1868話、一般人、親竜共和国防衛線6
SIDE:一般人・少女
絶望が走った。
眩しい光が町中を走り抜け、私の視界を覆い尽くした。
城内への避難では無理だ、ってお母さんたちが町の脱出を敢行しようと外に出た時のことだった。
お母さんに連れられて町中を走っていた私は、光の筋が通り抜けるのを見た。
次の瞬間、目の前の道路が焼けただれ、お母さんが呆然と立ちすくむ。
「何よ、これ……」
お父さんもすぐ隣で愕然としていて、先導してくれていたはずの冒険者さんが一人を残して消えていた。
光の筋は私たちの眼前を通り抜けていて、丁度生き残った冒険者さんと私たちを分け隔てるように、地面を焼き尽くしたのだ。
「お、おいあんた! どうしたらいいんだ!?」
「どうっつったって。あっつ!? ダメだ、この筋を越えて移動はしばらくやめとけ!」
こっちは逃げるために集まった一般市民ばっかりだ。
やっぱりお城に避難したままの方が良かったんじゃないかな?
無謀だったんだ、強化兵とかいうのを強行突破して脱出するなんてこと。
「っ! おい、逃げろ!! 強化兵が来るぞ!!」
残った冒険者さんが慌てて叫ぶ。
その叫び声に反応するように子供みたいな大きさの筋肉と浮き出た血管で出来た肉の塊が飛びかかる。
「小型ならまだなんとか!」
けど、その小型強化兵が一体だけなんてことは、なかった。十、二十と飛びかかって来られると、冒険者さん一人だけでは対処できないようで、肉の塊に埋もれて見えなくなった。
レベルカンストの冒険者さんらしいので死ぬことはないみたいだけど、それでも、彼の助けはもう、ない。
そして、やって来た小型強化兵は私たちを見つけてしまった。
「く、来るなァ!!」
「ば、バケモノ!?」
「い、嫌だ。死にたくないっ」
逃げようとしていた一般の人たちは戦う術なんて持ってなかった。
蜘蛛の子散らすみたいに一斉に逃げ出して、そちらから来た強化兵と鉢合わせしてしまう。
「こ、来ないでぇ!!」
お母さん!?
「逃げろ! 逃げろォ――――」
名前を呼ばれた。
相手がお父さんだと気付き、ふと背後を見る。
そこに、醜悪なバケモノが立っていた。
一歩、二歩、下がることは出来たけど、私にはそれ以上無理だった。
力なくぺたんと座り込む。
ああ、こんなことなら、パワーレベリングとかいうものに、参加しとくんだった。
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SIDE:一般人・少女の父
私は後悔していた。
貴族や商人のお偉いさんがこの国から逃げるぞ、逃げるメンバーを集っていたので、家族を守る為に、このまま城にいるよりは、と参加したのだ。いや、参加してしまった。
今考えれば逃げ場等どこにもない四方八方強化兵に囲まれた場所からどうやって脱出しろというのか。
カンストレベルの冒険者パーティーが手伝ってくれることになったからと安心して参加してしまったことを今更ながら悔やむ。
結果、冒険者パーティーは光の一撃で壊滅し、逃げ出した者たちは強化兵に囲まれ絶体絶命。
私の妻も娘も死を前にして、私はとっさに妻の体を引っ張った。
おかげで相手の攻撃は空振り、妻と私は縺れる様に倒れ込んだ。
娘は! 思った時にはもう、遅かった。
真上へと振り上げられた凶悪な拳。
強化兵の一撃がか弱い少女へと叩きつけられようとしていた。
ペタンと座った少女はその拳を見上げ恐怖で震え……私は娘の名を呼ぶが、伸ばした手は届かない。
ああ、神よ、なぜ。なぜこんなことを!
私は何をしたのです? 貴方にどんな非道をしたのですか!
私の命を差し出します。だから、だから娘を、妻を、殺さないでくれ。
お願いだっ、何だってする! 貴方の足を舐めろというなら喜んで屈辱を受け入れるっ。
だから、だからっ。
無情にも、拳が振り降ろされる。
伸ばされた手が空を切る。
娘が、愛しい娘が――――
ズドンっと、凶悪な一撃が鳴り響いた。
地面が陥没するほどの一撃。
それが、娘を殺そうとした強化兵に真上から襲い掛かった。
「……え?」
拳を地面に叩きつけ、強化兵を押し潰し、毛深い巨体が傅くようにそこにいた。
まるで娘に忠誠を誓うかのように、否。それはまるで、颯爽と駆けつけた守護騎士のように、巨大なゴリラが空から降って来た。
「……え?」
―― よく耐えた人間たちよ。これよりは、我らも手伝おう。ロゼッタ神の御名において、守護者ゴリリアス以下配下の魔物二十万、これより参戦いたす! ――
周囲にも、無数の魔物が空から急襲してきたようで、ことごとく強化兵たちを駆逐していた。
貴族も商人も男も女も分け隔てなく魔物たちが助けてくれた。
ゴリラが立ち上がる。
それは、我々人類に仇為すはずの魔物だった。
魔物だったが、その背はまるで、物語に出てくる英雄のようだった――――




