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1632話、テテ、お母さんのばか

SIDE:テテ


 腕立て伏せってそんな大変なんだ。

 罰ゲームを受けた三人の大人を見て、私は驚いていた。

 運動不足だからってこともあるかもだけど、皆、たった十回の腕立て伏せができなかった。

 勢いよくやってたお兄さんも八回超えると上がらなくなったようで突っ伏し、お姉さんは三回でダウン。オジサンはなんとか頑張ってたけど六回目でダウンした。


 それでも時間は沢山あったので震える腕で皆やり切った。

 そんな辛いかぁ? っと子供たちもやってみたりしてたけど、皆十回はできなかった。

 私やお爺ちゃんたちならたぶんできるだろうけど、それはレベリング済みだから。元の実力だったら確実に一回目か二回目で潰れてると思う。


 それからも訓練はあったけど結構楽しんで終わった。

 ロゼッタ様も厳しい訓練を行うつもりはないようで、老若男女揃って楽しめる訓練を行っていくようだ。

 とはいえ一週間後にどうなるかは不明だけど。

 ひとまずそれまでは今日みたいな訓練になるんだろう。


「ありゃー、夕方から雨降りそうだなぁ。夜勤部隊どうしよ? まぁ結界張ればいいかぁ」


 そんなロゼッタ様のどうでもいい呟きを聞きながら、訓練が終ったので私は帰路に就く。

 今日も頑張ったし、このまま訓練を続けていけば正式採用も近いだろう。

 そうなったら給料が入るから、お母さんを楽させてあげられる。

 父は、もうどうしょうもないし、お酒絶ちしても暴力的なところ治る気なさそうだもん。残念だけど追い払うしか……


 あ、れ?

 家に帰り、扉を開けた瞬間、今日も漂うお酒の臭い。

 なんで? ありえない。父は追い払ったはず。お母さんにはあいつが来ても開けちゃダメって……


「お母さん!」


 慌てて家に入る。

 居間へと向かうと、やっぱり入ってた。

 酒瓶をぐいっと飲んでいる父の姿。

 どうしてここにっ!?

 思わず拳を握った瞬間、父がこちらに気付く。


「よぉ、テテ。拳なんか握ってどぉーしたぁ?」


 なぜか余裕満面、勝ち誇った顔で告げる父。

 訳が分からず困惑する私に、居間の奥にある部屋から誰かが出てくる。


「お母さん!」


「テテ……その、ごめんね?」


「お母さん?」


 ごめんって、なんのこと? 父を家の中に入れたこと?

 追い出せばいいよ。それで終わりだもん。


「私、やっぱりこの人がいないとダメなの」


 ……え?


「なんだその面? 言葉の意味わからなかったのかぁ? この女はなぁ、俺がいねぇとなぁんにもできねぇのよ」


 な、に……そ、れ?


「離れてみて、わかったの。こんなひどい人だけど、私が愛しているのはこの人なの、この人しかいないのっ!」


 お、お母さん? で、でも、父は殴るよ? お酒飲んでばっかりだし、仕事しないし、お金食い潰すし、いいとこ一つもないんだよ?


「ごめんね、テテ。だから、あの……お父さんにごめんなさいして、一緒に三人で住もう?」


「けけけ。そうだぜテテ。お前が給料貰ったら親としてしっかり管理してやっからな。ああ。なんだったら売りやるか? いいとこ紹介してやっから、いい男沢山で楽しいぞー」


「あなた……」


「金、ねぇんだろ。お前も体売れ。元気になったんなら十分稼げるだろ」


「で、でも……」


「お母さん! こいつこういう奴だよ! これ以上はダメだよ、こんなのと一緒にいる意味ないよ! 二人で暮らそ! こいつと一緒だとお母さん不幸になるだけだよ!」


「実の親に対してよく言えるなぁオイ。ったく、ガキがほざいてるが世の中ってのを知らなさすぎだろ。おら、どうすんだ? クソガキか俺か。好きな方を取りな」


 どうやら私に対して殴りかかると仕返しが来ると分かったようで、イラっとした顔こそするが、肉体言語で言い聞かせようとする気はないらしい。

 代わりに、父はお母さんへと選択肢を放り投げる。

 私は思わず両手を握って祈る。お母さん、間違った選択しないでっ。


「ごめんなさい」


 それだけ告げて、お母さんは父の後ろに立つ。

 なんで……

 これだけ酷いこと言われて、体を売って酒代稼げとか言われても、なんでその人についていくの!?


「っつー訳だ、テテ。ガキの我儘はここまで。次はお前の選択だ。ここを出て浮浪児になるか、家族三人で幸せに暮らすか、選べ」


 幸せって……なんだろう? こんな父と一緒に暮らすのが幸せだっていうのなら……

 お母さんがどう頑張ってもこいつから離れる気はないっていうのなら……

 でも、でも私が守りたいのはお母さんで、お母さんは守られたくなくて、私は、わたしは、ワタシハ……


「あああああああああ―――――――――――――っ」


 頭の中で何かが空回りする。

 思考になり切れない言葉の羅列がタップダンスを踊ってる。

 言葉にしたいものが見つからず、考えたいことが繋がらず、思わず叫んで走り出す。


「お母さんのばかぁ――――っ」


 この日私は……生まれて初めて――――家出した。

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