杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト5
「王都、ですか?」
ナーリャは困惑した様子でクリシュへと尋ねる。ナーリャには領主の娘であるクリシュに、王都まで同行を依頼される用事が思い浮かばなかったためだ。
「はい。それというのも、御2人はコンテストというものをご存知ですか?」
「コンテストですか? 一応は知ってはいますが」
通常コンテストといわれれば、様々な分野で行われる品評会のことである。各自が自分の政策物を持ち寄り、または技能を披露したりして評価を受ける場である。
そういった意味では知ってはいたが、わざわざクリシュがここで、それを挙げた理由については分らなかった。
「実はこのたび、国王陛下の御達しで魔道技術に関するコンテストを行うことになったのです。それを各貴族へと参加を促しておいでです」
話はこうだ。
いまトール達が住んでいるダナン城砦都市は、クリーオス王国に所属している。
このクリーオス王国はいち早く魔道技術に目をつけ、それを発展させることによって国力を増してきた背景がある。それ以前は、食料生産国として名をはせてきたが、今では魔道技術大国としての名が強い。
そういった背景の下、クリーオス国王は最新の魔道具を競わせることにより、よりよい魔道具の開発と人材の発見をなし、更なる国の発展の礎をしようとしているのである。
「そういった訳で、実は私達ダナン城砦都市へも招待状が届いたのですが……」
クリシュは少し良いずらそうに、一旦話を止める。
その様子を見て、リューナは空になっていたカップに再度お茶を注いだ。クリシュはありがとうと言ってカップを口に運ぶと、一口のみ、話の続きを始めた。
「出場するはずだった魔道技師の方が、急遽辞退を申し出てきました。本来ならそういったことは許可しないのですが、ある貴族より口出しがあったのです」
領主であり、クリシュの親でもあるアルマース・ダナン公爵直々に選定した者が、普通のものに口出しされただけで辞退などありえない。そういった意味では、かなり力のある貴族なのであろう。
クリシュはその貴族のことを濁しながらも、説明を続ける。
「正直申しまして、このダナン城塞都市とその周辺は、王都や東の土地に比べますと、魔道技術が遅れているのが現状です。そのため、王都より選抜して事に当たったのですが、その魔道技術者に抜けられてしまい、他のものを選定できていないのです」
「つまりは、恥ずかしくない技量をもつ技術者が必要というわけだな」
トールの意見に、その通りですとクリシュは答える。
「このダナン領において、父には優れた魔道技術者というのは正直検討も付いていなかったのです。しかし私は知っています」
そこでクリシュはナーリャとリューナに視線を向けた。
「鉱山ギルドの要望に答え、それを見事解決するだけの技量。先日拝見させていただいたあの空飛ぶ箒。そして多くの容量を運ぶことの出来るカバン。それらを作り出し、尚且つ目的に沿ってその知識、経験を働かせることが出来る御二方にお願いしたいのです」
クリシュに請われた2人は、一度顔を合わせると何かを考えた表情をとる。
トールは、この依頼を受けるメリット、デメリットについて考えをめぐらしていた。
メリットとしては、有名になることによって名声を得ることが出来、二人にとって様々な道が開かれるだろう。
そしてデメリットは、このコンテストでもし下手なものを出品し、不名誉を得ることとなってしまえば、様々な制約が付くことになる。下手をすれば、このまま店を経営できないといったことも考えられた。
トールが考え込んでいると、ナーリャが口を開いた。
「すみません。直ぐに返答は必要でしょうか?」
「いえ。ですがあまり時間も無いので、出来れば数日中に御返事いただけると助かります」
「わかりました。申し訳御座いませんが、少し相談をしたいので、今しばらく猶予を頂きたいです」
「はい。それでは決まりましたら、私の屋敷まで来てください。突然のお願いで済みませんが、お願い致します」
クリシュは立ち上がると、スカートの裾を摘み挙げ、一礼をした。
「では、私達はこれで失礼させていただきます。お茶、おいしかったです」
そういってクリシュはペルラを連れ、店の外へと出て行く。それを見送った4人は、誰が言うことなくカウンターの前に集まった。
「さて、どうする?」
