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杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト14

 

 王都の中に入ると、そこは多くの人でにぎわいを見せていた。

 馬車の通る大通りには石畳が敷き詰められており、その上には露天が立ち並んで買い物をする人々に溢れかえっている。その活気は、トールの知るダナン城塞都市より激しく、感心させられていた。

 そんな中、人を別けるように先導している騎士に続いて馬車が通っていく。その豪勢な馬車に対して、人々は興味をもって眺めていた。


「なんかこんな通りを馬車で通っていると、自分が偉くなったような気になるな」


「馬鹿なことを言っていないで、外から見られないようにしてくださいね。杖が浮かんで喋っているなんて、慣れてない人が見れば問題にしかならないんですから」


 窓から外を見ていたトールに、リューナは注意を促している。それもそうかと思い、トールは大人しくすることにしてナーリャとリューナの間へと戻っていった。

 イオンとカルンは窓から外を、珍しいものを見るかのような目つきで眺めている。こちらの2人はダナンに来たときも人の多さに驚いたと言っていたので、さらに人が多い王都を見てさらに驚いているのだろう。

 クリシュとペルラは手馴れたもので、ただ馬車が到着するのを待っていた。

 やがて馬車が進んでいくに当たって、どんどんと人の行き来が少なくなってくる。そしてある場所を境に、その人ごみはほとんどなくなっていった。

 多くの屋敷が立ち並ぶ中、立派な門が設けられている大きな館にたどり着くと、馬車は停車した。


「到着いたしました」


「ご苦労。さて、お嬢様到着いたしました」


 御者の到着の連絡に、ペルラはまず先に降りてまずあたりを確認する。そして危険がないことを確認すると、ペルラはクリシュが降りるのに手を差し伸べて補助をする。

 クリシュが降りると今度はカルンとイオンが降り、その後にナーリャとリューナが続いた。

 トールといえば、流石に浮かんでいくというのも問題になりそうだったので、ナーリャが持ち運ぶこととなっていた。


「おお、これは……」


 トールは思わず呟いていた。

 そこはダナンにあるクリシュの屋敷と勝るとも劣らない大きさで、その門には立派な見るものを引きつけるような彫刻が施されている。

 護衛として付いてきていた兵達は、カルプスを中心としてその門への道を警護するように隊列を並べる。その中央をクリシュが先頭になり、その後にペルラも続いていく。

 どんどんと中に進んでいくクリシュ達に困ったのが、ナーリャ達である。そのまま門へと続く道の中央を渡ってしまっていいものかと、悩んだのであった。


「諸君らも行き給え。君らは来賓なのだから」


 カルプスに促され、ナーリャ達もクリシュの後へと続いていった。そしてその門の前に立つと、一人の男性が立っているのが見えた。

 金髪を耳に掛かる程度で伸ばしている男性は、その身なりを見てもかなりの財力も持って貴族であると判断できた。


「やぁクリシュ。待っていたよ」


 男性はクリシュが目の前に来ると、一度抱擁し頬へ口付けをした。


「お兄様御久しぶりで御座います」


 クリシュにお兄様と呼ばれた男性は、その腕からクリシュを開放すると、今度はナーリャ達のほうへと視線を向けた。


「こちらのお嬢さん方が、今回依頼を受けてくれた魔道技師の方々だね。妻と妹の次に美しい方々だ。おっとすまない、紹介が遅れたね。私はアトランクス・ダナン。一応はアルマース・ダナン公爵の次男だよ。気軽にアトラと呼んでほしい」


 大仰に腕を広げて自己紹介をするアトラに、トール達は困惑気味である。

 公爵の次男にしてクリシュの兄がいることは聞いていなかったし、そしてこの態度である。わざわざこの屋敷の主と思われる人物が出迎えるとは、怒っても見なかった。そのためどのような態度でこちらも対応すれば、いまいち分らなかった。


