杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト11
昼食のあと、トール達は冒険者ギルドまで行ってカルンとイオンに正式に護衛の依頼をする。護衛の依頼を受けた二人は、すぐさまそれを引き受けてくれて、念のため当日まで一緒に生活することとなった。
それは仮に何処からか情報が漏れた場合、直接ナーリャ達を狙ってくるかもしれないと考えたトールの頼みである。トールとしては、はっきりいって屋敷で攻撃された黒装束のような者に襲われた場合、一人では守りきれないと思っていたためである。
「さてと、準備も済ませたし、忘れ物ないよね?」
そうやってカルン達に護衛をしてもらって、特に大きな問題に会うことも無く3日が経過し、王都へ向かう日となった。
コンテストに出品するランプは問題なく作成でき、クリシュに一度見てもらって高評価を得ていた。あとは自衛のための道具作成に時間を費やしていた。
「大丈夫です。カルンさん達は問題ありませんか」
「あたいらも大丈夫っすよ。ね、イオン?」
「はい。準備は済ませてありますから」
王都への出発に当たり、まずはクリシュの屋敷へとむかう。
ちなみにトールは現在杖のままであり、ゴーレムには乗っていなかった。というのも、王都までは馬車で移動するため、大きなゴーレムは邪魔にしかならないためだ。
そういった訳でゴーレムは、それ専用に空間拡張の機能を持たせた収納バックを作って、トールにくくりつけて運ばせることとなったのである。。
「お待ちしておりましたわ、皆様」
クリシュの屋敷に到着すると、既に馬車が用意されておりクリシュが出迎えてくれる。クリシュは皆の到着が待ちきれなくて、馬車の外にでて待ち構えていたのである。
「おはよう御座います、クリシュ様。今日から宜しくお願い致します」
「はい、こちらこそ宜しくお願いしますね」
それぞれが挨拶をすると、クリシュは胸の前で両手を合わせながら、ウキウキといった様子でそれらに返答する。まるでピクニックに行くような、そんな浮かれ具合である。
かなりの緊張感を持ってきた一行としては、なんだか拍子抜けである。しかしクリシュの周りにいる護衛達は、表情を固くし常に周囲の警戒を行っているようであった。
その中にはトールの見知った顔もある。騎士のペルラと、アルマースの護衛についていたカルプスだ。
「おはよう、諸君。今回はよろしく頼む」
ペルラはトール達一行に挨拶をすると、早速とばかりに馬車へと案内する。
その馬車はいかにも貴族が乗っていますと言わんばかりに装飾が施され、大きさもかなり広いものとなっている。そして良く見ると各箇所に鉄板が打ち付けられており、強度もかなりものと考えられた。
そしてトールが一番気になっていたのは、この馬車を引っ張る馬である。明らかにその形状は生き物ではなく、鋼鉄に彩られたつくりをしている。まず間違いなくゴーレムだ。
「馬のゴーレムか。骨格も似ているし、外装を鉄で作ることで防御面も考慮しているな。後は文字通り馬力は……とナーリャ! まって、ちょっとまって!」
「はいはい。いくよトール」
トールはその馬ゴーレムに気を取られ見入っていると、ナーリャに掴まれ馬車の中へと連れて行かれる。
しぶしぶ馬車の中に連れて来られたトールは、気を取り直して中を観察する。内装もまた豪勢に整えられ、座席は広く設けられており進行方向とその逆にそれぞれ4人ずつ、計8人ほどが入れるようになっていた。
その中にナーリャとリューナ、カルンとイオンにクリシュとペルラが入り込む。
「あの、私達も中で良いんでしょうか?」
そういったのはイオンである。2人はナーリャ達に雇われた護衛であって、今回の賓客というわけではない。そのため外で付いていく方がいいのではないかと思ったためだ。
しかしクリシュはそんなことを思っていると知ってか知らずか、イオンの言葉を否定する。
「せっかくきて頂いたのですし、一緒に乗っていきましょう」
