1634話、ロゼッタ、救い無き少女に、手を
二日目の訓練、まさかの夕方から大雨が降るとは思わなった。
まぁ降ったからといって訓練しない訳じゃないけどね。
皆雨の日はさすがにやらないだろ、と思いつつも集まってきたようで、マジでやんのか? と不安そうに結界内に入ってきて、濡れてない訓練場に驚く。
それから時間を短縮した日中訓練組と同じ訓練を行う。
皆さん筋肉痛らしく動きは悪いけど、むしろ久々の筋肉痛なんだ、と周囲と話し合いながら楽しそうに訓練を受けていた。
この分なら脱落者も少なそうだねぇ。
ストレッチから基礎訓練、基礎計算に教養、そして鬼ごっこを、と行っていた時だった。
結界に感アリ。
なんだ? とそちらに意識を割けば、そこに一人の少女がふらふらと歩いているのが見えた。
あれは……テテちゃん? 確か昼の訓練でも頑張ってて楽しそうにしてたはずだけど……
顔を見て理解する。
あれは拙い。
放っておけば確実に堕ちる気配を纏わせている。
自殺するか、自暴自棄になって暴れまわるか。最悪なのは極悪人に拾われて悪逆の限りを尽くすこと。なまじレベルが300はあるので他国で暴れられると対応が遅れかねない。
それくらいに、絶望しきった目をしていた。
誰だあんな顔させた奴は。
ろくなことしない奴がいるもんだ。
キーリに視線を向ける。
何かを察してくれたキーリは異変に気付いて足を止めようとした訓練メンバーに気にせず続けやー。と指示を飛ばす。
その間に私はふら付く彼女へと歩み寄り、視線を合わせて中腰になる。
「テテちゃん。どうしたの?」
「……あ」
声を掛けられてようやく自分の居る場所を理解したようで、瞳に光が戻ってくる。
ただ、すぐに涙に滲み、泣きそうになりながら私に近づいて来た。
ずぶ濡れだから常識を考えれば貴族相手に抱き着くなんて切り捨てられても文句が言えない、と理解しているはずだけど、そんなことも考えに及ばないくらい、彼女は切羽詰まっているらしい。
抱き着いて来た少女を優しく受け止め思うままに泣かせてあげる。
この感じは、おそらく……自分を繋ぎとめていたはずの柱が壊れた時のモノだろう。
OL時代にたまにいた。
身を粉にして必死に働いていた派遣社員が、会社の不況を理由に唐突に解雇された時の絶望顔。
必死に毎日残業残業でふら付きながら会社に来ると、君、明日から来なくていいよ。課長に告げられた時の絶望の顔だ。
課長に縋りついて泣き叫んで、今まで尽くしてきたじゃないかと罵声を浴びせ、それでも無碍なく切り捨てられる。
あの理不尽は、見てて辛かった。
でも、現実は非情だ。社員を守るために派遣は最初に切り捨てられる。
いかに優秀でどれほど会社に貢献しようとも、別の派遣先があるからって簡単に切られるのだ。
絶望顔で会社を去っていく彼らがその後どうなるのか、私にはわからないし、構っている余裕なんてなかった。お局様として皆に煙たがられていた私は、社員であれども結果を出し続けなければいつ次にクビ切られても不思議じゃなかったから。
「辛いかもしれないけど、何があったか教えてくれる?」
ひとしきり泣いた彼女に声をかける。
伝えたいことは溢れすぎ、言葉の羅列が別々で、要領を得ない言葉が紡ぎ出される。
それでもなんとか文章に直していけば、彼女の父と母に原因があるようだ。
もともと、彼女には病気の母がいた。
それと、お酒好きの父親がいるようだ。
影の人が調べた時には親父さんいなかったらしいけど、帰ってきたのかな?
いや、どうやらテテちゃんは嫌ってるみたいだな。
……ん? 待って。待って。待って!? 体を売る? 何でそんな話が出てくるの!?
うあぁ、マジかぁ。そういう家庭事情か。それは多分救いがない奴だぞ。
これ相談されても……っていうか私に相談に来たのがどう話を聞いてもあの教祖に唆されてるぞ!?
でも、話を聞いた以上はさすがに捨て置けないし、なんかあの教祖にいいように乗せられてる気がするな。あと巫女ってなんだ。アイツ一体何考えてんだ? というか、まさかと思うが未来見えてたりしないわよね?
あの教祖、容姿が人外じみてるから普通に未来視とか予知とかのスキル持ちだったとしても不思議じゃないんだよ。
しかし……参ったなぁ。こりゃさすがにちょっと突き放しするのはやめるべきだし、かといって関わり過ぎると依存させそうだし。
とりあえず、今日は私の家で保護するのが一番かな。
あと教祖に何のつもりか聞いておかないとだね。
よしよし、よく頑張った。今日はゆっくりお眠りなさい。
ぽんぽんっと背中を叩いてあげていると、徐々にうとうとし始める。
うん、今は何も考えなくていいから。ひとまず眠るんだよ。
さて、魔法で浮かせてふわふわ感で眠らせてっと、音もシャットダウンさせといた方がいいかな。
とりあえず今は訓練を優先させよう。
この子については、影の婆ちゃん、悪いんだけど至急家族構成と現状の把握よろしく。
風魔法だと音だけだからね、申し訳ないけど動いて貰おう。




