後日談:エリオット、先達との運営打ち合わせ
SIDE:エリオット
タン……タン……と時間をおいて音が鳴る。
晴れ渡る空の下、王族専用の庭で、私は今日も、茶会に顔を出していた。
隣のテーブルでは妻二人と相手の妻が楽しそうに歓談している。
そして私のテーブル側には、テーブルに置かれたチェス盤へと駒を移動させる私と、ヤマダ王。
霊体ではあるが魔術か霊力か、チェスの駒を動かし私の相手をしてくれていた。
『ふむ。つまり治水から始めたいと』
「ええ。ロゼッタ嬢が地図は残してくれていましたし、兵士たちにより国は戻りました。次にやるべきは治水工事による村々の安全性確保かと」
『確かにそれもアリではあるが……今の状況であればまもなく水害よりも雪害だろう? 雪かき設備の拡充が先ではないか?』
「雪かき、ですか?」
『我が前世知識を用いる場合、やはり塩を路地に撒くべきだろう。可能ならば屋上にもだな』
「さすがに貴重な塩をそんな使用で消費するのは国民が許さないかと」
確かに、雪による弊害はかなり多い。
ライオネル王国内では兵士たちが居るので魔法で溶かすなどしているが、事前の雪虫被害と相まって交通の便も含めてかなりの被害が出ているのは確かだ。
しかし、塩? 生きるのに必須の塩を地面に撒く、しかも冬の間だけの雪を解かすためだけに?
暴動が起きてしまう。
いや、ライオネル王国はまだいいんだ。兵士たちにお任せすればいい。他国にこれを伝えた場合、国家転覆が起こりかねない。
それほどに、塩は国民生活に直結する貴重品なのだ。
無駄に地面に撒いていいものではない。
「塩といえば、確かエグエールの方に這いずった箇所に塩の粘液を残す巨大ナメクジ型の魔物がいるとか」
『ほぅ。それはいいのではないか? その魔物を交渉で引き入れれば雪の降る前に村々への道を這って貰うだけでよかろう』
「いやぁ、さすがに病原菌とかいうのがあるのでは? 這った後は粘液でべたべただそうだし」
『うぅむ、惜しいなぁ。まぁよい、治水に関しては雪解けの水によるものと台風によるものとがあるだろうしな、確かに今から対策するのもアリと言えばアリか』
「そうでしょう? ロゼッタ嬢はライオネル城下町まではしっかりと上下水道を整えてくれましたが、他領に関しては一切手を出しておりません。領内の貴族に配慮した結果かもしれませんが、現時点でベルングシュタット領のみライオネル城下町並みの町になっているので、さすがに他の貴族から不満が出て来てるんですよね。自分たちでやれ、と言っても奴らは考えもせん」
『クク、いつの時代も貴族は似たようなものだな。いいだろう、我が知識を授けてやろう。ライオネルの益々の発展を楽しみにしているぞ』
「精進するよ」
『お前だけではない。代々の国王にも知識はくれてやる。だが、それを上手く使えるかどうかはそ奴次第だ。孫、ひ孫、それ以後の代で阿呆が出ないことを祈るがいい』
「ヤマダ王、それを言ってしまうとオルトリオル帝の肩身が狭くなるので許してやってくれ」
『クハハ、あいつらのやらかしはもはやなかったことに等出来ん。ことあるごとに話のネタにしてやるわい』
自分も、下手なことをしたら末代以上までの恥として語られるのだろう。
今から気が重い。
しかし、王位を引き受けたからにはしっかりとライオネルを繁栄させていかねばな。
『せっかくだ、国王の仕事について、マニュアルを作ってはどうだ?』
「マニュアル。ですか? 一応国王の仕事に関しての書類はありますが?」
『だが、アレはこういう時はこういう対応、こっちの場合はこう、といった対処に関しては一切書かれていないだろう? それにライオネル兵などロゼッタ嬢が残したモノに関する取扱いもあろう』
言われてみれば、後世になる程兵士たちの扱いが雑になるかもしれん、か。
おそらくロゼッタ嬢の教えも忘れられていくのだろう。
ただ、ロゼッタ嬢のことだ。そうなった場合の仕込みもしているに違いない。
つまり、その仕込みが発動した時、その日こそがライオネル王国が歴史に消え去る日なのだろう。
愚かな王が国を滅ぼすきっかけを作る。
そうならない限り、彼女は国の守り神としてこの国を繁栄させてくれるだろう。
「あー。今から未来に対して気が重いな」
『クク、どんな仕込みが発動するか楽しみだな。其方はともかく、我が見届けられるかどうか』
「どういう意味です? ずっといらっしゃるのでは?」
『我らの秘術は既に解かれている。成仏するまでの期間は長いが、我々も順次成仏していくだろう。そして輪廻の波にのまれ、記憶を失い新たな生命として日々を過ごしていく。何百年、千年は持つまいよ』
そう、なのか。
本当に、どんどんと変わっていくな。
不思議な気分だが、彼女のいた時間は私の中でも不思議と忘れえない過去として、いつまでも残り続けるだろうということは分かる。
これからも変わっていくだろうが、ライオネルには彼女の面影が端々に存在するからな、それを見るたびにその時の記憶が蘇るというものである。




