杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト10
コンテストに向けて準備のためトールが退席した後、アルマースはまだ同じ部屋に残っていた。
クリシュも退出し、その護衛であるペルラもまたクリシュに付いて行っているので、ここに残っているのはアルマースと騎士であるカルプスのみである。
「さて、どう思う?」
どうと聞かれ、主人の問いに一瞬頭を悩ませたカルプスは、おそらくは魔道技師の2人に関してのことだと思い答える。
「確かに優秀かと。あの年齢を考えれば将来が非常に楽しみです」
しかしアルマースは、ふむと一言言うだけで同意も否定もしない。
なにか間違ったかとカルプスが考えていると、アルマースが話し始める。
「確かにあの2人は優秀だ。ナーリャ女史は流石かのサーフィ導師の御孫さんというだけのことはあるね。しかし調査した結果と比べると、聊かおかしな点があってね」
「おかしな点、と申しますと?」
「彼女は欠陥魔道師のはずなんだよ。私も詳しくは知らないが、魔道技師においてそれは致命的のはずだ。しかし現に彼女は魔道具を作り出せるどころか、革命的なものまで発明している」
アルマースはカルプスの表情を確認するが、彼はいまいち解っていないといった表情を見せている。
アルマースはポケットから小さな紙を取り出すと、そこに書いてある文章を読む。
「もう一人のリューナ女史は、学院に在籍していてね。そしてまた彼女も欠陥魔道技師だ。そんな2人が集まったところで、こんな物を発明できるとは思えなくてね。そうなると鍵となるのは……」
「かの杖ということでしょうか?」
漸く理解いったとばかりに、カルプスはアルマースへと答える。
「その通りだ。そう考えると辻褄が合う気がしてね。それにあの杖自体かなりの知性を持っているようだ。それと忠誠心かな」
アルマースは先ほどまでのトールとのやり取りを思い出す。
表情が読み取れず、真意を把握できたとは言い辛いが、アルマースはトールのことを評価する。こちらの言葉と行動の節々から、何をこちらが求めているのかを理解し、それに対する答えも持ち合わせているようであった。その点からすれば、下手な貴族より頭の回転が速いと思われる。
「そして、あの光る腕だね。あれは厄介だ。おそらく初撃もあれで防いだんだろうね」
《守護者の巨人》で作り出した腕のことである。
アルマースは特に本気でトールのことを壊そうとは考えていなかった。しかしだからと言って、無傷で済むような命令をした覚えもない。
あの装束衣装の者、自分の草には壊さない程度で一撃を入れろと命令してあった。そして彼の者がもつ短刀は、魔法が込められておりその切れ味は、大木すらまるでバターを切り裂くかのごとく両断できる。
「あの一撃、君ならどう防ぐ?」
「ハ。気付いた時点で私ならば全力で回避行動をとります。あの者の得物は、正直受け切る自信はありませんから、まずは距離をとります」
カルプスは直立不動のまま答える。その答えに満足したアルマースは、ゆっくりと頷く。
「そうだね。しかしあの杖は完全に不意を突かれたにも関わらず、あれを防いだ。回避ではなくね。ということはそれだけの強度があるということだ。となると、完全に防御に回ったあの杖を崩すことは、それだけ難しいと思うよ」
確かに、とカルプスは同意する。かの草の者が使用している短刀は、それだけ業物であると認識していたからだ。たとえ下賜された今着込んでいる魔道甲冑でさえ、あの短刀による一撃を防ぎぎるのは困難であろう。
「そして話は戻るけど、あの欠陥魔道師である2人の魔道技師のお嬢さん方が、かの杖と出会ってから次々と発明をしている。そうなってくると、そもそもの要因は彼女らではなく、あの杖ということだね」
やれやれ、と言ってアルマースは深いため息を吐く。しかしその表情はとても楽しそうなものである。
「クリシュのお遊びも捨てたもんじゃないね。さてと、彼のことは一旦置いておいて、城へ戻るとしようか。他にもやらなきゃならないことが多いからね」
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自分達の家に戻ってきた2人と1本は、テーブルに付くと途端にその体勢を崩して大きく息を吐いた。
「つ、疲れたよ~」
「ええ、流石に。まさか公爵自身が出てくるとは、露とも思っていませんでした」
「あのおっさん、いい性格しすぎだよ」
いつもなら直ぐにナーリャがお茶を淹れるが、今回の面談で疲れきった彼女は動こうとはしない。というか疲れきっていて動けない。
2人の疲れきった様子を見て、今回はと思いトールが台所へとゴーレム姿のままお茶を淹れに行く。傍から見れば全身黒甲冑の大男が、台所でお茶を淹れているというかなりシュールは光景である。
トールはそんなことは気にせず、台所に置かれている普段2人が使っている魔道具を使って水を出し、湯を沸かしてお茶を淹れる。これらの魔道具にもなれたものである。
そうやって淹れたお茶を持っていき、2人の前へと置いていった。
「ありがとう、トール」
「ありがとう御座います、トールさん」
2人はそれぞれがお礼をいい、お茶を口に含ませる。そうして一口飲むと、ようやく落ち着いたとばかりに体勢を正した。
「さて、それじゃあトールさん。いくつかお尋ねしたいことがあるのですが?」
