1615話、果ての死神、理不尽の暴虐がここにいる
SIDE:果ての死神
全ての業務を私兵団に引き渡し、私が路地裏へと戻ってくると、丁度こちらにお嬢が戻ってくるところだった。
「いやー、まさかライオネル兵の落ちぶれたのがいるとは思わなかったんだよ。可能性はあり得るとはいえ、本当に出会ってしまうとちょっと泣きたくなるよね」
「ああ、そちらにもいたんですか。こっちもさっき、十年前から居た元ライオネル兵を倒したところです」
「弱かったでしょ。レベリング前だったから楽だったかな? こっちは3000レベルの落ちぶれたライオネル兵が居たんだよ。このレベル帯で落ちぶれるのは珍しいんだけど、フェイル直々にクビを言い渡したやつだったから仕方ないかなぁ。まぁ見つかってよかったんだよ」
あれ。それってお嬢側を私が任されてたら私の方が瞬殺されていた奴では?
あ、危なかった。
あの分かれ道の時お嬢側選択しなくてよかった。
「なんでそんなのが落ちぶれたんです?」
「パワーハラスメントでちょっとやらかしてねぇ。何度か苦言伝えたらしいんだけど、短気だからカッとなると暴言のオンパレードで部下が精神病んじゃって。これ以上はダメだ、と古参が会議開いて、それでもライオネル兵で居させるわけにはいかない程態度が目に余るってことでクビにしたんだよ」
「はー。それでなんでまたお嬢のお膝元と呼べるここに?」
「アレだね。可愛さ余って憎さ百倍って奴? 尊敬するからこそ認めてくれないことに憎悪を募らせたって奴だね。結構いろいろ言われたんだよ」
それは……お嬢だって人間なんだから全員に好かれることはできないことくらいわかってるけど、罵声を面と向かって浴びせる奴がいるのか。
「どうしたってそういうのはいるからね。まぁグーパンで黙らせてこう、コキッと」
首捻ってません? その動きだと一回転くらいしてる気がするんですけど。
「私、自分が本当に失敗したと思うことはちゃんと怒られるし反省するんだけどね、相手の勘違いとか、理由も聞かない理不尽な怒りとか、突然怒鳴りつけてマウント取ろうとする奴の話は聞く気にならないんだよ。どうせこういうつもりでやったんだろとか決めつけてくる奴。とりあえず殴りたくない?」
「は、はぁ……」
相手の地位の方が上ならさすがに殴れないけど、この人侯爵令嬢だからなぁ。大抵の相手には殴ることで解決できちゃうんだなぁ。
「常識ないのか、とか言われても、お前の常識世界の非常識ぃって顔面殴りたくなるんだよ。そもそもこっちはこっちの常識で動いてるのになんでそんなこと言われなきゃいけないんだろうね? そっちこそ常識がないんだよ」
これはどっちもどっちの奴だろうなぁ。
きっと昔なんかあったんだろう。お嬢からドス黒いオーラが漏れてるので思い返して殺意を抱いているとみた。
「あの課長、自分の常識のなさ棚に上げて周囲に当たり散らして……っと失敬。それよりこっちどう?」
「存在していた組織は片付いたかと。闇組織はこれでもう全滅ですか?」
「別の路地裏から行ける場所にまだ数か所あるかな。手伝ってくれる?」
「乗り掛かった舟ですし、ご同行しましょう。ああでも、レベル3000の敵とか私には勝てませんからね」
「了解」
それからもいくつかの闇組織を潰して回る。
正直に言えば突然現れて自分の創った組織を粉砕していく歩く災厄がピンポイントで自分の元へやって来た組織の首領たちにとっては、お嬢は理不尽の暴虐だろうと思う。
もう、見てる私でも震え上がる程の圧倒的暴虐だもの。
逃げようとした組織丸ごと空に浮かせて行動不能にするとか。そのまま地面に叩きつけて建物との間に挟もうとしながら交渉してくるとか。
逆らったら確実に終わるし逆らわなくても人生が詰む。首領さんたちは生きた心地しないだろうな。
情報遮断もしっかりしてあるので他の組織が察知して動く前に撃破出来てるし。
たった一日でベルングシュタット侯爵領に巣食う闇組織は残す一つとなっていた。
残りの一つは、まぁそこまで大きくない闇組織なんだけど、どうも表の商売を隠れ蓑にしていて完全秘密裏に行動しているようでなかなか尻尾が掴めていないらしい。
今までの私兵団であれば手の打ちようはなかったけれど……
「はーい、領主監査でーす。逃・が・さ・な・い・わ・よ?」
理不尽さんいらっしゃい。
表向きの業務施設に殴り込んだお嬢は周囲の施設関係者が止めるのも聞かずに領主だから、の一点張りで機密施設に突入。そこで働かされていた奴隷を発見して即座に摘発。
あー、こんなところにらいおねるではきんしにされているどれいがおるではないかー。と棒読みで捕縛命令だしていた。
たぶん、初めから分かっていたのだろう。
もはや捕まるしか選択肢がなかった最後の闇組織も徹底的に解体され、闇組織がベルングシュタット侯爵領から一掃された。
あとはどれだけ維持できるかだけど、どうするつもりかなお嬢は?




