杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト12
その後、迂回路を取り進んだ一行は問題なく北に掛かった橋を通り過ぎる。
特に何事もなく進んだのにトールが安堵したのもつかの間、今度は街道に木が倒され、塞がれているのを先行隊が発見した。
「一ついいか? 王国って治安悪いのか?」
「いや、普段ならばこのようなことはない。ここはダナンと王都を結ぶ重要な街道だ。兵士の見回りに加え、騎士隊での巡回も行われているため、王国内では随一を争うほど治安のいい道だよ」
トールが思わず愚痴ってしまうと、ペルラはそれを否定する。
取り合えず安全は確認されたということで、トール達の乗った馬車も現場へと向かった。そこは葉も落とされていない木が、無造作に転がっており、街道を封鎖していた。
「わざわざこんなことする暇人っているんだな」
「ああ、本当にな。叩き切ってやりたいところだ」
トールの軽口に、ペルラは若干の怒りがこもった返答をする。
「ここから少し南にいけば森があり、これらの木はおそらくそこから持ってきたものだろう。わざわざご苦労なことだ」
「さて、どうする?」
トールの質問にペルラが考えていると、トールはつんつんと突かれる。それはナーリャである。
「トール、これどかせないかな?」
「どうだろうな。《守護者の巨人》でも……」
とそこまで言って、トールはふと思いつく。
トールはおもむろに自分に括り付けてあるバッグを取り外すと、中身を確認する。そこにはトール製のゴーレムが納められている。
「ちょっと試してみるか。ペルラ、少し時間をもらってもいいか?」
「かまわないが、なにをするつもりだ?」
トールは許可をもらうと、馬車から外に出る。そこでバッグにある魔法陣を起動させる。その魔法陣はバックの口を大きくするための、空間拡張の魔法陣である。バッグの口ではゴーレムを入れるのは小さすぎるため、魔法陣を改良して口も大きく出来るようにしたのである。
続いてトールはバッグの中の空間を拡張している魔法陣の効果を切る。すると、口元だけが拡張されたバッグは、徐々にその中の空間体積を減らしていき、収まりきらなくなったゴーレムがバッグの口からはみ出してくる。
トールは出てきたゴーレムの背から内部に入り込むと、それを起動させた。
「ちょっと、どかせないか試しててみる」
一言馬車に中にいる面々に話しかけると、トールは木が乱雑に置かれている場所まですすむ。そしてその1本を掴んだ。
「さて、パワーアシストの試験だ。上手くいけよ」
トールはゴーレムの機能を一つ稼動させる。それは甲冑の中に納められているパワーアシスト機能、油圧システムである。
本来ゴーレムというものの力は、流れている魔力量によって決定される。魔力量が大きければ大きいほど、使える力は増加する。
しかしそうすると今度は魔力消費が激しくなり、とたんに魔力槽は空になってしまうのだ。
そういった点を解消するため、トールは構造に油圧回路を組み込んでいた。油圧を作動させるのに魔力を使い、少ない消費で多くの力を得るためである。
元々トールの作ったゴーレムは、間接部から骨格構造などかなり精密に作られており、それだけでゴーレムとしては魔力効率のいいものとなっている。そして地球の科学技術である油圧を取り込むことで、その力は何倍にも増幅されていた。
「よいしょぉ!」
トールは声を上げながら、倒れている木を持ち上げる。それはトールが想像していた以上にスムーズに事が運んだ。
1本、また1本と運び出し、短時間で全ての倒木を街道の外まで運んでしまった。
「よし、完了。かなりの力が発揮できるな。あとはもうちょっと効率のいい配置とかも考えないとな」
トールが油圧システムを自己評価していると、外に出ていたペルラに迎えられる。その表情はあっけに取られているものである。
「……トール殿。一つ尋ねるが、先ほどの力はそのゴーレムのものか? それとも実はあの光る巨人を作り出していたとかか?」
「ん? このゴーレムの性能だな。特に光る巨人は作り出してないぞ」
トールは実地で性能評価をしたかったので、特に《守護者の巨人》を使用していない。
何でわざわざそんなこと聞くのかと考えていると、馬車の中から視線を感じる。ナーリャとクリシュ、そしてカルンとイオンはおおー、といった様子で見ているのに対し、リューナは額に手を当てて天を仰いでいる。
トールはあれ? と思っていたが、取り合えず先に進めるようになったのでゴーレムは邪魔だなと思い、バッグの中に収納する。
口元だけ空間拡張されたバッグの上にゴーレムを移動させ、背から本体である杖を出すと、内部の空間拡張の魔法陣を起動させる。そうして徐々に空間が拡張されることで、ゴーレムはバッグの中へと入っていった。
トールは最後に口元の空間拡張を切って、普段どおりの大きさのバッグに戻すと、それを自分の体へと巻きつけた。
「さて、戻るとしようか」
ボーっと立っていたペルラに声を掛け、トールは馬車の中へと入っていく。
声を掛けられたペルラは、ハッと気付いてトールの後に馬車へと乗り込んでいった。
「お帰りなさい、トール様。先ほどはすごかったですね」
「ゴーレムってあんな力持ちだったんすね」
「すごい力でしたね」
トールが中に入ると、賞賛を浴びせられる。自分のつくったゴーレムが評価されてトールが気をよくしていると、いきなりリューナに引っ掴まれ、その顔元まで引き寄せられた。