まずはトールが切り出す。その言葉を聞いて、リューナが答えた。
「断るのは無理ですね。公爵家からの依頼です。はっきり言って断るのは不可能です」
公爵家といえば、下手をすれば王家に連なる家である。その貴族が一般市民であるナーリャとリューナに依頼を持ち込んだとすれば、それは断るなんで考えられないものである。こうして時間をくれただけでも僥倖である。
「うーん。私としては、クリシュ様が困っているみたいだし、受けてもいいと思うんだけど……」
「そうですね。しかし先ほど驚いて、碌に話を聞けなかったことが悔やまれます。今回行われるコンテストというのは、具体的にどういったものなのか。それが分らないことには、考えようもありませんし」
ナーリャとリューナが話し合っていると、おずおずといった感じでイオンが手を挙げた。
「えっと、私達邪魔じゃない?」
思わず一緒になってカウンターの前に集まってしまったが、カルンとイオンは本来部外者である。ここで口出しするわけも行かず、イオンは窮屈な思いでいた。カルンは相変わらずだが。
「いや、二人には残ってもらいたい。ほぼ受けることは確定みたいだし、そうなると2人の協力を仰ぎたい」
トールはゴーレムの顔をカルンとイオンのほうへ向けながら話す。
そのトールの言葉に、首をかしげながらイオンは聞きかえした。
「えっと、なぜでしょう?」
「護衛を依頼したい。今回の件は、かなりきな臭そうだからな」
「きな臭いって?」
ナーリャは分っていなさそうだが、リューナは納得した面持ちになっている。
「いいですか、ナーリャさん。先ほどのクリシュ様の発言を思い出してください。最初選ばれていた技術者が、急遽辞退したと言ってましたよね?」
「うん。ある貴族の口出しがあったって言ってたよね」
「そうです。つまりその貴族が、私達にも干渉してくる可能性があります」
リューナの説明を聞いて、ナーリャはあっと驚き口を開いた。
「それが本当に唯の口出しだけならいいが、流石にそれはないだろう。それに、その貴族は公爵家に文句が言える人物となると、それなりの爵位なんだろうさ」
トールは肩をすくませ、やれやれといった感じに話し始める。
「そうなると当然、権力と財力、人材に技術と多くの力を持っているはずだ。流石にクリシュたちも守ってはくれるだろうが、それだけじゃ不安が残る。そこでカルンとイオンに、護衛をお願いしたいというわけだ」
「ちょっと、トールさん!」
トールの発言に、リューナは非難するような言い方でトールを呼ぶ。
トールがこの世界に来て、今まで会った中で一番強いと思えるのはカルンである。
なにかあった時、ナーリャとリューナ2人をトールが守りきれないことも有り得る状況になった場合、カルンとイオンの2人が護衛についてくれれば、これほど頼もしいことはない。
しかし、この依頼をするということは、貴族のゴタゴタに2人も巻き込んでしまうということだ。リューナの非難もそういったことを含めてのことである。
自分達のために友人を巻き込む。そう言ったことに、トールもかなりの罪悪感を感じていた。だがこれ以上の手が思いつかず、何とか頭を下げてお願いするしかないと思っていた。
「いいっすよ」
しかしあっさりと返ってきた答えがこれである。
トールはカルンが理解できていないんじゃないか、ということに思い至りきちんと説明しようとする。
「いや、この依頼だけど下手すりゃ貴族とのゴタゴタに巻き込まれるんだぞ。頼んでおいて俺が言うのもなんだが」
「分ってるっすよ。でも友達がそのゴタゴタに巻き込まれそうって言うんなら、助けないわけにいかないっすよ。ね、イオン?」
カルンはいつものように頭の後ろで両手を組み、笑顔でトールに答えている。
トールがイオンのほうをチラリと見ると、イオンもまた笑顔でいる。
「カルンちゃんの言うとおりです。友達が巻き込まれそうなのに、私達だけじっとしているのも性に合いませんしね」
「すまない、恩に着る」
トールは頭を下げて、2人に感謝をする。正直どんな危険があるのか分っていないこの依頼に対して、2人は友情のためと引き受けてくれるというのだ。感謝しても仕切れないな、とトールは思っていた。
「私からも感謝を。ありがとうございます」
「ゴメンね、2人とも。変なゴタゴタに巻き込んじゃって」
「いいってことっすよ。困った時は御互いさまっす」
「そうですよ。御互い様です」
少女たちは御互い目を合わせると、クスクスと笑い出した。