リューナの目が笑っていない笑顔を向けられ、トールは気持ち目を背ける。大体どの話かは目星が付いていた。
「えっと、空飛ぶ箒の話か?」
「他もありますが、まずはそれから行きましょう。今回空飛ぶ箒が、コンテストの出品を断られた理由を覚えていますね」
無論トールは覚えている。簡単に言ってしまえば、こんな危険な技術拡散できるか、といった話である。
「私達もそこまで頭が回っていなかったことは悪いと思っていますが、せめてその忠告ぐらいして下さい。であれば、流石にあれを貴族に売ったりしません」
リューナが怒っているのは出品を断られたこと自体ではない。その危険性を黙っていたことに腹を立てていた。そして……
「これらの技術は、トールさんに教えてもらっています。重力属性の魔法しかり、それを用いて空を飛ぶという発想もです。それがもし漏れれば、トールさん自身が危険に晒されることになるんですよ」
そう。危険だということもさることながら、リューナはトールのことを心配して怒っているのである。以前にも話に上がっていたが、トールの知識はそれを知ったものからは喉から手が出るものである。
今は《守護者の巨人》という自衛手段があるが、それでも狙われることを回避することに越したことはない。
「そうだね。トールのことだから、ゴーレムの事で頭いっぱいになっちゃって、最初は気付いてなかったんでしょ。で、後から冷静になった時に、気が付いたんじゃないかな?」
「はい。仰る通りでございます」
ナーリャの言うとおり、トールは空を飛べるという危険性について、かなり抜けていたのである。それもこれもゴーレムを作り出す資金のためと、興奮した状態で事を進めていたからである。
そしてゴーレムが完成間近の時、ふと箒のことを思い出してやってしまったと後悔したのである。こんな物、見る人が見ればその有用性と危険性なんか直ぐに感づくと。
トールはせめて気が付いた時に2人に話をしておけばよかったのだが、何だかんだで話しそびれていたのである。
「カバンについてはどうなのですか? これも気が付いていたのですか?」
「いや、カバンについては特に問題視していなかった。だがよくよく考えれば、これもかなりの技術だよな」
よく漫画や小説なんかで容量が多いカバンなんかが出てきているのを、トールは読んでいた。そのため、ファンタジー世界においてそういったものが登場したとしても、そんなに問題にならないだろうと考えてしまっていたのだ。
しかし冷静になって考えてみると、そんな物が広まっていない世界で悪用しようとすれば幾らでも出来る。せめて周知徹底されてからでなければ、運用は難しいだろう。
「わたしたちも、完全にうかれていたね。もうちょっと技術に対する心構えみたいなものを、きちんと考えなきゃいけないかな」
そんな発言をしたナーリャを、リューナは驚いた表情で見ている。
「まさかそんな発言がナーリャさんの口から出てくるとは…… 正直見直しました」
「酷いよ、リューナちゃん!」
ポカポカとリューナを叩いているナーリャに、トールはまぁまぁと言って宥める。
リューナもすみません、と笑いながら謝っていた。
「それじゃ、食事とった後に早速作業を始めよっか」
ナーリャはカバンから一つのランプを取り出す。それはアルマースより参考として借り受けたものだ。
それには木製で見事な彫刻が施されており、いかにも貴族が愛用していますといった形状をしている。これを参考に、光属性を使ったランプを作成する予定である。
「見事な彫刻だけど、一体どうするんだ? 俺にはこんな芸術じみたもの作れないぞ?」
形状変化の魔法陣は、術者が思い描く形状を作ることが出来る。反対に言えば、術者が思い浮かべることの出来ない形状は作れないということである。
トールにはこんな芸術的センスなんてものはないため、ナーリャ達に期待するしかない。
しかしナーリャ達は頭に?マークを浮かべトールを見てくる。
「なにを言っているんですか。模写の魔法陣を使えば、同じ形状の物が作れるではないですか」
は? とトールは思わず聞き返した。模写の魔法陣というのは聞いたことのないものであったのだ。
「あれ、トールは知らなかったの? 模写の魔法陣って言うのは、材料と元になる物さえ揃っていれば、同じ形状の物を作ることが出来るんだよ。ただし、魔力が込められた物とかは、その魔力ごとは模写できないから、注意が必要だね」
形状だけはコピーできると言った魔法陣である。
トールはそんなことを露知らず、ゴーレムを作成していた。そんなものがあるなら早く教えてほしかった。
「マジか。そんな便利な魔法陣があったなんて……」
「……もしかして、そのゴーレムは全て形状変化の魔法陣を使ったのですか?」
無言で頷くトールに対して、リューナはため息と共に呆れた表情をする。
形状変化の魔法陣は頭に思い浮かべた形状を作り出すことが出来る。言い換えれば思い浮かべ続けなければならないのだ。この作業、実は結構な精神を使う。
トールは思わず脱力してしまった。多くは同じ部品を組み合わせているゴーレム作成に、トールは模写の魔法陣を知らずに、形状変化だけで作成していた。かなりの疲労感を感じながら作業していたのに、実はもっと楽な方法があったのである。
「俺の努力は一体……」
「ほら、落ち込んでないで食事にしよ?」
ナーリャにゴーレムの頭をなでられて励ましを受けながら、トールは心の中で泣いているのであった。




