1874話、シュヴァイデン、ファーガレア防衛線7
SIDE:シュヴァイデン
状況は絶望的だった。
ミリア嬢の結界が国を覆っているおかげでまだ国内へと強化兵が入って来ることはないが、すでに結界を叩いている小型や中型の強化兵がいくつも見受けられる。
町壁の上にいるミリア嬢は両手を合わせ、両膝をついて必死に祈っている。
瞑ったままの眼が苦悶を浮かべ、球のような汗が浮かび出していた。
おそらく、結界の維持が辛くなってきたのだろう。
それを見たジームベルク王がミリア嬢に霊薬を飲ませる。
いきなり飲ませて驚かれると結界が崩れかねないので一声かけてからゆっくりと飲ませていたが、ミリア嬢の必死の結界でも、果たしてどれだけ持つものか。
一般人の人々も不安そうにしている。
壁の上に残っているのは何かをしたくなって自ら行動し始めた市民とは違い、未だにただただ成り行きを見守るしかできていない人たちである。
だから悪い、という訳じゃない。彼らもまた、我々が守るべき民なのだ。
きっと葛藤もあるだろう。
自分も何かしないと、そう思っても自分にできることがわからず立ち尽くしている者、ただ何も考えず立っている者、すでに諦め祈るだけになった者、或いは完全に他人任せで何とかしてくれよ、兵士なんだろ、と憤っている者。多種多様に存在しているが、誰も彼もがミリア嬢を囲う様にして立っていた。
それはまるで、無意識にでも彼女を守らねば、そう思ったのかもしれない。いや、そう思って行動したんだと思いたい。
「で、伝令、南方面より黒い波襲来!」
黒い波? なんだそれは?
「て、訂正! モンスターパレードです! モンスターパレードが発生しました!!」
なんという間の悪い!?
様々な魔物たちが合流し、ファーガレア目指して一直線に駆けてくる。
その異様な光景は、まるで黒い津波が全てを飲み込んでいくような……なんだ? 魔物たちから突出して一匹の魔物が……
―― 我が名はプロキオン、魔物たちの守護者である! ロゼッタ神との盟約により人間共を救いに来た! 魔物たちは此度のみ、味方である! ファーガレアの者たちよ、もう一度言う! 魔物たちは、此度のみ、味方である!! ――
なん、だとぉ!?
お嬢、なんという隠し玉を!!
想定外の助っ人参戦により、生存者たちの歓声が上がる。
もはや何でもいいから助けが欲しかったところ。魔物? だからどうした。
仲間というなら手を結ぼう!
ましてお嬢の計らいであるならば喜んで!
「プロキオン殿、良いタイミングだ。ファーガレア総大将をしている、シュヴァイデンという。援軍、感謝する!!」
雪崩のように押し寄せた魔物たちが強化兵を飲み込んでいく。
ここにきて数十万を超える魔物の助っ人は人類にとって最高の光明だった。
さすがにパワーレベリングはされてないようで、魔物自体は弱いようだが、ゴブリンでも群れれば強化兵の全身に取り付いて動きを封じ、ミノタウロスやギガースたちがトドメを刺していく。
まさしく統率された動き。ただの群れが助っ人に来たのではない、訓練された軍が助っ人に来てくれたのだ。
「伝令! 敵援軍多数! まだ来ます!!」
「慌てて増援を増やしたか。巨大強化兵たちもまだいるらしいな」
―― 済まんがこの数がいて巨大以上の敵を相手取るには能力不足だ。そちらは任せるが中型以下はこちらが受け持とう ――
「そっちを受け持ってくれるだけでも十分すぎる! 行くぞ皆! 魔物たちに負けていられないぞ!!」
「で、伝令! ちょ、超巨大型、多数!!」
……は?
「嘘だろ、おい……」
遠く、雲を掻き分けながら超巨大強化兵が十を超えて現れる。
さすがにあれの相手が出来るメンツはここにはいない。
大型に割り振っているメンバーを集めてもまだ、足りない。
不味い、これは非常にマズい。
お嬢、どうすれば……
起死回生の一手はないんですか? このままじゃ……
絶望はゆっくりと近づいてきていた。
せっかくの助っ人で沸き上がった士気は急激に下がり、皆敗戦濃厚を感じて悲痛な顔で戦い始める。
ダメ、なのか?
無謀だったのか?
神に逆らうことは、絶望しかないというのか?
恭順すれば助かると?
強化兵の数からして、恭順した国の兵士たちは皆強化兵にされているはずだ。だから、恭順していればあの化け物の姿にさせられる。それでこの先を過ごせと?
もう、人類に生き残る術なんてなかったって言うのか。
そんな、そんな終わり方なんて……
「不味いな、士気が低下したせいで冒険者や闇組織の組員まで負け始めている……」
「シュヴァイデン総大将、どうにかなりませんか!」
「どうにかったって……」
国へと退避すれば、今しばらくは持つだろう。
ミリア嬢の結界が続く限りは、皆生存できる。
だが、だがそれでは……




