杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト7
次の日、トール達は朝も遅いといった時間に、クリシュの屋敷へと向かっていた。ちなみに、今日もトールがゴーレム姿である。
貴族区に設けられており、街の中央より北西に位置している。城塞で囲われているダナンであるが、その一画もまた壁に覆われていた。といっても塀といった高さのものであるが。
その入り口を警備している門番に中に入る理由を告げ、貴族区に入っていくと、そこは整えられた街並みが並んでいる。
使用人と思われる者が荷物を運び、いかにもといった上品な服を纏った人間が馬車へと入り込む。
そんな光景を目にしながら、トール達はクリシュの屋敷までたどり着いた。
「そこで止まれ。なに用か?」
クリシュの屋敷の前に立っていた2人の門番の内、一人がいかにも真面目な口調でトールを見ながら尋ねてくる。その様子はいかにも警戒していますといったものである。
「『流れる羽』店主のナーリャと申します。クリシュ様に依頼の件で参りました。御目通りを願います」
ナーリャは自分が思いつく限りの礼儀作法で門番に伝える。その横でリューナが頷いていた。
少女が代表と思っていなかった門番は、驚いた顔をしたと隣にいたもう一人に目配せする。もう一人は頷き、敷地内へと入っていく。クリシュへと確認に行ったのだろう。
「暫しお持ち頂きたい」
確認しに行った門番を待っている間、トールは常に視線にさらされている。全身甲冑の大男が立っているのである。警戒されない方がおかしいだろう。
居心地の悪さをトールが考えていると、先ほど確認しに敷地へ入っていった男がもう一人を連れて戻ってきた。
連れてこられた男はいかにも執事といった洋装で、背筋をピンと伸ばした姿勢でトール達のほうへとやってくる。
「ナーリャ様にリューナ様、それとトール様ですね。クリシュ様がお持ちです。こちらへ」
綺麗なお辞儀をすると、その執事の男性は中へ入るようトール達を促す。
その案内について屋敷の中へと入っていく。その玄関は絨毯が敷き詰められ、調度品らしいツボや甲冑などが置かれているが、どれも纏められた装飾がなされており、センスの良さをうかがわせる。と言ってもトールには詳しいことは分からなかったが。
そのまま廊下へと案内され、ある一室の前までつれてこられる。その部屋のドアは両開きになっており、いかにもな空気をかもし出していた。
「旦那様、お嬢様。御3方を御連れ致しました」
執事はノックをすると、トール達が来たことを伝える。
その内容にトールが首おwかしげていると、中からクリシュのどうぞ、という声が聞こえてきてドアが開けられる。
その部屋の中は広く、余裕で10人以上が入れるだろう。その中央には横に長いテーブルが設けられており、こちらから見て向かい側には一人の立派な髭を蓄えた男性と、その隣にクリシュが座っていた。そして後ろには騎士と思わせる男性と、ペルラが立っている。
「ようこそいらっしゃいました。ナーリャ様、リューナ様、トール様」
クリシュに歓迎の意をしめされると、執事に席を勧められる。それぞれナーリャ、リューナ、トールの順に座ると、目の前の髭を蓄えた男性が手を叩く。
それに反応したかのように、トール達の前にはガラスのグラスに入った飲み物が置かれていく。その薄い黄色のような飲み物は、果汁を絞ったものだろう。
一通り配り終えると、男性が口を開いた。
「まずは娘の要望を聞いていただき感謝する。私はアルマース・ダナン。この付近の領主をさせてもらっている」
その紹介に、それぞれが驚いた表情を取った。まさか公爵本人が来るとは思っていなかったためである。
あまりの驚きに固まっていると。そのトール達の様子にまるで悪戯が成功した時の子供のようにニヤリと笑い、アルマースは満足そうに飲み物を飲む。
「いやいや、驚かせて悪かったな。何分娘が友人を連れてくることなど、一度も無かったものだからな。どんな御仁か興味があったのだよ」
「もう、お父様ってば……」
隣に座っていたクリシュは少し恥ずかしそうに顔を赤くする。
トールは取り合えず気を取り戻すと、まずは名乗り上げることにした。
「失礼しました、公爵閣下。私はトール。しがない杖で御座います。そしてこちらの2人が……」
「『流れる羽』店主、ナーリャでごじゃいます、公爵閣下」
ナーリャは緊張のあまり思いっきり噛み、顔を真っ赤にして項垂れる。それを見たアルマースは、ハッハッハと笑い声を上げる。
「いや、失礼したナーリャ殿。そしてそちらのお嬢さんは……」
「リューナと申します、公爵閣下。『流れる羽』にて従業員として働かせて頂いております」
頭を下げ、リューナは自己紹介をする。その姿を見て、アルマースはふむ、と一声だすと、尋ねてくる。
