杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト8
「今回のコンテストは2部に別れています。一つは作品をつくり、それを出品するといったものです。こちらは前もって作っておいた魔道具を品評会にだして、それの評価をもらうというものです」
クリシュの説明に、これは思っていたものだなとトールは考える。問題はもう一つの部である。
「もう一つは、その場でゴーレムを競わせる、といった内容となります。これは国王陛下が魔道具のゴーレムに強い感心をお持ちのため、と考えられます」
その説明を聞いた瞬間、トールは我が世の春が来たと舞い上がる。
いま纏っているゴーレムが完成したと同時に、ゴーレムコンテストである。これはこいつの評価を他のものに見せ付ける、とてもいい機会だと。
「よし、引き受けよう」
「トール、落ち着いて。クリシュ様の説明はまだだからね」
思わず口に出していたトールに、ナーリャはそれを窘める。
「ふふ、頼みますね、トール様。さて、それで出品する魔道具なのですけれど……」
「それについては、私が一つ口を出した」
そういったのはアルマースだ。
その発言に何事かとトール達はアルマースのほうを見る。
「すまないが以前娘に売った、空飛ぶ箒は無しだ。これはいけない」
前もって聞いていたのだろう、クリシュは不満そうにしている。
ナーリャとリューナは、なぜだろうと疑問を覚えているが、トールにはなんとなく検討が付いた。
「他の貴族に、この箒の存在を知られてくない、ですか?」
「ふむ、その通りだ。なぜだと思う」
トールは考えるまでも無い、と思っていた。それは以前からトールも考えていたことだからだ。
「危険だからです。人の行き来のみに使用するなら、この箒は画期的でしょう。しかし、他の用途を考えると危険と判断されたのではないですか?」
「ふむ、君は面白いな。その通りだ。はっきり行ってあの技術は危険だ。国王陛下にお伝えするにはいいが、他の貴族には知られたくない」
「危険とは、一体どういうことなのでしょう。私には空を飛べるなんて、素敵なことだと思いますけど」
駄目だとしか聞いていなかったクリシュは、父の発言に疑問を投げかける。
アルマースは、ちらりとトールを見る。説明を促すように。
「クリシュ様。あの技術は確かにすばらしいものですが、こと軍事に関すれば大変危険です。空から一方的に攻撃できますから。他にも短時間で移動を可能にするというのは、おそらく戦場を変えるでしょう」
トールの説明に、満足そうにアルマースは頷いている。概ね彼の思っていた内容通りだったようだ。
「他にもいくつか考えられます。空からの奇襲。空からの物資運搬による関税の脱税。最悪は王城が空からの攻撃に晒される事でしょうか」
「その通りだ。最低限の空に対する防衛を構築しなければ、この技術を用いることは出来ないだろう」
トールが説明し終えると、視線を感じた。ナーリャとリューナである。その視線は、後ではなしがあるとトールに対し雄弁に語っていた。
「さて、そういうわけで空飛ぶ箒は無しだ。他に何かいい魔道具はあるかね?」
「えっと、それならこれはどうでしょう?」
そういってナーリャが取り出したのはカバンだ。もちろん空間拡張と重量軽減の機能を持たせたものである。
「ほう、そのカバンは何かの魔道具かね」
「はい。中を見ていただければ解るかとおもいます」
ナーリャはカバンの口を開けるとそれをアルマースのほうへ見えるように向ける。
その中はとても少女が持つカバンとは思えないほど、大きな空間が広がっていた。それは横に広がっており、高さ方向は口元から手が届く範囲になっている。
「これは……」
「このカバンは中の空間を広げて、多くの物を入るようにしています。その分重量が嵩むのですが、それも軽くするための魔道技術が使われています」
アルマースは思わず、といった感じでカバンに触れようとする。しかしそれを後ろに控えていた騎士カルプスが止めた。
「お待ち下さい、閣下。私が一度確認します」
「そうか。分かった」
カルプスはナーリャに許可をもらい、カバンを調べ始める。全体を調べ上げると、危険が無いことを確認してアルマースへと渡した。
「これはすばらしいな。これは一台の馬車で多くの物が運べるな」
「まだ改良の余地はあるかと思いますが、如何でしょうか?」
この空間拡張を使ったカバンは、結構な改良を加えていた。
