となく寮から出た時に見つめ、幾度となく通った私の学園。

 いろんな、思い出があった。ゲーム世界のイベントはほとんどなかったけど。

 でも、もっと大切で、凄く……


 瞳を伏せて、少しだけ、思いを馳せる。

 風に揺れた髪に花びらが付いて、すぐに風に流れて行った。


「ありがとう」


 私をこの学園に通わせてくれて。

 この学園で過ごさせてくれて。

 そして、さようなら。私は今日、この学園を、卒業します。


 目を開ける。

 いつの間にか滲んだ視界を袖で拭い、顔を前へと向きなおす。

 後ろ髪引く思い出たちを振り切って、私は歩き出す。

 桜舞う学園に続く道を、我が家へ向けて逆方向に。


 歩き出そう。覚悟を決めよう。

 学びの時間は終わりを告げた。

 ここから先は、私が選び取る人生だ。


 胸を張って大地を踏みしめ、手にした証書に力を込めて。

 やがて、桜並木の途切れた場所で、彼らは笑顔で待っていた。


「よぉ、待ってたぜ」


 120%弟、なんていうふざけた名前にしちゃった前世のお兄ちゃん。

 王様の隠し子で長女になったシクエスさんと警護のウルスハさん。

 アグリアさんにマリーセルさん、コルキスカさんもパステルさんもモーリー君も。

 オル君、ロス君、ラコッティーノ君も勢ぞろい。

 皆、私が来るのを待ってくれていたらしい。


「あっれぇ、ラミネリア泣いてる?」


「な、泣いてないよ! 目にゴミが入っただけだし」


 すでにバレバレの嘘を言いながら合流する。

 ゲーム世界だからどうなるか怖い、なんて思ってたけど、皆と一緒なら、私、この先も幸せにやっていけると思うんだ。


「皆で打ち上げ行こうって相談しててさ。ラミネリアも行くよね?」


「ラコッティーノの金で貴族のレストラン行こう! ロス君たち行ったことないでしょ」


「そうだねー、基本そっちより寮の食事の方が美味しいからなぁ」


「俺も貴族式のドレスコードは苦手だし、庶民の酒場でよくね?」


 というか、よく考えたらお兄ちゃんとこの世界では兄妹じゃないんだよね?

 結婚、できちゃうんだ……そっか、そっか――――


「ん? どうしたラミネリア?」


 んーん。何でもない。なんでもないよー、お兄ちゃんっ。

 それだけ告げて、私は前世のお兄ちゃんの腕に絡みついて歩くのだった。

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