杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト15
「待たせてすまないね。いやはや、妻がなかなか離してくれなくてね」
アトラはそんなことをのたまいながら、ナーリャ達の対面へと座る。
「さて、クリシュもあと少しで来るだろうが、先にコンテストについて詳しく話しをしておこう。出品する魔道具は持ってきてくれたかな?」
「はい、こちらになります」
ナーリャはイオンから受け取って手に持っていたランプをテーブルに置くと、アトラの前へと動かす。
それをアトラは手に取り、じっくりと観察すると満足そうに頷く。
「これは魔力を普通に流せば、明かりが点くのかな?」
「はい。他の魔道具ランプと同じように使用していただければ大丈夫です」
ナーリャの回答を聞き、アトラはランプに魔力を込め明かりをつける。その明るさは先ほどイオンが点けたのと同様、部屋を照らし出した。
「確かに聞いていた通り、かなり明るいな。これはどの程度もつのかな?」
「魔力を最大まで込めて、大体5刻ほど持ちます」
5刻、地球の時間に直すとそのまま5時間ほどである。この世界の時間は24刻と、ほぼ地球と同じ周期になっていた。
ほうほう、と満足そうにアトラは呟くとさらにランプ全体を確認している。
「5刻か。十分だな。というより私もこれがほしくなったよ」
「一応予備がありますので、それでよろしければ御譲りできますが」
「お、それはありがたいな。後で対価は支払おう。ではこれは出品するために預かるよ」
アトラは手を叩くと、執事が部屋へと入ってくる。彼は執事にランプを渡すと、二三言指示を出しそれを持っていってもらう。
そして改めてナーリャ達のほうへと向きなおすと、笑顔で話し始める。
「まずは出品物はこれで大丈夫だね。ではもう一つ、ゴーレムを見せてもらいたいんだけど、何処にあるかな? 大きい物なら外に置いてあるのかい?」
「えっと……」
ナーリャがどう説明しようかと悩んでいると、トールが颯爽と浮び上がった。ゴーレムの話題を振られ、一瞬にしてテンションが上がっていた。
リューナが慌ててトールを抑えようとしたが、その手をするりと抜けるとトールはテーブルの上へと躍り出る。
「では実演しましょう。なに、直ぐに取り出せますよ」
アトラは急に飛び上がってきた杖を眼のあたりにして、わずかの間驚いた顔をした後、あっはっはと笑い声を上げた。
「君が喋る杖か。いや、父上とクリシュから話を聞いてはいたが、いやはや実に面白いな」
「す、すみません。ほら、トールさんも」
リューナは慌ててトールの宝玉部を掴み、下げさせる。
杖が頭を下げている光景を見て、アトラはさらに笑い声を上げた。
「いやはや、すまないね笑ってしまって。浮かび、話して謝る杖か。実に興味深い。しかし今はゴーレムの話に戻るとしようじゃないか。それでどうなんだい?」
「ゴーレムの評価はどうやって行われるかわかりませんが、かなり自信はあります」
トールは胸、というか柄の中央より上の部分を突き出し、いかにも自信がありますアピールをする。
「そうかいそうかい。それでは見せてもらえるかな? 場所はここでも大丈夫かい?」
「問題ないです。それでは今取り出しますので、暫しお待ちを」
トールはウキウキといった様相で自身に括り付けられてあるバックを《守護者の巨人》を使った光る腕で外す。それを見てもう一度驚いているアトラを放置して、王都までの道中で取り出したのと同じ手順でゴーレムを取り出した。
いかにも小さいバックから大男のようなゴーレムが出る姿に、アトラはもう驚かないぞと笑ってみせていた。
「こっから入ってっと。よし、起動」
トールはすぐさまゴーレムの開放された背中から入り込むと、操作用の魔法陣へと意識を向けて起動する
片膝を付いた状態で保管されていたゴーレムは、トールの意思に従って立ち上がった。
「これが今回参加するゴーレムです。如何でしょう?」
「人型か、すばらしいじゃないか。これはどうやって動いているんだい?」
「私が入り込んで、直接動かしています。そのためほぼ人間と同じ動きが出来るでしょう」
アトラは立ち上がって、トールのゴーレムの方まで歩み寄る。そして色々と確認するように触ると、胸の前で腕を組み満足そうに頷く。
「うん、よさそうだ。ゴーレムについて詳しくはないのだがね、どういったことが出来るのかな?」
「ほぼ人間が出来る行為は行えるかと。鍬を持って耕す、背に荷物を持ち運ぶ、それにティーカップを持つ。それと魔法は使えませんが、魔法陣の起動はできます」
この手に持って道具を使うというのは、実は裏があった。
普通の人間は5感をもって道具を使用している。つまり物を持った時は触覚や視覚を利用して、脳にフィードバックをかけている。
いまトールのゴーレムは視覚と聴覚しか認識できない。そのためトールは《守護者の巨人》で作り出したフィールドを、ゴーレムの各部に這わせる事で触覚の代理としているのである。
