1862話、ナッシュ、ライオネル防衛線5
SIDE:ナッシュ
ああ、来てしまった……
ライオネル王国町壁の上に佇み、僕は遠くを見つめる。
そこには巨大な筋肉達磨を相手に、小さな、小人みたいな兵士たちが必死に激戦を繰り広げているのが見えた。
対比するせいで小さく見えるけど、あの小さく見えるのは人形や小人じゃなく普通の人間だ。
つまり巨大強化兵があまりにも大きいってことがよくわかる。
はぁ、何でこんな場所に来てるんだろ、僕。
元クラスメイトたちは学園の皆と共に邪神洞窟内に避難してるっていうのに、辛いなぁ。
何でこんなこと引き受けちゃったんだろ?
「どうした、マイダーリン?」
「いや。思えば遠くへ来たもんだ、とね。冴えない一般の下位貴族だったはずなんだけどな。今じゃ闇組織アルケーニスの頭首か。ほんと、僕にはもったいないくらいの大組織じゃないかな?」
「なんだ、俺が妻では不満か?」
隣にいるのは美少女。
年齢は不明だけど僕よりも若く見える。
元、アルケーニス首領様は仁王立ちで戦う兵士たちを眼下に収め、にぃっと好戦的な笑みを浮かべている。
「大満足だよ。大満足過ぎて僕じゃもったいない」
「そんなことはないと何度も言っているだろう。全く、惚れさせて傀儡にしてやろうと思ったのに俺の方が激惚れするとはなぁ。さぁ、さっさと奴らを駆逐して愛を育もうじゃないか。子供は何人欲しい? いくらでも生んでやるぞ。どうせ後々頭首の座を巡って殺し合うから多いい方がいい」
「殺し合いはやめてほしいなぁ」
なんでそんな殺伐とした兄弟になるんだろうね。暗殺組織だからかな。ちょっとそういうのはやめてほしいです、本気で。
「でもまぁ。さっさと駆逐してアルケーを抱きしめたいから頑張るか。行こうぜ、マイハニー」
「はぅっ!?」
アルケーの手を握って引き寄せ、背後に佇む野郎共に声を張り上げる。
「お前たちの腕の見せ所だ! 暗殺組織の実力を全ての奴らに見せつけてやれ! アルケーニス、出るぞ!!」
怒号のような歓声と共に組織の組員たちが我先にと町壁から飛び降り、近くの小型強化兵へと殺到していく。
あ。あそこにいるのはケロちゃん商店のところで細々食いつないでる闇組織の人。組織名忘れちゃったから軽く手を上げて挨拶だけしておく。
「くけけけ。見たかダーリン。あいつらダーリン見てビビってたぞ」
いや、あれはアルケーに恐れをなしてたんだと思うよ。
「と、ところでダーリン。いつまで抱きしめられてるのだ俺は?」
「せっかくだし大型以上と当たるまで。もうちょっと抱きしめておきたい」
「お、おぅ……」
あれ? 黙っちゃったな?
まぁいいや。おとなしくしてくれてるなら動きやすいし。
「あ。ロメリーさんお久です」
「おや、相変わらずラブラブですねナッシュさん。学園以来です」
大型強化兵見っけ、と思ったらすでに先客。
ヴァルキューレ部隊のロメリーさんとルーディアさんが戦っていた。
少し離れたところに隊長のペリッシュさんも戦っているのが見えるので、この辺りの大型はヴァルキューレ部隊に取られたと思っていいだろう。
学園の守護を担っていたライオネル兵の女性部隊もどうやら戦場に出張っているようだ。
となると、エインフェリアの方も……あ、いた。かなり離れた場所だけどやっぱり大型に挑んでいる。
いや、ルークさんだけは巨大型に仲間と挑んでるな。
ふむ。しょっぱなから巨大を狩るのもありか。
「あれ? 戦場に子供?」
「あー、ナッシュさんお久~。プライダル商店組でーす」
あー。彼らも戦場に来てるのか。小さいのに頑張るなぁ。
さすがに大型以上には挑んでいないようだけど、中型小型を各地に散らばって狩っているようだ。
彼らのおかげで他国の兵士たちもかなり戦いやすくなっているらしい。
「あ、ちょうちょ」
「ちょぉい!? シラササどこいくのぉ!?」
さすがに戦場で蝶々はいないだろ。本当にどこ行く気……あ、一匹誰にも気づかれずに包囲突破しそうな強化兵に突撃していった。
ふむ。心配なさそうだね。ここは子供たちにお任せしてさらに前線に向かおう。
大型、巨大型が増え始め、対応する冒険者や兵士に歴戦のメンバーが多くなり始めた頃、ようやく獲物が見つかった。
「アルケー、行くよ!」
「っ!? お、おう、任せろ!」
熱に浮かされたようにぽーっとしていた彼女だけど、僕から離れた瞬間スイッチが入ったようで両手に短剣を構える。
「って、ダーリンこれ超巨大型!?」
「誰もこいつに挑んでなかったからちょうどいいでしょ! ささっと狩ろう」
「二人で!? 無茶振りが過ぎるのでは?」
「そうかな? ほら、結婚して初の共同作業じゃない?」
「そうだっけ? そうだったかも……? 共同作業。愛の、共同作業! なんかやれそうな気がして来た!」
僕らなら問題なくやれるでしょ。
何しろ、相方はアルケーニスの真なる首領様なんだし。