「ちょ、ちょっとリューナ。近い、近い」
「トールさん、一体どういうことですか。説明して下さい」
トールはそんなことをリューナに言われ、一体何のことだと首、というか宝玉部を傾げる。
リューナはトールに伝わってないと悟ると、一度大きく深呼吸をして話し始める。
「トールさんの作ったゴーレムの事です。あの力はなんですか? 頭部に収められている魔石程度では、魔力が足りないはずです」
通常のゴーレムの力は先ほど述べたように、魔力の消費量によって決定している。それも過剰に力を発揮すると、それは二乗関数的に増えていき、下手をすると一瞬で魔力切れを起こす。
「あ、あれな。あれは油圧って言って、力を効率よく拡大できる機構を備えているんだよ。それでもって増幅した力を使っているんだ」
ユアツ? と口の中で呟きながら、リューナはさらにトールを問い詰める。
「そのユアツというものはなんですか? どういった構造をしてるんです? なぜそれで力を増幅できるんですか?」
リューナの怒涛の質問に、トールは一旦落ち着けと言って距離を離す。
少しの間トールに宥められ、リューナは徐々に落ち着きを取り戻していった。
「落ち着いたか?」
「ええ、すみません取り乱しました。それにしても、相変わらずトールさんのすることはおかしいです」
おかしい発言をされ、トールは心外だと言葉と態度で示す。態度と言っても、柄の部分をうねらせているだけではあるが。
「それで、あのゴーレムの魔力容量はどの程度残っているんですか? あれだけの仕事をして、そのユアツというものを使ったとしても、かなりの量を減らしているとは思うのですが」
トールは少し思い出してみる。杖の体になったからか、はたまた別の理由かはわからないが、魔石に込められている魔力残量というものを、トールは感知できるようになっていた。
「そうだな。使った量としては、10分の1程度か? もうちょっと効率化したいところだな」
そのトールの答えに、リューナはまたしても頭に手を当てる。驚愕、というか呆れるといった様相の方が近い態度である。
「すまないが、馬車を発進させてよろしいかな?」
トールとリューナが話しをしていると、そこに横から声が掛けられる。とっくに馬車の中に入っていたペルラである。
2人の会話に、馬車の発車を止めていたようである。
「すみません、大丈夫です」
「すまない、発車してくれ」
トールとリューナは謝罪し同意を伝えると、ペルラは御者に進むよう指示を出す。
ゆっくりと馬車は揺られながら、歩み始めた。
「それで、先ほどリューナ殿が仰っていたトール殿のゴーレムは、やはり何か変な点があるのだろうか?」
ペルラはトールのゴーレムが作業しているのを見て、その力に驚いていた。人型のゴーレムというのも珍しいが、その人型が木々をやすやすと運び出していく姿に、衝撃を覚えていたのだった。
「そうですね、通常ゴーレムというのはその魔力量によって力の大きさが変わってきます。そういった意味ではトールさんが扱っていたゴーレムは、異常といえるほどの力を発揮していたのです」
「そうだね。トールのゴーレムはちょっとおかしいかも」
変だの異常だのといわれ、トールとしては甚だ不服である。しかしナーリャにも同意され、ちょっとばかしへこむ。
「ですので、先ほどの作業を見ていて私もその異常性に気がついて、思わずトールさんを問い詰めてしまったのです」
ちょっと顔を赤らめながら、リューナはさっきのことを話す。さすがに周囲の目を気にせずいきなり問い詰めたことは、恥ずかしかったようである。
「だから油圧機構をゴーレムに取り付けてあるんだよ。結構複雑なシステムだから説明は割愛するが、要はパスカルの原理を使ったものだな」
トールの説明は、ほとんど説明になっていない。パスカルの原理なぞ言われても、はっきり言って意味不明である。この辺技術者の悪い癖であった。
理解が及んでいないと面々の顔をみて判断したトールは、ナーリャに紙をペンを取り出してもらい、それを図にして説明する。
油の入った中央で太さが変わる筒の左右にピストンを描く。そのピストンに矢印で力の方向を描きながらトールは説明を追加する。
「こっちの小さなピストンを押すと、反対側の大きいピストンも動く。その際大きいピストンは受ける面が大きいため、反対の小さなピストンが押されることによって発生した圧力でも、大きな力を得ることが出来る。これを利用したのが、油圧機構だ」
ナーリャとリューナは理解しているようであったが、その他は皆頭にクエスチョンマークを浮かべている。イオンはまだトールの描いた図を理解しようと必死に睨んでいたが、カルンは途中で理解することを諦め、クリシュ、ペルラはなんだか呆けたような顔をしていた。
「えっと、この原理って確かにわかるんだけど、本当にこれで成立してるの?」
「ああ。この原理を使うことで、小さな力で大きな力を生み出すことが出来る。ただし、その分距離が必要になるけどな。小さいピストン側は動く距離が大きくなり、大きいピストン側は動く距離が小さくなる」
「そうやって力を送っているのですね。確かにゴーレムとの相性はいいかも知れません。力が大きくなればなるほど、その魔力消費量は膨大になっていきますから」
そうやって魔道技師2人と杖の専門的な会話が続き、ほかは取り残されたまま王都に向かい馬車は進んでいった。