そういった裏技的な機能を使用することによって、精密な動作や操作が可能となっていた。
「ほう。では力のほうはどうかね。どれだけの物を持つことが出来るのかな?」
「そうですね、道中で試したのですが、倒木くらいは楽々運べます。しかし魔力の消費も考えると、長時間の運搬はまだ出来ないでしょう」
道中での倒木による街道封鎖を除去したとき、トールのゴーレムは魔力を十分の一ほど消費していた。
リューナには呆れられていたが、トールとしては実は不満であった。それというのも、たかが十数本の倒木を運んだだけで、それだけの魔力を消費してしまうのは、長期間の運用は出来ないと思っていたからである。
実際は、コスト削減のために質の悪い魔石を複数まとめて精錬したものを、魔力貯蔵に使用しているため、容量自体かなり低いもので運用しているからなのであるが、トールはその辺り気がついていない。
「ふむふむ。試作としては破格の性能のように感じるが、お嬢さん方はどうだと思うかな?」
「えっと、多分今までにないゴーレムだと思います。その構造上量産は今のところ難しいですが、出来れば人足の代わりになるんじゃないかなと」
「他には、今まで正確な動作が出来なかった人型のゴーレムということで、その点も評価されるのではないでしょうか。量産は今のところ難しいですが」
ナーリャとリューナの評価は概ねこういったものである。量産は難しいと思っているのは、操作自体はトールが行っていることであり、そんな話せる杖なぞ何処にも転がってはいないと思っているからだった。
しかしトールの考えとしてはちょっと異なっていた。
トールはこのゴーレムを自分用、というか自分の趣味に完全に偏らせて作っているが、本来の用途としては別の物だと考えているのだ。中に操縦者が入って、自分の思い通りの操作が出来てその装備者のアシストが出来る。そう、パワードスーツを意識していたのである。もしくは某機動戦士である。
ただ特にそのことについては話さないでいる。先にアルマース公爵との話にもあったとおり、どういったことになるか不透明なことが多かったためである。自分でつくった銃で撃たれたくはない。
「なるほどね。そうだとすれば、こちらも問題ないかな。さて、では一応2人には聞いておきたいんだけど、今回のコンテストで有名になりたいかな?」
「? えっと、すみません。どういう意味でしょうか」
ナーリャは聞かれたことの意味が分らず、思わず聞き返してしまった。
「おっと、言葉が足らなかったね。正確には有名になるというのではなく君達が望むのであれば、我々がバックアップし各貴族との架け橋となろうじゃないか。なに、これも報酬の一部だと捉えてくれたまえ」
貴族とのつながりを作る。これは何事にもお金が掛かる魔道技師としてはかなりいい話である。
まだ発見されて間もない技術である魔道技術は、だいたいが裕福な貴族や商人にパトロンとなってもらい開発を進めている。他には王国立の学院関係の研究機関に所属したりしているのがほとんどであり、個人で店を開いているというのは、実は極少数であった。
研究を主体におく者は貴族にパトロンとなってもらい、好きに研究を行う。商売を考える者は商人とつながりを持ち、販売網と情報を手に入れる、といったことが普通なのである。
「いえ、御言葉だけ有難く頂きます。わたし達はそういったことは望んでいないので」
しかしナーリャはアトラの申し出を断った。
ナーリャとしては、貴族や商人とつながりを作りたいとは考えていなかった。現時点では金銭的にも困っていなかったし、自由がなくなりそうといったことも考えていた。そして何よりトールのことがあったためだ。
既に彼女はトールのことを家族の一員としてみている。そんなトールが貴族などに知識の杖として知られてしまえば、それはトールが連れ去られることになりかねない。それを危惧してのことである。
「そうですね、私も同意見です。申し出は大変有難いのですが」
リューナもナーリャのと同意見だと伝える。ナーリャとリューナは互いの顔を見ると、笑顔を浮かべた。
「うーん、そうか。それなら仕方が無いね。望んでもいないものを報酬とするわけにはいかない。すると……」
断られたアトラのほうも笑顔で答えている。
ナーリャとリューナは内心ドキドキしながら断りを入れていたため、その表情には少し安心する。貴族の申し出を断るというのは、それだけ緊張を伴うものであったのだ。
「失礼いたします。クリシュタールお嬢様がお越しになられました」
そんな時、ドアから入室してきた執事がクリシュの来訪を告げた。
「おお、そうか。では案内してくれ」
「畏まりました」
執事は一礼すると、直ぐにドアから外へと出て行く。そしてすぐさまクリシュとペルラを連れて戻ってきた。
「皆様、お待たせしてしまい申し訳御座いません」
クリシュは入室すると一礼をして、アトラの隣へと腰をかける。ペルラはその後ろに付きしたがっていた。
「さて、クリシュも来た事だしこれからの予定について話そうじゃないか」