最初期のものは空間が広すぎて取り出せないという欠点を抱えていた。しかしいまアルマースが見ているカバンは、横方向に広がるように魔法陣を改良し、手が届くようになっている。
無論横に広げるだけでは今度は横に手が届かなくなるだけなので、口の位置を自由に変更できるようにしていた。
「これは何処まで広げることが出来るのかね?」
「試したことは無いですが、以前は広すぎて手が届かないくらいでした。この部屋より少し狭いくらいでしょうか」
リューナの説明を受けて、アルマースはもう一度唸る。様々な事を考えているようだ。
「すまない、すまないが出来ればこれも無しにしてほしい。理由は先ほどの箒と同じだ」
そうして考えた結果、このカバンも駄目ということになったようだ。正直トールはこれなら大丈夫だと思っていただけに、ガックリときた。
「どうしよう……」
「どうしますか」
他にも作っていた魔道具はあるが、これらよりインパクトがある物が無い。いや、この場合はインパクトがありすぎたのが問題なのだが。
魔道技術の発達具合をあまり知らないトールはもとより、最近トールに毒されてきているナーリャとリューナには、思いつかないのであった。
「ふむ、そうだな。王都では今ランプがはやっているという」
アルマースは悩む3人に対して、そんなことを口にした。
曰く、装飾華美なもので魔力によって作られた火にて照らすランプが人気なのだという。出来るだけ少ない魔力で、多くを照らせるものを持っていることで、自身のステータスになるということだ。
「なんでそんなものが?」
「なんでも遠くまで照らすランプが、その地方の魔道具の技量を顕しているということだ。遠くまで行けば行くほど、優れているというね。大体は王都で買っているのに、自分の領地も何も無いもんだと思うがね」
確かに一目見て優れているか判断できるのは、素人にとっては分りやすい基準である。そういった意味では、ランプは優れたものであると証明しやすいといえた。
「それじゃ、あのランプでいいんじゃないか。ほら、ナーリャが作っていた奴」
「あれ? いいのかなぁ」
ナーリャとリューナはトールに追加で魔法を教わっていた。それは世間一般に認知されている4大属性外の属性である。火水土風以外の、雷、光、重力、時空の属性を持つものだ。
その中でナーリャは自分が持っていた光の属性に興味を持った。他の属性の魔法は教わっていたが、光はまだだったためである。
そうして光属性の魔法を教わったナーリャは、早速をばかりにそれを魔法陣へと変換した。そうして出来たのが、光属性のランプである。
実はこのランプ、大変重宝していた。というのも、炎で照らすランプより明るく部屋全体を照らせ、しかもかなり少ない魔力で使用できるからである。まさに御誂え向きである。
「なにかいいものあるのかね?」
「はい。わたしが作ったランプなんですが、かなり明るいものなんです」
「ふむ、ぜひ一度見て見たいが、今は持っているかね」
「すみません、今は手元に無くて」
さすがに日もまだ出ている時間であるため、ランプは持ってきていなかった。
ナーリャが謝罪すると、アルマースはそれもそうだと笑いながら答える。
「出来れば見て見たい。すまないが取りに行ってもらってもよいかな」
「分りました。直ぐに行ってきます」
ナーリャが立ち上がると、それを一度アルマースは止める。
「流石に歩いては大変だ。直ぐに馬車をだそう。少し待ってもらえるかな」
アルマースは手を叩いて、先ほど案内をしてくれた執事に伝える。
執事はそれを聞いて承知しました、と直ぐに手配に向かった。
「さて、馬車は表に来るから、そちらで待ってもらった方がいいかな。クリシュ」
「はいお父様。皆様をご案内いたしますわ」
普通公爵の娘が、市井の一般人の案内などしないだろう。しかしそれを当たり前のように指示し、それをクリシュは受けていた。
流石にそれは、とナーリャが断りをいれようとするが、クリシュに気にしないで下さいという声に押し切られ、そのまま案内されることになってしまった。
「そういえばトール殿だったかな。声は男性のようだし、男同士で話したいのだがよいかな?」
つまりトールはここに残れを言うことだ。
ナーリャとリューナは少し心配そうにトールを見るが、トールが頷いたのをみると、クリシュに案内され表へと出て行く。
部屋に残ったのは、トールとアルマース、それに控えているカルプスのみとなった。