「お兄様、門の前ではなんですから、屋敷の中にしませんか?」


「おっと、それもそうだね。それでは中へ案内しようか。あと、君達もご苦労だったね」


 アトラは門の前の道に並んで待機している兵達に声をかける。声をかけられた兵達は一同胸に手を当てるしぐさをした後、カルプスに続いて解散していった。

 その一挙一動をトールが見事なものだなと感じていると、アトラは門を開け屋敷の中へと入っていった。それにつられて一行も中へと入ると、そこには執事らしき男性とメイド達が出迎えてくれた。

 執事は一度部屋で休まれた方がいいでしょうといって、クリシュとその荷物を持った従者を案内し始める。


「それじゃあ君達も一旦部屋で休んでくれたまえ。後で使いを送るから、その時に改めて話しをしよう」


 ナーリャ達にもメイドが遣って来てご案内します、と言ってクリシュとは違う部屋へと案内する。

 そこは屋敷の二階にある一室で、ベッドが二つ備え付けられている部屋であった。


「あたいらはどうしたら良いっすか?」


「お二方は隣の部屋を御使い下さい。あと、何か御座いましたら備え付けてあるベルで及び下さいませ」


「はい、分りました。ありがとう御座います」


 カルンとイオンは、一旦自分達の部屋を確認すると、すぐさまナーリャ達の部屋へと戻ってくる。


「いやー話には聞いてたっすけど、やっぱり貴族様の御屋敷って凄いッすね」


「あちらの部屋の作りはこちらと大きく違わないですね。隣というのも助かります」


 あくまでカルンとイオンは、ナーリャ達の護衛として付いてきている。そのためもし離れた部屋に案内されたら、ナーリャ達の部屋に寝泊りしようと考えていた。


「それなら問題なさそうだな。さてと、それじゃあどうするか」


「そうだね。一応持ってきた魔道具の確認とか……」


 ナーリャがそういってかばんから魔道具を取り出そうとすると、そこにドアにノックする音が聞こえてきた。

 ナーリャが返事をすると、そこには執事らしき男が入ってくる。


「失礼致します。ナーリャ様、リューナ様、カルン様、イオン様。準備が出来ましたので、ご案内に伺いました」


「あ、はい。わかりました」


「間もおかず申し訳御座いません。また主よりこの度出品する魔道具を持参頂きたいとの事です」


「承知しました」


 ナーリャ達は魔道具の入ったカバンを手に、執事の男に案内されて別室へと行く。そこは以前アルマースやクリシュと面談した時と同じような作りの部屋で、10人以上は余裕で入れる大きさであった。

 中にはまだ誰も居らず、案内された4人はそれぞれ指定された席へと座る。左からナーリャ、リューナ、イオン、カルンの順で、トールはナーリャに握られたままである。


「しばらくお待ち下さい。今主がやって参ります」


 そういうと執事は退室し、中には4人と1本だけが取り残される。そんな状況に各自落ち着かないのか、微妙にそわそわとしていた。

 待っている間、ナーリャは取り合えず持ってきた魔道具、光属性のランプをテーブルの上へと置く。それはアルマースより貸し出された、豪華な装飾が施されたものとほぼ同じ作りになっている。これを作成する際、外観はほぼコピーして作ったのである。


「そういえばコンテストってなにをするんすか?」


 いまさらながら、カルンはコンテストについて話を聞いていなかったことを思い出したらしい。カルンはナーリャが取り出したランプをいじくりながら、そんなことを質問してきた。


「うーん、詳細は良く分ってないんだけど、取り合えず魔道具を各人が出品して、それを偉い方々が評価するらしいんだよね。それでランプは今明るさとかを競っているとかで、それでこのランプにしたんだ」


