杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト16
アトラは数枚の紙を取り出すと、それをテーブルの上に乗せる。
「さて、コンテストの開催日は5日後だ。それまでに色々としなくちゃならないことが多くある」
アトラがテーブルに乗せた紙には、箇条書きで幾つもの項目が書かれている。その日の予定、参加者、注意点等々。
主にそれはクリシュのためのものであるようだ。クリシュ、その他と明確に別けられて書かれていた。
「クリシュは明日からは社交の場に出てもらう。既に御披露目は済んでいるが、まだ慣れていないだろう。パートナーとして私も参加しよう。その間君達だが、自由にしてもらってかまわない。ただし護衛はつけさせてもらおう。なにがあるか分らないからね」
紙に書かれている項目一つ一つを指で指しながら、クリシュへとアトラは説明をしていく。この日はだれそれ主催の会で、この日は誰々のものだ、といった感じである。
その他の面々は取り合えず聞いているといった感じだ。自分達が参加しない社交場の話なんてそんなものである。
「それとトール殿だったかな?」
ゴーレムを起動してからなんとなく立ったままであったトールは、急に声を掛けられそちらへ振り向く。
「何か御用ですか?」
「うん。君にはぜひこの社交に参加してもらいたくってね」
「はい?」
トールは思わず聞き返してしまう。こんな杖である自分を社交の場にという内容が聞こえたが、聞き間違えじゃないかと。
「社交の場に出てもらいたいんだ。といっても普通に参加するわけではなく、クリシュの持ち物としてだね」
アトラはナーリャ達にも説明をする。
社交の場というのは基本安全だが、それも確実というわけではない。特に爵位が高くなってくると恨みを買っていることも多いとのことである。
もちろん護衛はつけるが、咄嗟のこととなると反応できないかもしれない。そこでトールに護衛として参加してもらいたいとの言であった。
「いや、別に他の護衛がいるなら俺が参加しなくてもいいんじゃないでしょうか?」
「そうでもないんだよ。たしかに命の危険があるときは護衛が動けるがね、その他の場合は動けないことも多い。例えばいきなりお茶を零されるとかだね」
「……それを俺に守れと?」
「察しが良くて助かるよ。何せクリシュはこんなに可愛いだろう。どこぞの誰かに嫉妬されていてもおかしくないじゃないか」
アトラはクリシュの頭に手を当て、撫でながらトールへ説明、というか妹馬鹿な発言をする。
「お兄様、そんなことはないと思うのですが…… 皆様いつも親切にして下さいますし」
「駄目だよ、クリシュ。君にもしものことがあったら、僕は悲しんでしまうよ。」
大仰に手を広げ、いかにも悲しいといった表情を見せるアトラ。
「なので君に影ながら護衛をお願いしたいんだよ。お願いできるかね?」
その話を聞いたトールとしては、出来れば断りたい案件だと判断していた。ナーリャ達のほうの護衛が気になっていたからである。
カルン達に護衛を依頼して、それでもってアトラのほうからも護衛をつけてくれるということで、一定の安心感はあったがそれでも心配は尽きないというものである。
「トール、わたしからもお願いできる?」
トールがどうやって断りをいれようかと悩んでいると、そういって話に入ってきたのはナーリャであった。
「クリシュ様も命の危険は少ないとは思うんだけど、それでもやっぱり怪我とかしたら大変だよ」
「いや、確かにそうなんだが……」
「わたしたちはカルンちゃんやイオンちゃんがいるから平気だし、ね?」
ナーリャに説得され、困ったトールはリューナの方を見る。リューナはナーリャのことを呆れた顔付きで見ていた。
「仕方ありませんね。ナーリャさんがそう仰るならいいんじゃないでしょうか」
リューナにもそういわれ、仕方が無いとばかりにトールはゴーレムの頭を下げうなだれた。
「分りました。しかし私は杖です。どうやって持っていくのですか?」
「その点は心配しなくてもいいよ。杖であれば会場に持って行っても咎められることはない。そうだね、最近魔法の練習を始めたとでも言っておけばいいよ」