それは護衛にする対応としてではなく、友人に対する態度である。
イオンは困った表情をして、断るかどうかを考えていたがそこにカルンの声が掛かる。
「こういってもらってるし、良いんじゃないっすかね?」
あまり物事を考えない友人にイオンは一瞬迷ったが、それも直ぐに振り払ってクリシュの好意を受け取ることにした。クリシュの申し出はありがたかったし、護衛としても同じ馬車に乗ることで出来ることもあるだろうと考えたためである。
「解りました。ご好意に甘えさせていただきます」
イオンの考えを理解していないクリシュは、素直に同乗することに喜ぶ。
トールはこちらが雇っている護衛が、クリシュと同乗することに問題が無いのか気になり、ペルラへとこっそり尋ねる。
「いいのか?」
「クリシュお嬢様が決めたことだ。それに、彼女らは優秀な冒険者と聞いている。信頼も出来そうだし、問題ないだろう」
冒険者ギルドに確認している、とペルラはトールに話す。冒険者ギルドに加入しているというだけで、ある程度の信頼は出来るというのだ。
以前トール達が鉱山へ行った時、その冒険者ギルドに加入していた者が山賊と手を組んでいるという案件が発生したが、その後にギルド内でそれが問題視されることとなった。自分らの信頼がその件でがた落ちするのを避けるべく、大規模な調査が行われたのだ。
その結果、幾人もの山賊や盗賊に組するものが見つかり、そのほとんどが罪人として処罰されることになった。一部は行方不明になったものもいるが。
そのような理由で、現在の冒険者ギルドは信頼を何とか回復しつつあり、ペルラもまた大丈夫だと判断したのである。
「そうか。ならいいんだ。こっちとしても助かるしな」
トールはペルラの答えに納得して、この件はこれ以上口出ししないことにする。トール達にとっても喜ばしいことでもあるため、文句は無かった。
「さて、お嬢様。出発いたしますが、よろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
御者に尋ねられ、クリシュは出発の許可を出す。
馬車に繋がれた馬ゴーレムたちは、御者が手綱で一度叩くとゆっくりと進み始めた。
馬車の周りには馬に載ったカルプスのほか、何名か騎乗して付いている。他にも前方と後方にも馬車が配備されており、それぞれに馬に乗った護衛と、そうでない護衛が数名つきしたがっていた。
一行は街の東から門を出ると、そのまま街道を進む。道中すれ違った人々は道を譲り、頭を下げて通り過ぎる。そういった行為から、流石の貴族様の馬車だとトールは感心していた。
「どのくらいで王都には到着するんだ?」
「そうですね。このペースですと大体10日前後かと。その後はコンテストに出品をして、本番まで待機といった予定でしょうか」
「その通りだ。到着した後は出品後待機して頂きたい。その間お嬢様は、社交の場があります」
「わかっています。それが私の仕事ですね」
クリシュは一瞬暗い顔を見せる。トールはその表情から何かあるのかと感じ取る。
「社交の場というのは、貴族の集まりか何かか?」
「ええ。このコンテストには、そういった側面もあります。国王陛下が開いて下さったものです。その意に感謝をし、そして貴族同士でも交流を深めるといったことも重要となるのです」
トールはそれもそうかと納得するが、そうすると先ほどの暗い表情は説明が付かない。しかしこれ以上踏み込むのも躊躇われたため、今は先ほどの表情には気が付かなかったことにした。
「そっか。貴族様も大変なんだな」
「ふふっ、トール様も参加して見ますか?」
「遠慮しておくよ。そんな大変そうな所には行きたくないよ」
柄の部分をJの字にまげて、トールは丁重に断りを入れる。
ナーリャ達はすっかりなれているが、やはり杖がうねうね動くのは面白いらしく、クリシュはクスクスと笑っていた。