「すまないがリューナ殿、以前お会いしたことがなかったかな?」
「いえ、お会いするのは初めてかと」
少しうつむいた状態で答えるリューナに、もう一度ふむ、というとアルマースは髭をなでる。
「そうか。すまなかったね、こちらの勘違いのようだ。さて、少しばかり性急だが、本題に入らせてもらうとするか」
「少しばかりお持ちを、閣下」
そう声を出してきたのは、アルマースの後ろに控えていた騎士の男性である。ペルラと同じ甲冑、魔道甲冑に身を包んだ男は、そう進言するや否や、トールを睨みつける。
「貴様、閣下の前にて兜を取らないとはどういうことだ!」
トールはそういわれ、一瞬困惑する。正直そんなことを言われるのは想定外であった。
もしかしてと思い、クリシュのほうをさりげなく見ると、クリシュはちょろっと舌を出していた。
これは伝えていないなと思い、トールは騎士に向かう。
「これは失礼した。では……」
そういってトールが兜を取ると、騎士の男性に驚きの表情が浮び上がる。トールが兜を取った後、その中身は一個の頭台の魔石が納められていたからだ。
「これは……」
騎士が驚いていると、クスクスといった笑い声が聞こえてくる。クリシュのものだ。
「ごめんなさい、カルプス。彼が例の杖の方ですよ」
「こやつが、ですか?」
クリシュは悪戯が成功したといった表情をしており、それは先ほどのアルマースのものと似ている。この親にしてこの子あり、といったものである。
トールは一応杖と名乗ったのに、と思いつつもゴーレムの背から出てくる。
その杖が一人でに外に這い出てきたことに、騎士カルプスはもう一度驚くことになった。
「失礼した。この体はゴーレムで出来ており、本体はこの杖となります」
トールは杖の柄を曲げ、一礼をする。
その無駄に堂々とした礼に対し、カルプスは困惑した表情となった。
「いや、こちらこそ失礼を申し上げた」
カルプスは一礼をもってトールに謝罪する。
その様子に、このカルプスという騎士は悪い男ではないな、とトールは感じる。こんな杖にわざわざ謝罪をするなど、早々出来るものではない。おそらく兜を脱がないことで主人を馬鹿にされたのだと思い、行動したのだろう。
トールがゴーレムに再度入り、兜を被る頃にはカルプスがアルマースに謝罪していた。
「閣下、話の腰を折ってしまい、申し訳御座いませんでした」
「なに、気にするな。さてお嬢さん方。話を戻すとしよう」
アルマースは少し座りなおすと、話を切り出してきた。
「娘からどの程度聞いているかはさておき、まずは最初から説明しようか。ことの発端は国王陛下の発布による魔道具コンテストだ。国の発展を思われての事だろう。しかし我が領地には正直言って、魔道技師が育っていない。そこで王都で選定を行ったのだが、いやはや、余計な横槍が入ってしまってね、その魔道技師は他の領地に雇われてしまったんだよ」
この辺りまでは先日クリシュに聞いた内容と同じである。違いは辞退した魔道技師が、他に雇われたということだ。
貴族の面子を潰したものが、他に雇われる。つまりは面子を潰した貴族にだろう。
「さて、困ったぞというところに、娘から進言があってね。優秀な魔道技師に心当たりがあると」
それがナーリャとリューナのことである。
2人は恐縮ですと謙遜をしているが、一緒に色々と開発をしていてトールから見ても優秀だと思う。
トールの《知識の泉》の能力に頼りきりになることなく、それぞれが新たな発想を元に考えている。時にはトールを驚かせることもあった。
「自分の領地の人間に、そこまで優秀な者がいるとは知らなかった。領主としてはいやはや、汗顔の至りと言う奴だよ」
ハッハッハと笑いながら、アルマースは両手を挙げる。その挙動からはトールには貴族の威厳というものはあまり感じられなかった。しかしそういった動作をわざとすることでこちらの緊張をほぐしてくれているのだろうと思い、いい領主かなと考えていた。
「ふむ。それでそのコンテストに君達に参加してもらいたい。ここまではよろしいかな?」
ナーリャとリューナははい、と答える。
満足そうに頷くアルマースを見て、トールは手を挙げた。
「一つよろしいでしょうか、公爵閣下」
「かまわないとも。それとアルマースで結構だよ。公式の場では困るがね」
ありがとうございます、と礼を述べてトールは尋ねる。
「済みませんが、我々はコンテストというものがどういったものか知らないのです。ご教授できればと」
「そうか。すまなかったね、説明をしていなかったね。では……」
「それは私の方から説明させて頂きたいのですが、よろしいですかお父様」
「そうか。クリシュが赴くからな。そうしなさい」
クリシュははい、というとコンテストについて説明を始めた。




