1914話、ロゼッタ、悪あがきの果てに
「んで、このお兄さんどうすればいい?」
ペルグリッドに見捨てられた神が膝から崩れ落ちている。
焦点が合ってない目はおそらく自失茫然だからだろう。
仕方ないので私が連れて行くしかないらしい。
「神界への空間開くから放り込んでって。あと貴女とアルセデアルも回収するそうよ」
「私も? まだ挨拶回りも何もしてないんだけど?」
「ダメよ。神に成った以上下位世界には出来るだけ干渉しない、それが上位世界が決めたルールだもの。今ここにいることだって本来はタブーなの。だからさっさと神界に引っ込む。大丈夫、一般常識とアバター作成を覚えたら戻って来れるわよ」
「それ、すぐにできるの?」
「この世界換算で100年後くらいかなぁ」
じゃあダメじゃん!?
せめて挨拶くらい……マジでダメ?
「さすがにこれ以上留まるようだとロゼッタにも罰則付けざるをえないって」
それは、さすがに面倒か。神に成ったはいいけど出来ないことが結構あるなぁ、主に上位世界のルールに縛られるせいで。
そのルールが出来たのも上位世界で兄神みたいにやらかす奴が多くてルールが必要だと感じたから、なのだとか。先人たちに言いたかないけどやらかすんじゃないよ!
「お、開いた」
私の背後にぐにぃっと空間が二つに割けて時空の裂け目が顔を出す。
マーブル模様の謎空間に、まずは兄神を放り込もう、とした時だった。
動きを察して私は思わず飛びのく。
「主はん!」
「大丈夫! 何もされてない。けど……」
ゆらり、立ち上がった兄神。顔はもう絶望した表情になっているのに、手には注射器のようなものを持ち、未だ敵意が衰えていない。
まさか、それを私に差すことで神としての権能を無くす、とか?
「私は、終わりだ。こんな結末、未来視になかった。お前だ。お前だロゼッタ……お前さえ、お前さえいなければ……このままでは終われん、貴様だけでも、道連れだっ!!」
手にした注射器を、自分の首へと注射する兄神。
まさか、それ……強化兵作った時の!
「ああ、おおお……ぐぎぎぎぎぎぎgAaaaaaaaaaaaaa!!」
うっそだぁ。あんた神でしょぉ、こんな追い詰められたから自分の姿変えてでもお前殺してやるって……三流魔王もいいとこなんだよ!?
「ちょ、ちょっとロゼッタ。それ、どうするの!」
「主はん、それ不味いで! 前に召喚した邪神なんかおよびもつかへんヤバさがにじみ出とる! 一般人が見たら正気消えてまう!!」
うげ、兄神さん正気消失系の神になっちゃったのか。
美しい均整の取れた体が膨れ上がり、筋肉が肥大していく。
ベルーチのように、ヨーデリヒのように、全身くまなく膨れ上がり、筋肉達磨へと変わっていった。
「勝てる、勝テルぞ!!」
あー。力を手に入れて慢心しちゃうタイプだね。
なんというかもう、ほんとラスボス向かない神だな。
中ボスでも今日日ここまでベタな第二形態はしないんだよ。
「兄さん……なんで……」
「これ、連れて帰れる状態じゃないけど……」
「それは――――ザザ、失礼。アルセデアルは一体しかいないのでこの世界の女神と交代させて貰った。君にはすまないが、アレをさっさと処理してくれ。生死は問わん。終わったら肉体を神界へ放り込んでくれ。後のことはこちらで処理する」
マジか。
はー、前世でもこの世界でも神に成ってすらも、貧乏くじ引かされてる気がするんだよ。
でも、まぁ。誰かがやらなきゃいけないから。やれる奴がやらないとね。
竜割界断刀を引き抜く。
慢心した神が私へと攻撃を行ってくるが、やはり遅い。
ベルーチ程の実力もなく、力を制御する術もなく、ただ強さに振り回され全能感のまま拳を振り抜いているだけだ。
もちろん、同等の神でない場合は今ので消し飛ばされているだろう。
だからこの場にいるロゼたちが消し飛ばないように結界を張って、自分は避けるに徹する。
「分かるんだよ。兄神さん。上手く行かない気持ち、自分の気に入らない者を消したい気持ち、ままならない状況を何とかしたくて禁忌の薬に手を出す気持ち。でもね。それをぐっとこらえて日々を生きるのが人間なんだ。欲望のままなりふり構わなくなったら獣と一緒。せめて人の上に立つ神を名乗るなら、自制心くらいは育ててほしかったんだよ」
精神を研ぎ澄ませ。
世界に負担をかけるな。
たった一太刀において相手を無力化するだけでいい。
「覚悟はいい? 兄神さん。世界の為に死んでくれ、なんて言わないから。だから……」
鞘に刀を仕舞い、腰だめに構える。
迫る兄神向けて、柄に手を掛け、神としての力を乗せた、刀を走らせる。
お前のせいで? お前が居なければ? それはこちらのセリフだよ。あんたが私に怒るように、理不尽なあんたに、私だって怒ってる!
大切な人と幸せを夢見て、神に成るしかなかった女の為に……
「私の為に、死んでくれ! 神屠ル……至高ノ一撃!!」
鞘から剣閃と共に光が溢れた。
踏み込んだ私の髪に拳が掠る。
一刀と共に跳び抜ける。
「が、あ、再生が……効かな――」
残心を残し、剣を鞘へと納刀する。最後の一瞬、刀が仕舞われたその直後。斬られた傷から血と思しき白い飛沫を迸らせて、ソレは静かに、どぅ、と倒れた。