社交の場で杖を持っていくというのは、実はそんなにおかしくはないとの事である。魔法がある世界での貴族において、杖というのはある程度の魔法が使えるとの証になるとの話だ。
女性が持っているのは確かに少ないらしいが、誰もが持たないというほどでもないのだ。
「そうですね。それでしたら私も魔法の練習をしなければですね」
「それでしたら、私がお教えしましょうか?」
「まあ、よろしいのですか?」
クリシュは建前である、ある程度の魔法を覚えなければと言い、それをイオンが師事を買って出る。
クリシュもまたそれを嬉しそうに歓迎していた。
「ふむ、そうだね。実際戦った経験のある冒険者に、教わるというのもいいかもしれないな。魔法は覚えておいて損はないからね」
アトラもそれに賛同し、クリシュが魔法をイオンから教わるということが決まった。
トールとしては、少女達が仲睦まじいのは歓迎だが、社交の場に出なければならないということに億劫な気持ちになっていた。
「それで私をもっていくのはいいのですが、基本そういった嫌がらせに対処すればいいのですか? 下手をするとかなり目立つので、問題になりかねないのでは? というか正直に言ってあまり目立ちたくないのですが」
「ああ、それは平気だ。その辺りは魔道具のせいにするからね。防御用の最新の魔道具が反応しましたとでも言っておけばいい。何せ私達がクリシュを可愛がっているのは、他の貴族たちも知っていることだからね」
ダナン公爵家でクリシュを可愛がっているというのは、貴族界隈では有名だということである。そのため、そういった魔道具を用意していても、さして問題には成らないとの事だ。
トールは貴族社会で有名になるなんてどんだけだよと心の中で突っ込みながら、色々諦めて社交界にでる決心をした。
「わかりました。基本的には黙っていて、いざというときはお守りします」
「いやぁ、助かるよ。さてと、今後の予定としては今のところ以上だ。もう少ししたらコンテストの内容の詳細も分ると思うから、それまでは君達は自由にしていてかまわない。どうせだから王都見学でもしてきたらどうだい?」
「いいっすね。どうっすか、ナーリャ?」
王都見学という言葉に反応したカルンは、ウキウキした瞳でナーリャに提案する。イオンはそのカルンの口調をアトラに平謝りし、アトラは笑ってかまわないよと答えている。
「うん。わたしも見て回りたいかな。リューナちゃんはどう?」
「私は…… そうですね、一応会っておきたい人もいますし、賛成です」
「いや、あまり外に出てほしくはないんだが……」
トールが心配しているのはもちろん2人の安全である。貴族の嫌がらせの対象になりえる2人が、外に出て観光というのは狙ってください、といっているようなものではないかと考えていた。
しかし当の2人は特にそれらを気にした様子がない。
「大丈夫だよ。さっきも言ったけど、カルンちゃん達がついているんだし、それにアトラ様も護衛をつけてくれるって言ってるから」
「護衛の方は任せてくれたまえ。滞在中はなに不自由なく暮らせるようにしよう」
アトラも自信を持って答えている。
それらの答えに、トールも一抹の不安を抱えてはいたが同意することにした。
「わかった。ただし危険には近づかないでくれよ」
「わかってるよ。トールは心配症なんだから」
ナーリャが暢気すぎるんじゃとトールは思っていたが口には出さない。その代わりチラリとリューナの方をみる。
彼女はそれに返すようにトールに対して頷いた。
「ご安心を。ナーリャさんは私がちゃんと見張っていますから」
「ああ、宜しく頼む」
「あー! なんか馬鹿にしてるでしょ、二人して!」
ポカポカとゴーレムを叩くナーリャを見ながら、トールはそんなことないといいつつ笑っていた。
2日も更新できず申し訳御座いませんでした。
すこしの間仕事の関係上更新が不安定になるかもしれないです。
基本昼の12時に更新をしますが、出来ていない場合その日は更新できないと御考えいただければと思います。
色々と予定が立てられず、申し訳御座いませんが宜しくお願い致します。
8/25 追記
長々と更新できずに大変申し訳御座いません。
現在仕事の都合で、今週一杯の更新が困難な状況となりました。
次の更新は8/29(月)の予定となります。