そうして会話をしながら進んで行き、3日が経過する。途中村々を訪れ、そこで休息を取りながらの進行であったので、そこまで距離は稼げていない。ただその速度を見込んでの日程だったのだろう、今のところは計画通りということであった。
そして出発して4日目、相変わらず大きめの馬車に乗っている一行は、馬車内の中央に設置したテーブルの上に魔道具置かれた魔道具を眺めていた。
暇つぶしにクリシュが何か無いかと聞き、ナーリャ達がそれに答えたのである。
「こっちがペリエ薬って言って、傷薬だね。それでこっちがピアンの錠剤で鎮痛剤とかに使われるよ。他には冷気の筒と呼ばれるもので、これを投げつけると一瞬で凍っちゃうんだ」
さり気に混ざっている危険物にペルラが反応しているが、それとは気が付かずにナーリャは取り出した魔道具の説明をしていた。
「魔道具というのは、基本的に魔法陣が刻まれたものではないのですか?」
ナーリャの説明を受けていたクリシュは、自分が知っている多くの魔道具に魔法陣が刻まれていることを見ていた。そのため、薬など魔法陣が何処にもないものを魔道具と紹介され、疑問に思ったようだった。
「そうでもないのです。今現在魔道具と呼ばれているものには、二つの種類が存在します。一つが先ほどクリシュ様が仰られた魔法陣を刻んだもの。こちらは流し込まれた魔力を魔法陣によって制御し、魔法のような効果を発揮します」
リューナはテーブルに並べられた魔道具のうちの一つを手に取る。それは紙に魔法陣が描かれたものである。
「そしてもう一つが、各種材料を組み合わせて特定の効果を発揮させるものです。先ほどの薬などがこれにあたりますね。その素材自体が持つ魔素、もしくは魔力を使い効果を発揮させることで、自分の魔力をほとんど使うことなく大きな効果を得られます」
プラーミァなどの爆弾もこちらに属する。小さな魔力を流すことで起爆のスイッチが入り、短時間で火と風の魔力が広がり爆発を引き起こすのである。
「例えばこの冷気の筒と呼ばれるのは、シェーロ氷石と呼ばれるものとトゥルビネの根を混ぜ合わせたものです。これは魔力を込めて投げつけると、一面を凍りつかせます」
リューナは口にしなかったが、この調合型の魔道具の利点は使用者の属性に関係なく使えるといった利点もある。そのためナーリャ達欠陥魔道師にも問題なく使用できるのである。ただし、カルンは魔力そのものを外に出せないため使用は不可能であった。
「魔道具と言っても、色々な特性があるものなのですね。コンテストに出る前に聞けてよかったですわ」
「少しでもお役に立てたのなら嬉しいです」
クリシュは色々と置かれている魔道具を手に取りながら、面白そうに一つ一つ眺めている。
とそんな時、急に馬車が停車する。ナーリャは急いでテーブルに置いてあった魔道具を落ちないように受け止める。
「どうした、何かあったのか?」
ペルラが御者に確認すると、前方にある川に架かっているの橋が落ちていると先行隊から連絡があったとのことである。
「北のほうにもう一つ橋があるはずです。そちらに向かいたいと思いますが、どうでしょうか?」
「うむ、そうするしかあるまい。そちらへ向かってくれ」
ペルラはそう即答する。
さてと、とトールは一考する。こんな橋が落ちるなど、何か起こりますと言っている気がしてしょうがなかった。
「北の橋までどの程度かかる?」
「なに、数刻といった程度で日程には影響がないだろう」
「そうか。なあ、橋ってそんなに落ちるものか?」
「……トール殿の言いたいことは分かる。しかし他に道が無いのも確かだ。先行隊に哨戒してもらっているので、何か起こったとしても容易に対処できよう」
どうやらペルラもトールと同じ考えであったようだ。だが今回は多くの護衛も連れており、中には実力者である騎士もいる。
そういった意味で危害を加えようとするものの排除は容易と考えているようであった。
しかしそんな風に説明されても、トールとしては一向に安心できるわけも無く、ここから先緊張感を強めて進んでいくことにした。