 ホエーっといった感じでカルンは話を聞いており、試しに点けても良いっすかと聞く。

 もちろん、とナーリャが答えると、カルンはそのランプをイオンへと渡した。

 受け取ったイオンははいはい、と言ってランプに魔力を込める。それと同時にガラスで覆われた中央部に光の球が浮び上がってきた。


「これは……とても明るいですね」


「うん、そうなんだよ。これは今まで火で明かりを灯していたものと違って、直接光を発生させることで明るさを増しているだ。この光属性を使って、他にも色々とできそうなんだよね。例えばこういったランプだけじゃなくて、指向性を持たせることで何かの合図に使ったりとか。でもまだ魔力属性変換が上手くいってないのもあるし、何より最適な触媒が見つかってないんだよね。今は魔石で魔法陣を描いているけど、やっぱりその属性に適したものじゃないと、効率は悪くなっちゃうんだ。それに……」


 それはそれはとても楽しそうに魔道具の解説をし始めるナーリャ。それに圧倒され、ちょっと苦笑いを浮かべていたイオンであったが、その話のある一点が気になり、ナーリャへと質問をした。


「その、光属性ってなんですか? 聞いたことがないのですけど」


 それを聞いたとたん、ナーリャはピタリと停止する。

 ゆっくりとナーリャが横にいるリューナをみると、呆れた表情をした彼女が見て取れた。


 現在この世界において魔力の属性は4大属性である火、水、土、風が全てと思われている。しかしトールの《知識の泉》と属性感知能力によって、それが異なっているとナーリャとリューナは知ったのだ。

 この事実を公表しようと初めは思っていたのだが、魔法学においてそれは異端の考えであり、排除されることは眼に見えていた。それにどうやってその存在を知ったのかをきかれると、必然トールのことを持ち出さなければならない。そうするとトールの知識の杖たる性能が公になり、厄介ごとしか招かないと判断したため、取り合えずは黙っていることにしていた。


「えっとね、そのね?」


「はぁ。仕方ありません。ナーリャさん説明してあげて下さい」


 ナーリャが口ごもっていると、リューナはそれをフォローする形で口を出す。


「うん。えっとね、実は……」


 ナーリャは魔力属性のことをカルンとイオンへと伝える。実は4大属性でなく、8大属性のこと。そのうちの一つが光属性であり、それを利用したのが、このランプだということを。


「今回のコンテストでは、その光属性のことを話すつもりはなくて、熱の出ない火ということで押し通そうとしてるんだ」


「そんな属性があったんですね。初めて知りました。じゃあ、もしかしたら私も?」


「そうですね。どうでしょう、トールさん」


 なんとなく話に入っていけなかったため、ボーっとしていたトールは急に話しを振られビクッっと体を震わせた。


「お? なんだ?」


「ですからイオンさんの魔力属性です。4大属性以外にもありますか?」


「あー、そういうことか。ちょっとまってな?」


 トールはナーリャの手から離れると、宝玉部をイオンの体へと触れる。そして属性検知と願う。


 ……イオン:所持魔力属性:火 水 風 土


 ふむ、と結果を確認し、トールはそれをイオンへと伝える。


「イオンの所持属性は普通に4大属性だな。ほかはなさそうだ」


「そうですか、残念です」


 ちょっとイオンが落ち込んでいると、今度はカルンが手を挙げ始めた。


「じゃああたいはどうっすか?」


「えっと、カルンも調べてみたいのか?」


「そうっす。あたいも魔法が仕えなくても、魔力はあるはずっすから」


 カルンは魔力を外に出せないだけで、魔力自体がないわけではない。それもそうかとトールは思い、カルンを調べてみることにした。


 ……カルン:所持魔力属性 不明。魔力波の検知ができませんでした。


 ありゃ、とその結果にトールは思わず呟いた。

 トールの持つ魔力属性検知の機能は、外へと出ている魔力に対して働くため、それが出来ないカルンの属性は検知できなかったのだ。


「すまないなカルン。分らなかった」


「そうっすか。残念ッす……」


 カルンがその結果に落ち込んでいると、ドアがノックされ一人の男性が入ってきた。それは館に到着した時にもあったアトラであった。



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