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1935/1986

後日談:レファニティウス、何かが、足りない

SIDE:レファニティウス


 私の朝は早い。

 国が一度滅ぼうとも、国が再び再建されようとも、私が行う業務に変わりはない。

 今まで通りの日々、国の為に貴族としての当然の仕事を行っている。

 ただ、今までを考えると、やはり何かが、足りん。


 娘と婿が領主邸に越してしまったから寂しい、とかそういうことではない。

 これまでだって領主邸にいたのだからそれは違うのだ。

 では結婚したから?

 それも違う、父としては寂しく誇らしいのではあるが、それも違うのだ。

 なんというか、こう、もう二度と会えぬというか。

 この胸に空いた空洞を埋める術を失ったというか……


「大臣、回収、来た」


「ああ、コボルト君か。いつものようにそこの書類を持って行ってくれ」


 仕事に差し支えるようなものではない。

 いつも通り。そう、いつも通りだ。

 王国に出勤して一大臣として国務を行っていく。


 雑務が終ると見回り。城内の時もあれば町に出ることもある。

 他の大臣たちとの座談会をすることもある。

 付き合いで飲み会に出席することもあったし、秘密の会談を開くこともあった。

 とはいえ、私は妻と娘に顔向けできないようなことは一切していない。


 悪行には手を付けていないし、賄賂も断っている。

 おかげで昔はかなり煙たがれていたし、できるだけ出世しないような名誉職に就かされていたのだが、今では要職も要職だ。

 何しろ悪徳大臣が軒並み消え去り、しかも女神となった娘を育てた父という名誉を賜ったことでそういった姑息な考えの者が近づいてこなくなったのも嬉しい誤算だろうか?


「侯爵、陛下からこちらの書類が」


「貰おう……ふむ。財務大臣にこの書類を頼む」


「はっ!」


 いつもの通りの書類仕事。

 本当に、いつも通りのはずなのだ。

 いや、分かっている。本当は分かっているのだ。


 ロゼは、離れていようとも会おうと思えば会える。

 キーリも会うことは可能だ。

 だが、だが……もう、会えぬのだ。

 彼女はきっと戻って来るだろう。アバターとかいうものとはいえ、この世界に戻れるのだから。

 でも、それは100年はかかるらしい。


「待てぬよ、ロゼッタ……」


「侯爵?」


「いや、なんでもない、すぐに行きたまえ」


 仕事をしている間は、仕事に集中しておけばいい。

 しかし、ふと、気付くのだ。思い出すのだ。

 愛する娘はロゼやキーリだけではない。私にとっても、パンナにとっても、ずっと、共に育てて来た娘はもう一人いるのだ。

 たとえ二度と会えぬとしても、私たちはお前を娘だと思っている。


 だが、やはり、二度と会えぬと分かってしまっているのは、辛いな。

 せめて、別れの挨拶くらいはしたかったが、それすらもできないのはな。

 

 ……

 …………

 ………………


「あ、あのー、侯爵?」


「む? ああキミか。まだ何か?」


「まだ? あの、今日は残業なさるんですか? いつものお時間が過ぎておりますが」


「なに!?」


 はっと顔を上げれば、すでに闇夜の帳が降りていた。

 おかしい、昼食もまだ取っていなかったはずだが……

 む、腹が鳴ったか?


「うむぅ……今の時刻は?」


「プライダル商店製の壁掛け時計は17時40分を指しております」


「なんという。いつの間に」


 だが今から帰れば十分夕食に間に合うか。

 パンナ。待っていてくれ。すぐに向かうぞ!!


「すまんが、後を頼んでもいいかね?」


「あ、はい。すでに書類は全て終わっておりますし、問題はありません」


 さっさと立ち上がり、時間も惜しいと帰り支度を終えた私は足早に城をあとにする。

 すでに馬車が待っていたので乗り込む。


「すまんな、少し遅れた」


「問題ありませんだちょな。随分とお急ぎでしたが忘れ物はありませんだちょな?」


 う、む? ああ。大丈夫だ。ちゃんと昼に食べる予定だった弁当も残っている。

 残って……あああっ! そうだった。これ、どうしたら……


「おい、だちょな。お前腹は空いてないか?」


「へえ。確かに食事は未だですが、これから帰った後に酒場にでも寄ろうかと思っておりますだちょな。あと私の名前はだちょなではありませんだちょな」


「丁度いい、この弁当を食え、今すぐ食え! あとこのことは絶対に誰にも言うな、誰にもだ!」


 御者に弁当を押し付け、昼を抜いた事実を隠蔽する。

 すまんな料理長。お前たちが作った食事はちゃんと食べたことにしておくからな。

 しかし、食事の代わりに弁当、か。私も随分と変わったものだ。これもロゼッタのおかげかな。




「あら、あなた。随分と遅かったですわね」


 屋敷に戻り、食堂へと向かうと、パンナがにこやかな顔で待っていた。

 どう考えても笑顔なのだが、周囲の空気に怒りが見える。

 違うんだ。遊んできた訳ではない。

 いや、落ち着け。大丈夫分かってくれるはずだ。


「すまんな。少し考え事をしていたらしく、時間が過ぎていた。慌てて戻って来たのだ」


「まぁそうなのね。だからお昼も抜いてらっしゃったのね」


 なぜそれを!!

 まさか、影どもよ、貴様等パンナに告げ口したな!! おのれきさ……ああいや、違うんだパンナ、分かってる。夕食は揃って食事をしようといったのは私だ。ああ。いや。すまない。許してくれっ。愛しているよパンナぁ!!

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― 新着の感想 ―
久々のだちょなさんにほっこり。
>「すまんな。少し考え事をしていたらしく、時間が過ぎていた。慌てて戻って来たのだ」 >「まぁそうなのね。だからお昼も抜いてらっしゃったのね」 >ああ。いや。すまない。許してくれっ。  理由を正直に話…
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