1614話、果ての死神、弱すぎて嫌になる
SIDE:果ての死神
「おいおい、クソガキじゃねぇか。まぁ女なら楽しめるからいいが」
うわぁ、初っ端からそういう態度ですか。
全身の筋肉は確かに鍛えてるように見えるし、態度からも自信が溢れて見える。
けれどレベルは70だ。
基本ライオネルで訓練すれば数週間でパワレベが行われる。
つまりまぁレベル200がほぼデフォルトなのだ。
けれどレベルはソレに届いていない。
つまりこれはライオネル兵だと偽っているのか、実際に兵士に入団して即辞めたか。
彼の背後にいるのがここの首領だろうか?
でっぷり太った男は下卑た笑みをこちらに向けている。
私の射線を理解しているのか、男の小脇からそいつが覗きそうになると位置を変えて巧みに逃げている。
どうやらこの男を倒さないとあいつを暗殺するのは無理らしい。
ささっと首領の方から片そうと思ったけど無理か。
「おいおい。どうしたクソガキぃ? 俺の容姿にびびっちまったか? だったらケツ向けて服を脱ぎな」
「おバカですか? わざわざここまで来てる敵性存在がそんな阿呆なことするわけないでしょう。筋肉付け過ぎて頭の中まで硬くなってるんですかね」
あ。この程度の挑発で乗ってきちゃった。
「このクソアマァ! ぶっ殺す!」
ダメだこいつ、沸点が低すぎる。
そして大剣をこんな狭い場所で振るようなオツムの弱さ。
これはライオネル兵に志願だけして面接で落とされたタイプね。
廊下の壁を切り裂きながら地面に落下してくる大剣。
あまりにも振りが遅いので歩いて避けると、それが挑発に映ったらしい。
さらに激昂して振り回し、壁に深々と突き刺さって抜けなくなった。
焦ったようで必死に剣を引き抜こうとしている姿があまりにも滑稽だ。
何でこんなのを用心棒にしようと思ったんだろうか?
とりあえずこれを無力化した後で首領さんに尋ねてみるか。
「ぬがあああああああああああ!」
あー。足まで使って壁から引き抜こうと必死だ。
そんな男の後ろに向かうと、短剣の柄で首筋に一撃。
弱っ!?
あっけなく意識を失った男を縛り、私は残った首領の元へと向かう。
「ば、馬鹿な!? 奴は話題のライオネル兵出身者だぞ!?」
「あの程度で兵士とは片腹痛いですね。貴方、騙されてますよ」
「な、なんだと!? 奴は十年以上ライオネルの兵だと……」
あ、そんな前から居る奴なんだ。
そりゃあレベル低くても仕方ないか。
首領さんもすぐさま捕縛して私兵団を呼び込む。
とりあえず私の方にあった闇組織はこの辺りで打ち止めね。
っと、そうだった。地下の方手付かずだった。
私兵団が到達する前に見に行っておこう。
首領と元ライオネル兵の首根っこ掴んで引きずりながら、階段降りて一階へ。
階段降りる際盛大に後頭部を打ち付けていたようだけど、まぁこの二人なら問題あるまい。
打ちどころ悪くて死んだとしても私は困らないし。
そもそも生死問わずで問題ないと言われてるので無理に生かす必要ないし。
風魔法で探って地下から出てきた奴がいないかを確認。うん、誰も出て来てないわね。
じゃあ地下の方に行きましょうか。
二人は重たいので引きずったままで問題はないでしょう。
がすんがすんと頭の打つ音を響かせながら地下へと降りる。
地下には変な音が近づいてくるということで、距離を取って警戒している男たちが数名。
そしてその奥に牢屋と思しき場所が数か所。
こういう場所には大体あることは分かってたけど、やはりあるのか。
殺し屋時代では何も感じないようにしてたけど、今だと見るだけで虫唾が走る。
少し、手加減できないかもしれないな。
「貴方たち、果ての死神って……知ってる?」
それは暗殺者時代の私の名。
最果ての地で殺し尽くした悪逆の二つ名。
善人も悪人も狂人も聖人も分け隔てなく確実に殺し続けた。
果てに在りて出会えば死ぬ者。
最果ての暗殺者。
いつの間にか最果てにしか伝わらなかった噂は世界を巡り、ただの暗殺者から果てに存在する死神と謡われた。
その実力は、ライオネルに来るまでは負け知らず。
あらゆる同業者すら出会えば死ぬ、私はそういう存在だったのだ。
「なっ、消え……」
「馬鹿な!? どこに!?」
「ぎゃぁ!?」
「上から!? ぐぁ!?」
弱い弱い弱すぎる。
ライオネル軍に居たからわかる。
これが通常。
闇組織として恐れられる存在でさえレベルは10前後が基本。70もあれば凶悪な用心棒で、100を越えたら国家転覆犯扱いだ。
それくらいにレベルというのは上がらない。
上がらないはずなのにライオネル兵はほとんどの古参がカンスト済みらしい。
レベル9999ってどんな高みよ?
「はぁ、強い奴多すぎで嫌になるわ」
敵対存在全てを無力化し、私は思わずため息を吐くのだった。
自分は、あまりに弱すぎる――――




