杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト13
倒木の排除をして王都を目指して一行が進んでいると、次々とトラブルに遭遇した。しかしそれらはほとんどが嫌がらせといったレベルであり、その都度対応していく。
道に石が敷き詰められる時は総員で排除し、今度は道に穴が掘られるとイオンとナーリャが魔法で埋める。王都が目前に迫るまで、この嫌がらせは続いていった。
おかげで日程に若干の遅れが生じ、10日程の予定だったのが2日ほど延びていた。
「やられている内容は唯の嫌がらせだが、これって結構な犯罪じゃないのか」
「そうだな。国の大動脈といえる道を封鎖しているんだ。普通なら憲兵に突き出すところなんだがな」
嫌がらせにあった道中では、道を行き来する商人たちが立ち往生している時もあった。彼らは街間の物流を支えている者達であり、それらを阻害するということは国に喧嘩を売っているも同義である。
しかしそれらのことにペルラは少し言葉を濁す。
「背後にいるものの目星は付いている。しかし実行犯を捕まえたところで、そいつらを切り捨てて終わりだろう」
「その背後の者って言うのが、最初に勧誘していた魔道技師について口出ししてきた奴なんだな?」
「まあ、そういうことだ。……一応相手の名前を聞いておいてもらったほうがいいか。クリシュ様、よろしいでしょうか?」
ペルラは少しの間思案すると、クリシュに御伺いを立てる。
「はい。これから先どのような嫌がらせがあるか分りません。自衛のためにも、知っておいて頂いた方がいいでしょう」
畏まりましたと言い、ペルラは新ためてトール達のほうへと向きなおす。
「今回我々に仕掛けてきているのは、東に位置する貿易都市レステを中心として収めているカアス・レステ公爵だ」
貿易都市レステは、ここクリーオス王国東に位置する都市である。東の国々と貿易が盛んであり、その交易によって発展を遂げている大都市であり、東からは香辛料、織物などを中心に輸入して、反対に魔道具、食品などを輸出していた。
ちなみにダナン城塞都市を中心としたダナン領は、西の果てに港を持っており、そこからの交易が盛んであった。また東方面への魚類や塩の輸送なども行っている。
「西のダナン公爵家と東のレステ公爵家の2つの公爵家にて王家を支えるのが、このクリーオス王国の歴史だ。そしてこの二つの公爵家は常に反発しており、今回のこともその一環だろう」
ペルラはいつものことだといった様子でトール達に話す。クリシュもまたそれに同意し、頷いている。
「つまり今回の一件はいつも通りの嫌がらせ、ということでいいのか?」
「そう捉えて貰ってかまわない。ただしいつも通りと言っても、危険には変わらないと思う。皆には申し訳ないことだが」
ペルラはすまなそうに頭を下げる。
「いえ、謝らないで下さい。最後は私達の意志で決めたことですから。それにしても、相手の今回の目的はなんでしょうか? 唯の嫌がらせですか?」
「今回に限って言えばその通りだと思います。しかし後々に狙いがあるかと」
ペルラに変わってクリシュが目的について話を始める。彼女は少し表情を硬くし、今馬車にいるメンバーをゆっくりと見回す。
「今かの家は派閥の拡大を狙っている節があります。現時点では我が家が若干優勢ではありますが、その逆転を狙って以前より動いているのです。その一環が、今回の件だと思われます」
かなり突っ込んだ内容に、一同は黙ってクリシュの話を聞いていた。
このような貴族同士の権力争いというのは、別段珍しいことではない。しかし一般に市井に対してその話をするというのは、滅多にないことである。
はっきり言ってこのような話を聞かされ、困惑しているというのが一同の感想である。
しかし疑問に思ったことは聞かずにはいられない、技術者としての矜持がそうさせるのだが、トールは空気を読まずに質問する。
「いくつか確認させて下さい。まず我々にそんな話をしてしまってよろしいのですか? 正直一般市民にそのようなことを聞かせるのは、問題があるように思えるのですが」
その質問に、クリシュはにっこりと笑うとトールに答える。
「そうですね。特に問題はないかと思います。と言いますのもはっきりと申し上げて、あなた方が騒いだところで、意味のない話ですから」
すこし突き放した感じで、クリシュはそう告げる。
それは貴族に対して騒いだところで、問題は起こらないということか、もしくは問題を起こさせないということか。
トールは心構えを直して、心持ち辛そうな表情をしているクリシュに追加の質問をすることにする。
「分りました。では派閥の拡大ということですが、今までの行動の中で、最悪どの程度の干渉が見込まれますか?」
トールは丁寧語になって、クリシュへと確認する。
今後どの程度の干渉がありえるのか、その頻度、程度、規模など、色々と知りたいことは多かった。
「そうですね。最悪殺害ということも考えられますが、そこまでするとこちらとしても犯人の検挙に全力を注ぐ必要が出てきます。そういった意味でも、誘拐というのが現実的に起こりうることでしょうか」
もしダナン家が勧誘した魔道技師が殺害されたということにでもなれば、事件事故に関わらず全力でダナン家は犯人を探し出す、もしくはでっち上げるだろう。
