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1875/1986

1860話、プレッツィル、ヘルツヴァルデ防衛線5

SIDE:プレッツィル


 戦線は膠着した。

 遠くからまだ強化兵の群れが来ているが、目に見える範囲だと小型ばかりに見える。

 中型以上が混じるとまだわからないが、小型だけであれば今の戦力で十分対処できるだろう。

 大型に対応している冒険者や兵士の手が空けば加速度的にこちらの勝利に近づく。

 逆に一体でも超巨大型が追加されれば加速度的にこちらが敗北するだろう。


 まだ、どちらにだって転びかねない戦況だ。

 気を抜いた瞬間堤が決壊するように一気に敵が押し寄せる可能性がある以上、一切気が抜けない状況が続いている。

 普通に夜更かしするだけなら二徹くらいまでなら可能だけど、私の疲れ具合は既に二徹目後半と言ったところだ。

 疲れ方がいつもの倍は体にのしかかっている。


 私は指示出しをしているだけだからまだマシだ。

 兵士たちも冒険者たちももう数時間、下手したら十数時間は戦っているだろう。

 おそらく脳内の何とか汁? お嬢の言っていた言葉は忘れてしまったが、脳汁とやらがどばどばと放出されていて疲れてる体に気付けないのだろう。


 気が抜けた瞬間その重しが一気に押し寄せ指先一つ動かせなくなるほど激闘を繰り広げているだろう彼らに感謝しながら、私は指示出しを継続する。

 兵士たちだけでは止めきれなかった。

 ライオネル兵が無敵に見えたがそれもまやかし、彼らも人であったのだと気付かされたのは相手の強化兵があまりにもバケモノだったからだろう。


 ライオネル兵に任せてしまえば国だって守れる。そんな他人任せな期待はまやかしだった。

 自分たちも全力を尽くさなきゃいけないと気付いた兵士たちは、しかしその時にはもう満身創痍、士気も下がり切っており、立ち直ることはできなかったようだ。


 代わりに、戦えなくなった兵士の穴を埋めてくれたのが、有志の冒険者たち。

 正直言えば、水と油だ。兵士たちにとっては命最優先で金にならない討伐にやる気を出さない冒険者たちは金の亡者、粗暴な輩といったイメージがあり、嫌う傾向がある。

 兵士たちのそんな態度を知っているからこそ冒険者たちも兵士たちをお高く留まりやがって、と毛嫌いする傾向にある。


 けれど、今は違った。

 粗暴な冒険者の怒号が飛び交い、兵士たちと口喧嘩しながら背中を預けて戦う姿。

 恐怖に崩れた兵士の腕を掴み上げ、叱咤しながら助ける冒険者。

 逆に経験不足で窮地に陥る冒険者を庇い、共に協力する兵士たち。


 凶悪な敵を前にして、徐々に連携が取れ始めていた。

 そこに、双神教の神官たちによる回復と補助強化が入ったことで押し込まれていた戦線が盛り返してきたのだ。

 ここまでくればあと一歩。

 しかし、そのあと一歩が踏み出せない。


 敵の増援速度が速く、倒せる敵は再生能力のせいで少ない。

 結果的に膠着状態が生み出されていて、どちらに転ぶかまだ分からない。

 すでにここ、ヘルツヴァルデの戦力はすべて投入したと言っていいだろう。


 ここで崩れてしまえばもう後はない。

 後はない、そのはずなんだ。


「東軍から強化兵抜けました! プレッツィル王指示を!」


「回せる兵は!「おりません!」冒険者は!「お、おりません!」では……」


 いない。一匹だけ、包囲を突破した強化兵を倒せる人材が、いない。

 いや、いるか? 私がいる。いるけれど……


「おぅ、国王陛下さんよ」


 焦る私に、背後から声がかかった。

 誰かと振り向けば、見たこともない人物。

 ただ、一角の存在であることは見ただけで分かった。

 その人物は、ある意味国王以上の権力を持った存在であると、その存在感が物語っていた。


「貴方は……」


「なに、国の一大事だ。俺らもよぉ。闇に籠ってるわけにゃいかねぇと思ってな」


 ごつい体に厳つい顔。目元に着いた三本傷は魔物にでもやられた古傷だろうか?

 葉巻をくゆらせ、どこか一般的な存在とは浮いている、常時であれば話しかけただけでバッサリ殺されそうなほどに、鋭い視線で私を射貫く。


「表が滅んじまうと商売相手もいなくなるんでな。いるんだろ? レベルカンストの人手がよ?」


「いる、のか? 兵士も、冒険者も、神官ももう余分が居ない。なのにまだ、この国に戦力と呼べる存在が、あるのか……?」


「……あるさ。清浄だけが世界じゃねぇ。国にもまた、あんだろ? 濁った場所がよ」


 それは、まさか……


「仕事だ野郎共! 堅気の奴らに目に物みせたれや」


 見るからに危険な風体の男たちがどこからともなく現れ、男に頭を下げて去っていく。

 そのうちの一人が、町の東門町壁上へと一気に駆け抜けそのまま落下。

 町壁を打ち壊そうとしていた小型強化兵に真上から落下して斬り潰す。


「あんたたちは、まさか!」


「ヘルツヴァルデ、その他周辺国の闇組織って奴だ。兵士共が居なくなった後に国家転覆でもと思ってたんだがよ。さすがに滅んだ国の主になっても何の意味もねぇ。ふがいねぇんだよ表の連中は! 手伝ってやるからよぉ便宜、図ってくれるよなぁ、国王陛下ァ?」


 や、ヤバいのが表出て来た……

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