1869話、一般人、ヘルツヴァルデ防衛線6
SIDE:一般人・女性
不安しかなかった。
シンと静まり返った避難場では、様々な人々が映像というものを見上げて不安そうにしていた。
ライオネルから提供されたらしい遠くの光景を見せてくれる鏡のような魔道具らしいのだけど、今見えているのは各国の戦場だった。
一番耳目が集まっているのは、その中でもヘルツヴァルデ防衛状況。
各国の状況も軒並み存亡の危機に瀕しているけど、ここはもう限界も限界。
すでに兵士も冒険者も双神教神官も余裕はなく、増援として現れた闇組織の人たちが彼らと共に戦っているのが見える。
普段は兵士に取り締まられる側で、酷いことしかしているイメージがない闇組織の人だけど、他国の不甲斐ない兵士より断然強く、まとまりも良く、一時期町壁まで来ていたマギアクロフトのバケモノ兵を一気に押し返し始めた。
途中までは良かった。
それで勝機が見えた、と避難していた一般市民が歓声に湧いたくらいだ。
でも、それも一時期。
敵の増援が来れば人手が割かれ、せっかくの増援が意味をなさなくなっていた。
徐々に押し込まれつつある人類に、私たちなんの力もない存在はただただ震えるだけである。
「怖いわ、ターレス」
「大丈夫だよマイハニー。あんな奴らが来たって僕が張り倒してやるさ」
隣のカップルがウザい。
どう考えてもその彼氏の細腕では殴り殺される側にしか思えないのだけど、マイハニーさんは「ああ、ターレス、愛してるわ」と抱きしめ合ってるのだ。
せめて人前でキスするのだけはやめてほしい。子供たちもいるのよここ。
「お、おい、プライジャコリャの映像、見てみろよ」
「一般人が戦ってる?」
「国内に攻め込まれてるじゃないか!?」
「もう嫌ぁ!」
絶望的な光景に、続き、親竜共和国でも国内への侵攻を許してしまった。
映像に映るのは少女の前へと肉薄する強化兵。
嘘でしょ、一般人なのよ? 小さな子なのよ?
ああ、ダメ、そんな映像が流れたら、私たちも恐慌状態になってしまうわ。
強化兵が拳を振り下ろし、そして……
ショッキング映像が流れた。
でも、それは少女が飛び散るような悲惨なモノではない。
ショッキング映像ではあったけれど、その場にいた全ての人が唖然としてそれを見た。
空より飛来し、強化兵を押し潰すように現れた巨大なゴリラの姿を。
映像の中、現在進行形で現れた魔物たちの援軍を。
「魔物が、援軍?」
「お、おい、これ、ウチの映像見てくれ!」
「はは。何の冗談だ? 兵士とゴブリンが肩並べて戦ってやがる……」
意志を持たず本能のまま動くとされていた魔物たちが、人型も四足型も匍匐型すら人類と共に強化兵撃破を始めていた。
その魔物の数、およそ数十万。
一匹一匹はそこまで強くないが、協力すれば小型強化兵だけなら倒せるようだ。
これで余裕が生まれた冒険者や闇組織、そして体勢を立て直した兵士が中型強化兵の駆逐に動き出す。
凄い、何この奇跡。
見てよ皆、この感動、誰かと分かち合いたい位。
残念ながら近くにいるのはつるっぱげのおっさんと太ったおっさんと貴族っぽい太ったおっさんとバカップルだけなので分かち合うことができないけれど。
歴史的瞬間じゃないかしら? だって普段出会えば殺し合う関係の人間と魔物が共同戦線張ってるのよ。
守護者の代表はネメアの獅子という魔物らしい。
怖い容姿だったけれど、兵士たちを助け、冒険者たちと共闘するその雄々しい佇まいは、なんだかとても神聖な獣のようにすら思えてくる。
子供たちも獅子の奮迅する姿に興味津々。瞬く間に応援の声がそこかしこから上がる。
獅子さんがんばれー。そんな声に、なんとなく、先ほどまであった不安や恐怖がなくなった気がした。
「が、頑張れ!」
不意に、どこかのおじさんが声を上げる。
次の瞬間、そこかしこから、大人たちの声援が上がった。
神頼みをするように、縋る様に。
けど、徐々に皆、託すように声を出し始める。
「負けるなっ」
「頑張れっ、頑張ってくれ!!」
それは、自分たちの力では戦いに参加することすらできない弱い者たちによる、戦う者たちへの声援だった。
彼らがどう取るかはわからない。けど、私たちは応援する、負けないで。勝ってくれ、と。
自分では届かない、自分たちを守る為に戦ってくれている人たちに、魔物たちに、託すのだ。
「お願い……」
私もまた、祈る様に言葉を紡ぐ。
自分たちも生き残る様に努力すべきとか、他人任せにするな、って誰かが言ってるけど、私だってどうにかしたい、でも自分じゃどうにもできないの。だから、祈るように託す。
蔑みたければ蔑めばいいのよ。それでも、祈りたいの。戦ってくれてる皆が、勝って笑いながら無事に帰って来れるように。
「ロゼッタシンサマカワイイヤッター」
そう、ロゼッタシンサマかわ……何今の声援?




