1873話、???、笑いが止まらぬ
SIDE:兄神
その光景は、ずっと、ずっと待ち望んでいたものだった。
必死に抵抗し続けるクソムカつく人間の女の最後の姿。
凶悪な超巨大強化兵ベルーチの拳が、強化兵たちを投げ飛ばして向かってくる矢の連撃を撃墜するロゼッタ・ベルングシュタットへと襲い掛かる。
タイミングは絶妙。
気付いたロゼッタが転移するよりも早く、大質量の拳が直撃した。
両手で持ち上げていた中型強化兵はその一撃で消し飛び、ロゼッタ本人は音速を越えて遥か彼方へと吹き飛んでいく。
はじめ、せっかくその光景を見れたというのに、何が起こったか私ですら理解できなかった。
ただただ茫然と見送って、何が起こったか考えて。
脳内で文字として起こし、ロゼッタ・ベルングシュタットが吹き飛んだ。
その事実を理解して、全身の震えと共に現実だと理解する。
それほどに、あの女が吹き飛ばされることが現実でありえない、想像すらできなかったことだったのだ。
だが、これが現実だ。
所詮は人間。神が造りし強化兵相手では打ち勝つことなど敵わず。
そうだ、奴は人の身で健闘した。
ああ、称えよう。
称えてやろう!
その身一つで神に近づかんとした愚かな人間よ。
よくぞ人の身で頑張った。
ああ、頑張ったのだ。
だから、眠れ。
神の威厳に屈し、神の創造力に屈し、無様に死ぬがいい。
お前という愚か者が居たことを未来に教訓として残すだけは残してやろう。
気分がいいので今生き残っている人類の生存は確約してやってもいい。
はは、ははは! 勝った! 勝ったぞ!!
やはり人の身で神に挑むなど無謀なのだ!
我自ら手を下す必要すらなかった。
くくく、ははは、あーっはっはっはっは!
愉快愉快、これこそ愉悦!
貴様らが必死に無様に地を這いずって戦力を集めたところで、見るがいいこの世界を!
貴様等の戦力ではこの地上に生きる者たちを守り切ることももう難しい。
後はもう各々駆逐されていくだけだ。
なんという晴れやかな気分か。
今までの苦労が報われたような。
ああ、まさに全能神となった気分だ。
両手を広げ、真上を見上げる。
どんよりとした曇り空なのだが、わざわざ自分の真上だけ雲をのけ光を差し込ませる。
おお、これだ。まさしく祝福を受けし神にふさわしき光景だ。
見たまえ強化兵ども。
我を見上げよ。
我を称えよ!
ああ、世界はなんと、美しく雄大か……
っと、そうであった。
奴の死体を確認せねばな。
最後の最後で詰めを誤る訳にはいかん。
「くくく、我が妹よ、見ているだろう? お前が手を貸した人間はこれこのように、我が眷属に手も足も出ずくたばったようだぞ。さぁて、これでもまだ立ち上がれるか、見ものよな?」
同レベル帯の強化兵が一撃で粉砕される衝撃だ。アイツが耐え切るとも思えんが。しっかりと死体を確認して勝利宣言せんとな。
さて、どこまで飛んだのか。
ベルーチの奴が動いてないということはあいつの意識が戻ってるわけではないらしい。
戦意を感知すればすぐ動くはずだからな。
つまり、戦意喪失しているか、あるいは戦意を向けるだけの意識がないか。
ああ、楽しみだ。この我を苦しめた愚か者の末路がまもなく見つかる。
さぁ、どうなった? どうなった!?
ゆっくりと、私はあの女の後を追う。
山の一つに激突したようだが、そのまま貫通したらしい。
人型大の穴が開いていたのでそこを通り抜けてさらに辿っていく。
随分と遠くまで飛んだな。ここまで飛んでしまっては原型がないかもしれん。
飛び散った肉片であの女を判別するのは難しいかもしれんな。
まぁ、それはそれで見るのが楽しみだ。
二つ目の山。これも貫通。
三つ目。まだ貫通。
どこまで飛んでいくのだあいつは?
まぁ少しずつ高度が落ちてきているから次の山辺りで、っと、あった。
あの山だな。穴が開いてるからよくわかる。さて、あの女は……
反撃を受けても問題はないが、不意の一撃を貰わぬよう警戒しながら穴を覗く。
光をかざしてみると、地中深くに埋まっていた。
血だらけながらまだ原型をとどめている女の姿。
全身粉砕骨折だろう。両手両足の原型は無くなっている。
意識もないらしい。
これはもう、無理だろう。
ここから戦線復帰は無理だろう。
つまり、勝ちだ。
完全勝利だ!
私は勝ったのだ!!
喜びそうになって、すんでで止まる。
危ない危ない。むしろ相手は人間、こちらは神だ。
勝って当然の相手に勝っただけで喜んではならん。
それは神としての威厳が無さすぎる。
「ふー。はー。よし、落ち着いた」
あとは全世界に宣言するだけだ。
ロゼッタ・ベルングシュタットは敗北した、と。
もはや人類に逃げ場はない。我が名を崇め恭順を示すならば救ってやろう。
さぁ、追い詰められた人類に、絶望の恭順を突きつけてやろう。
貴様等はこれより我が下僕となり、管理された世界で慎まやかに過ごすのだ、と。




