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1880/1986

1865話、ジームベルク、ファーガレア防衛線6

SIDE:ジームベルク


 辛いところだな。

 すでに戦力はほぼ放出した。

 残っている一般人たちには城に居ても逃げ場がないので、全体放送を行って僕らがいる町壁の上へとやって来て貰った。

 最悪、ミリアが力尽きてもまだ敵が押し寄せるようならば、僕の力を使って市民を纏めて海へと投げる予定だ。


 海洋の魔王たちには話を通してあるので、どうしようもない場合は一般市民を海へと逃がし、我々戦闘が出来る者は全力で抗う。たとえ、ミリアを残して死ぬのだとしても。僕は笑って死んでやろう。

 今度こそ、生きたい人生を生きれたんだって誇りながら死んでやるさ。


 前世を思う。

 生まれてからずっと、白い天井。白い壁、窓に映る景色は一切変わらず。

 ベッドの上で寝て起きてを繰り返す。

 起きてる時間だって呼吸器を付けたままなので寝た切りだった。

 歩ける時間なんて一切なくて、排泄物は全て他人任せ。


 いつ死ぬともわからない眠りと、全身を苛む痛みだけが人生だった。

 僕は一体何のために生まれたんだろう?

 何度自問自答しただろう?


 泣き叫んで僕の名を呼んでくれた両親は、いつの頃からか一切来なくなった。

 見知らぬ看護婦たちと医者だけが僕の知り合いだった。

 病院のベッドの上で一生を過ごす。

 ベッドで生まれ、ベッドで成長して、ベッドで死ぬ。


 あの日々では、自分の人生について何か思うことはなかった。

 知識を得た今世でようやく、前世があまりにも救いがなさすぎたんだと思いたることが出来たけど、前世の時にはそんな知識すらなかった。

 だから、感謝してるんだ。


 この世界で前世の知識を持って生まれたことを。

 絶望的な状況? 僕にとって今の状況すら幸福だと思うよ。

 何の知識もなく、何もできず、自分の状況すらわからず生きながら死ぬために過ごす日々に比べたら……


 抗えることの、なんと幸福な事だろう?

 足が動く、手が動く。自分の足で歩いていける。

 景色を見れる。皆と会話できる。皆を守って戦える。

 友達が出来て、大切な人が出来て、沢山の人がいる世界だと認識出来て。

 僕にはこの世界があまりにも幸せ過ぎるから。いつ死んでも幸福だったと言える人生になった。


「オルァ! 表の奴らはそこで震えてろや!」


 あらわれた闇組織の組員や暗殺組織、闇ギルドの男たちを相手にしたって、怯える必要すらない。

 僕はこの世界のあらゆる存在を愛おしいと思うよ。あの、ペルグリッドですら、僕にとっては良い思い出をくれた人だ。

 確かにマリアネージュと別れることになったのは辛い思いでだけど、そんな辛さも病院のベッドの上じゃ体験することもなかった貴重な経験なんだ。


 僕らを殺そうとしている兄神だっけ? 彼にだって僕は感謝してるんだ。

 この世界に転生させてくれたから、僕は僕としてミリアと出会えた。

 だから、どんな結果になっても僕は笑って死ねるんだ。

 ただ、ただミリアだけは。

 ミリアだけは、生かさなきゃ。


「んじゃ、行ってくるぜぇ」


 闇組織の人たちも重い腰を上げたようだ。

 結界から飛び出て兵士たちに合流すると、個人個人ながら獅子奮迅の働きを始める。


「本当に、総力戦だな……」


「シュヴァイデン総大将?」


「いや、今まで訓練ばかりの日々でね。お嬢に言われて奮起したはいいが、この数年、脳裏にかすめてたんだ。どんだけ強くなったとして、それを披露する戦場なんか生きてるうちにあるのだろうか、と」


「ありましたね。しかも割とすぐ」


「まったく、とんだ人生だ。だが、悪くない。絶望的な状況なのにな」


「分かる気がするよ。皆生き残るために協力してる。なんか、素敵だな」


 戦場で戦う兵士たちを見て、怯えるだけだった一般人たちも震えるだけを辞めた者が何人も現れていた。

 食堂のおばさんはフライパンを片手にいつでも参戦できる、といった心意気。

 不平ばっかりだった貴族はむぅっと唸り、自分でも何か出来ないかと考え始めているようだ。

 執事に命じて自宅に隠し持っていた食料などを開放すると言い出していた。


 時刻は夜を越え、明け方近く。

 夜通し戦ってくれた兵士たちは未だ疲労を口にすることすらなく、奮闘を続けている。

 敗残兵となった者たちもここまで戻っては来ているが、辿り着いた先に見つけた市民の顔を見て、なぜか愕然としている。

 まるで自分たちが守るべきものが今更ながら分かった、そんな顔だった。


 だから、だろうか?

 衛生兵や神官により傷の手当てを受けた兵士たちは不平不満を言うことなく再び戦場へと戻っていく。

 その顔は、先ほどまでの敗残兵ではなくなっていた。

 何かを決意し、覚悟を決めた漢の顔で、小型強化兵へと向かっていくのだ。


 そんな姿を見た市民もまた、戦場近くの医療班チームへと向かい、手伝いを始めたり、自分たちが出来ることを探して動き出す。

 生き残るために、一人一人が立ち上がり始めたのだ。

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