これはダナン家としての名誉に関わる案件であり、自分らが用意した人間が依頼の最中に死亡することとなれば、面子を完全に潰されることとなり、全力を持って相手に報復をするということである。
「それで誘拐ですか。それでもダナン公爵家としては面子を潰されることになるのでは?」
「相手の言い分としては、直前になって怖くなって逃げ出したということにするでしょう。たとえ本人が誘拐されていたといっても、それは恐怖に駆られて逃げ出した言い訳だ、ということになるでしょうね」
話を聞いていたカルンはうわぁ、といった表情をしてめんどくさそうにしている。
リューナとイオンは冷静に聞いているらしく、十分ありえる話として認識しているようだ。
そしてナーリャは、なんだか怒った表情をしていた。
「何でそんなことするかな。コンテストだったら真正面から堂々としていればいいのに」
プリプリと怒って素直な意見を言うナーリャに、トールはなんとなく癒される。普通の感情としてはナーリャのものが正しいのかも知れないな、と思いつつ。
それともう一つ、トールには確認したいことがあった。
「それで、クリシュ様はそういったことは行わないので?」
「無礼だぞ、トール殿」
トールが確認しておきたかったことがこれだ。
今回相手と思われるレステ公爵家に対をなすダナン公爵家が、一体どういう対応と報復を考えているかということである。
トールはどうやって聞き出そうかと考えてはいたが、直接聞いてしまった方が後腐れがないかと思い、行動をとった。流石に側近のペルラにはその発言は聞き逃せなかったようで、すぐさま抗議の声を上げられたが。
「かまいません。本心を語っていただけた方が、私としても助かりますから。ただ公の場では控えて下さいね、トール様」
「失礼した。しかしここで腹芸をしていても意味がないと思ったので、こういった直接的な言い方になってしまいました」
クリシュは一度トールを見ると、ニッコリと笑って話し始める。
「私どもとしては、一切そういうことをしておりません。と言いますのも、父と兄達もこれ以上の権力は求めてませんから」
クリシュが語るに、ダナン家は代々クリーオス王国の西側を治めてきた家柄であると言うことである。そして西には大森林、トールが発見された場所であり、鬼と出くわした森がある。そこは元来魔物の住処であり、時には大量発生した魔物が町々を襲撃することがあるのだという。
そういった環境にあるダナン地方は、権力云々よりもその魔物対応に力を入れたいらしく、これ以上手間が掛かる権力争いには今のところ興味がないのだと言う。
「お父様もお兄様方も、中央の権力に関してはそこまで興味がない、というのが本音でしょう。領地を増やすにしても王都の東側では、手間が掛かってしょうがないでしょうし」
王都周辺は国王直轄地である。王都西側はダナン公爵家の領地が多く、またその他の地もダナン家の派閥の一員である。これ以上権力を伸ばして手に入る地方と言えば、北の山脈に南の大森林、そして東のレステ公爵の派閥が納める地方である。
北の山脈は人が住むには厳しい環境であるし、南の森林は魔物達の楽園である。そうなってくると東のレステ公爵一派の地方となるが、そこは王都をはさんでおり、飛び地になるため治めるのにも一苦労なのである。
「そうなってくると、何でレステ公爵はちょっかいかけてくるのかな?」
そこまで話をしていると、ナーリャは疑問に思ったことを口にした。
レステ公爵側としても、王都より西は飛び地になるためダナン家の権力をそぎ落としたとしても、手間が掛かるだけと思えたのだ。
「それは……どうしてでしょうかね」
クリシュは一瞬言葉を濁すと、分からないと口にする。
こりゃあまだ隠していることがあるな、とトールが考えていると、御者から声が掛かった。王都が見えてきたのだ。
そこは全体が高い城壁に囲われており、その高さはダナン城塞都市を越えている。
トールは窓から外を見ると、一行とすれ違うように馬車が過ぎ去っていくのが見え、先にもまだまだ馬車が多く見て取れた。交易が盛んであると、トールに認識させるには十分な量であった。
トール達が乗っている馬車の護衛である一騎が、王都が見えたと知らせを受けたペルラに声を掛けられ、そのまま前方へと駆けていった。
「お嬢様、先触れは出しましたので、到着次第入れるでしょう」
「ありがとう、ペルラ」
一行が王都の城門までたどり着くと、そこには商人らしき多くの人々が入都の許可を求めて並んでいた。
その直ぐ脇には全身鎧を身に纏った騎士と思われる一団が、直立して待機していた。
「出迎えご苦労である。ダナン公爵が長女であらせられる、クリシュタール・ダナン様の到着である」
「御待ちしておりました。私は王国近衛隊所属のベスティア・クティノスであります。国王陛下よりクリシュタール様をご案内するよう申し付かっております」
ペルラは馬車から降り、城門の前で待機していた騎士と挨拶を交わす。
ベスティアと名乗った男は、被っていた兜を取り礼儀正しく一礼を行った。その顔付きはまさに厳ついと表現されるのがあっていて、短く切りそろえられた茶色の髪と相まって威厳を醸し出していた。
「ベスティア殿、この度は出迎えご苦労さまです」
「ハッ、有難く。それでは御屋敷までご案内いたします」
クリシュが馬車の中からベスティアを労うと、彼は部下と思われる騎士達を連れて先導を始める。
入都待ちの商人たちを横目に、一行は開け放たれた城門から堂々と中へと入っていった。




