終話、少女が夢見た終着点
その日、荒れ地と化した大地を、埋め尽くすほどの人が集まっていた。
旧ライオネル王国跡地。
もはや各国、国という存在は消失し、今は少しずつ復興を始めているところである。
それでも、各国から生還者全員が、本日ライオネル跡地に集まっていた。
ヴァルトラッセ達による転移で運ばれてきた数多の人々が見つめるのは、荒れ地に敷かれた赤いカーペット。
その上を、父親のエスコートで花嫁が一人。純白のドレスに身を包み、ゆっくりと花道を歩いていた。
無数の歓声。絶望的な状況を耐え抜き、復興をする彼らにとっても、祝福すべき二人の結婚式。
花嫁が向かう先には、先に壇上で待っているマンダブル司祭と王族専用の服を着た花婿。
すぐ傍では息子の晴れ舞台に涙するグランザム元国王。
弟の晴れ舞台に満足げに頷いている現ライオネル王国国王エリオット。
その妻たちも全員出席し、弟妹、全てのライオネル王族が勢ぞろいしていた。
否。ライオネルだけではない、数多の王国にいる王族、それらすべてがここに一堂に会しているのだ。
小さな国から、遥か彼方に存在するエグエール王国まで、王族から国民全てが祝福の為に集っていた。
人族だけではない。魔族も、守護者の魔物たちも、別の星に住むヴァルトラッセまで、多種多様な種族が集まり、今回最大の功労者である、マギアクロフト強化兵精製施設撃破を行った世界の英雄、リオネル・ライオネルの結婚式に集ったのである。
結婚式はつつがなく進む。
闇組織の存在であれ、この日だけは共に祝福を行っていた。
神から解き放たれたこの世界への祝福を込めて。
人類が新たな一歩を踏み出すための、盛大なる祝賀会だ。
「誓いの、キスを」
司祭の言葉に、リオネルは花嫁のヴェールを取る。
あらわれたのは金髪の綺麗な女性。
目元がキツイため、悪人面と呼ばれることもあるが、この日ばかりは、皆が祝福する主役だ。
「最後に、もう一度だけ……」
リオネルが近づこうとした時、その女性、ロゼ・ベルングシュタットは小さく呟く。
「本当に、よいのですか? 私は……」
「それ以上は言わないで、ロゼ。君を幸せにする、これはその、誓いの口付けだから」
口から洩れそうになった女性の名は虚空に消える。
ロゼはされるがままに、目を閉じた。
自分は、なぜこんなに昔のことを覚えているのだろう?
ある日、自分が人生をやり直していることに気付いた。
リオネル・ライオネルの婚約者になって、この人と幸せになる。
そう思った矢先にの出来事。リオネル暗殺。
最初はそう、あまりにも意味が分からなくて、でも信じられなくて。
ずっと情報を探し回った。
見つけたのは偶然で。屠ったのはリオネルの兄で。
復讐を誓ったのはいつの頃だっただろうか?
その復讐もやり遂げて、ようやくリオネルの元へと行ける。
処断され、自分が死ぬのを受け入れ、そして……子供の頃へと舞い戻る。
無垢な瞳で笑うリオネルを見て、泣きながら抱き着いて。
今度こそは。そう思って、でも幼い自分では何もできなくて。
リオネル暗殺の報を知らされ崩れ落ちる。
だから、殺した。
大切な人を暗殺したガイウスを、その首謀者たちを。
可能な限りの残酷な方法で、何度も何度も、やり直すたびに。
いつしか、悪徳を行うことになんの呵責もなくなって。
それでも、夢だけは変わらない。
リオネル様と、結婚して幸せになる。
それだけだった。
それだけでよかった。
少女には、あまりにも過ぎた願いだった――――
自分だけでは、どれほど頑張ってもリオネルを救えない。
そう気づくまで、どれほどの死を乗り越えただろう。
何万年の時を繰り返しただろう?
ふいに、異物を感じた時、天の采配だと理解した。
それが寛子との出会いで、少女は彼女に託したのだ。
たとえ自分じゃなくとも、リオネル様を救えるのなら。
彼女は自分には思いもつかない方法で自身を高め、リオネルを救ってみせた。
もう、満足だった。このまま消えよう、何度も思ったのに、彼女は優しかったから、無意識に、少女に主体を譲ろうとしてきたのだ。
迷った。迷って、でも諦めきれなくて。少女は彼女に譲られるまま主体になろうとして、二人に分かれた。
後はロゼッタを殺してリオネル様を手に入れる、そうすれば嫌々でもリオネル様は自分のモノに。
一時でも、そう思った自分が浅ましい。
彼女はずっと、ロゼとリオネルがくっつく方法を探してくれていたのに。
口付けは一瞬だった。
誓いは成され、少女の小さな、叶うはずのない願いは新たな女神により叶えられた。
閉じた瞳から一筋の涙が伝う。
それは、夢見た結末へと辿り着けたからか。
あるいは、そのために自分を犠牲にした半身への懺悔の涙か。
「ありがとう、ロゼッタ――――」
たとえどうなるとしても、こんな私に機会をくれて。
―― 幸せになるんだよ、ロゼ ――
ロゼの瞳が開かれる。
新たなる二人の門出に、天から祝福の鐘が鳴り響いた――――




