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1633話、テテ、導きのままに

SIDE:テテ


 どれくらい時間が経っただろうか?

 すでに夜の帳が落ちて、暗く黒い雲からは無数の雫が落ちてきていた。

 人々の姿はすでになく、激しい雨音だけがあたりに響く。


 自分は、どうすればよかったんだろう?

 強い力を手に入れて、お薬まで手に入れて。

 父を追い出せば幸せになれると思っていた。


 私も、きっとお母さんの思いを考えてなかったんだろう。

 自分の考えを押し付けるのは、父と同じだ。

 でも、あの家にはもう、戻れない。戻りたくない。

 父はきっと、私のお金もお酒につぎ込む。


 すぐに資金は無くなって、生活苦で体を売ることになって、父の酒のためだけに私もお母さんも使い潰される。

 それが分かってるのに、なんで……お母さん。

 どうして、それでも父についていくの? 父との生活なんてどう考えても自分がドツボにハマっていくのは分かってることなのに。

 幼い私ですら分かってるのに、なんで……


「男と女の関係は、常識では測れぬものです」


 雨音に消されそうな、でも、その声は確かに耳に届いた。

 ずぶ濡れの髪で前が見えないけれど、私は弾かれるように声のした方を振り向く。

 聞き覚えがあった。

 しわがれた声はいつか出会ったあの老婆の……


「あなた、は?」


「迷える子羊に道を指し示しに。巫女様、神を訪ねなさい。神が全てを解決してくださいます。ただし、決して神を間違えないように……」


 どういう……あ!? ちょ、待って! それだけ言って消えないで!?

 髪を掻き分け老婆を探す。

 しかしその姿は雨に紛れて一切見えない。

 周囲が暗いことも理由だろう。


「……神を、訪ねる? あのお婆さんの言う神って、双神教じゃなく、ロゼッタ様、だよね? シュクネお姉さんに聞いたらロゼッタ神教の人だろうって言ってたし。でも、神を間違えるなって、どういうこと?」


 と、ともかくロゼッタ様を探せばいいの?

 今の時間だと夜勤訓練に出てるかもだけど、大雨だしいない、よね?

 じゃあ領主邸?


 えっと、ここから領主邸はどう行けば……

 思い出せ、面接の時向かった場所、ここからどう行く?

 ここは……あ、この通りか、だったら……


 ずぶ濡れになりながら夜の街を駆け抜ける。

 体力だけはレベリングで有り余ってるから領主邸までは難なく辿り着けた。


「うわ、こ、子供?」


「おいおい、ずぶ濡れじゃないか、雨具どうした?」


 門の前にいた兵士さん二人が私に気付いて思わず声をかけてくる。


「あ、あのロゼ……」


「そこ、邪魔よ」


 へ?

 真横をすっと通り抜けていくロゼッタ様。

 驚く私のすぐ隣を、金色の髪を靡かせ、雨に濡れることもなく歩き去っていく。


 兵士たちは迷いなく門を開き、ロゼッタ様も気にすることなく立ち去っていく。


「ま、待ってくださ……」


 声を掛けようとして、違和感に気付く。

 ロゼッタ様は一瞬振り向き私を流し見、興味はないと再び正面向いて去っていく。

 扉が閉まる。

 門の先へと消えていくロゼッタ様は、どう考えても私のことなどどうでもよさそうに立ち去ってしまった。


 いや、違う。

 アレは、多分、違う。

 あのお婆さんが言っていた、神を間違えるなって、ロゼッタ様と双神教の間違えじゃないんだ。あの金髪のロゼッタ様モドキとロゼッタ様を間違えるなってことだ、たぶん。


「あ、あの、さっきの人、ロゼッタ様、ですか?」


 一応、不安はあったので兵士さん二人に聞いてみる。

 これでロゼッタ様だって言われたら私はもう、浮浪児確定だ。


「ん? さっきのお方か? あちらのお方はロゼお嬢様だ」


 ろ、ぜ? ロゼッタ様じゃなく?


「で、でしたら、ロゼッタ様は、いらっしゃいますか!」


「ロゼッタお嬢様か。まだ帰ってないよな?」


「今の時間ならロゼッタ騎士団夜勤部隊の訓練中じゃないか?」


「大雨ですよ!?」


「ロゼッタお嬢様だぞ?」


「まぁ、雨天決行だよな。たぶん結界張れば濡れないんだよ。みたいなこと言ってんだぜ」


 結界? と、ともかく、ロゼッタ様はまだ訓練場にいるってことなのね!

 こっちに来ず訓練場に向かえばよかった。

 私はすぐさま走り出す。


「って、おい、雨具!?」


「いや、速いな!? レベリング受けた子供か?」


 兵士さんたちもレベリング知ってるんだろうか。

 まぁいいや、それよりも、訓練場だ。

 入れ違いにならないよね。不安に押し潰されそうになりながら、縋りつくように必死に走る。

 ロゼッタ様っ。ロゼッタ様っ。教えてくださいっ。私は、私はっ……


「はい、じゃー、鬼ごっこするんだよー」


 聞き覚えのある元気な声が高らかに響く。

 なぜだろう。あの声を聴くと救われた気分になってくるのは?

 声に導かれるように、私は走るのをやめ、ふらふらと近づいていく。

 まるで、焚き火や篝火へと向かっていく虫のようだった。

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