杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト4
トール達が店の中に入ると、そこには想像通り領主の娘であるクリシュとその護衛騎士ペルラが居た。クリシュはカウンターの前におかれた椅子に座っており、その後ろに付き従うようにペルラが立っていた。ナーリャとリューナはカウンターの奥に座っていた。
カウンターにはお茶の入ったカップが4つ置かれており、ちょうどお茶を楽しんでいたのが見て取れる。
入ってきたトールのことを見てクリシュは楽しそうな顔をし、ペルラは一瞬警戒した表情をする。
「貴公は……トール殿か?」
「ああ、そうだよ。この体はゴーレムな。それとただいま」
「うん、おかえりトール」
「御帰りなさい、トールさん」
トールはナーリャとリューナに帰ってきた挨拶をすると、カウンターの方へと進みよる。その後ろにはカルンとイオンが付いてきていた。
「あら、そちらお嬢様方はどちら様ですか?」
カルンとイオンに会ったことの無いクリシュは、その顔を見るとトールへと尋ねてきた。
トールは体をずらし、カルンとイオンがクリシュに見えるようにすると、二人について紹介する。
「この2人は冒険者のカルンとイオンだ。この間依頼で鉱山に行った時、護衛をしてくれてその誼で仲良くなったんだ」
「はじめまして、カルンっす」
「初めまして。イオンと申します」
カルンは気楽そうに片手を挙げて挨拶をする。イオンは礼儀正しく、一礼にて挨拶をした。
ペルラはカルンの横柄ともとれる態度に眉をひそめるが、クリシュはペルラのほうを一瞥され表情を戻す。クリシュは改めて2人に向くと、挨拶を返した。
「私はクリシュタール・ダナンと申します。クリシュとお呼び下さい。御2人とも宜しくお願い致しますね。そしてこちらが……」
「クリシュ様の護衛を勤めているペルラだ。宜しく頼む。」
挨拶が済むと、クリシュはすぐさま瞳を輝かせてトールの方へと向き直った。その瞳は最初にトールと出会ったときのように、御伽噺に出てくる者とであったかのように、期待に胸を膨らませているといった様相である。
「それでトール様。その面白そうな、お体は一体どうしたのですか?」
そう、彼女はトールの体に興味深々であった。いやらしい意味ではない。
出会ってからというもの、浮かびうねる杖としてアイデンティティーを確立して来たであろう杖が、いきなり人間の体を持っているのである。
ちなみにナーリャとリューナは、それがゴーレムだと伝えていない。そのほうが面白そうであると思ったのと同時に、楽しんでもらえるとも思ったからである。クリシュと、トールにである。
「ふっふっふ。良くぞ聞いてくれました」
ナーリャとリューナの思惑通り、トールは嬉々としてクリシュとペルラにこの体、ゴーレムについて語り始める。それは着想を得てから、材料を手に入れるため鉱山ギルドと交渉に行ったこと。それから完成するまでの紆余曲折と、話しをかなり大仰に伝える。
クリシュは聞き入り頷き、時には驚いてトールの武勇伝を賞賛する。それに気を良くしたトールが、さらに話しを面白おかしく伝えるといったことが繰り広げられていた。
ペルラは所々疑問に思い、ナーリャやリューナに聞いていたが、2人は苦笑しながらトールがちょっと盛った話しを修正していた。
「という訳で、今朝漸く完成したのだ」
「まぁ、そんな大冒険があったのですわね」
クリシュはトールの盛り話を信じ、素直に賞賛した。ナーリャとリューナ、鉱山についていっているカルンとイオン、それに真実を知ったペルラは苦笑気味である。
「まあ他にも、隠し機能はいろいろとつけているが、それはおいおい試そうと思っているんだ。結構危険なものもあるしな」
「そうなのですね。ぜひ拝見したかったのですけれども……」
「すまないな。結構危ないから、こればっかりは試してみてからだな」
そもトールがゴーレムを作り出したのは、趣味の部分が大きいがそれ以外にも狙いがある。それは攻撃力不足を補うといった目的だ。
トールが隠し機能としてゴーレムに持たしたもの。まずは「火器」である。《守護者の巨人》の能力は、じつは攻撃にはさほど向いていない。作り出した巨人などで戦えばいいが、如何せんそれは接近戦しか対応が出来ない。その他にも、トールのイメージ力が弱いのか、刃物の類が一切具現化できていなかった。
先端を尖らした形状は作れるが、それも槍のような鋭さは無く、どうしても少しつぶれた形になってしまうのである。
鬼と対峙した時作り出した円錐状の形状も、実は先端はさほど尖っていなかったのである。それでも貫通したのは、ひとえにプラーミァの火力による推進力の賜物である。
そういった訳で、攻撃力不足と射程距離の延長を狙って「火器」を搭載することにしたのだが、如何せんそんなもの設計したことは無い。見よう見まねで作ったはいいが、実際の試射はまだ怖くて出来ていなかった。
他にもあるが、トールが一番期待と不安を持っているのは、それなのであった
「トール。わたしもそれ聞いていないんだけど」
トールにそんな機能があるなんて聞いていないナーリャは、トールへと不満を漏らす。色々と手伝っていたのに、隠し事をされていたと感じて、ちょっと不機嫌である。
「すまない。上手く行ったら、2人にも説明しようと思っていたんだよ。決して隠していたわけじゃないぞ」
「本当に?」
じーっとナーリャに見られて、トールは居た堪れない気持ちになる。本当に隠していたわけではないのだ。ただ説明を忘れていただけである。
幸いゴーレムに乗っている状態では視線は分らないので、トールはナーリャの瞳を見ている振りをしている。
やがてナーリャははぁ、とため息を一つ吐く。
「次からはちゃんと言ってよね。それでどんな機能なの?」
「ちょっとした武器だよ。まだ試していないから、正確にはドンだけ効果があるか分らないけどな」
武器と聞いて、カルンとペルラが少し反応する。普段武器による戦闘を旨としている2人には、興味がある話だろう。
ペルラのほうは、主人の手前ということでそれを隠し黙っていたが、カルンはお構いなしといった感じで聞いてくる。
「杖の兄さん。それってどんな武器なんすか?」
「うーん。上手くいくか分らないから、今のところ秘密な」
トールはそういって誤魔化す。本当は鉄砲の構造を説明するのを、躊躇ったのである。
カルンとイオンだけであれば、一個人として話をしてもそう問題にならないかと考えてはいるが、クリシュとペルラは公人である。特にペルラは武人であるため、火器に関することはいち早く理解するだろう。そうなるとどうなるか。トールにはそれが想像仕切れなかったのである。
「残念っす」
ちょっと落ち込んだようにするカルンに、なんか悪いことしたなとトールが思っていると、リューナがカルンとイオン用にお茶を淹れてきた。
普段はナーリャが全て淹れているにのに、リューナが淹れてきたことにトールはちょっと驚いていた。
「どうしたんだリューナ。いつもはナーリャが淹れているのに」
「私もナーリャさんにお任せっきりは悪いと思って、ちょくちょくと教わっているんですよ」
「リューナちゃん大分上手になったんだよ」
リューナはカルンとイオンの前にお茶を差し出すと、自分の席へと戻る。
「そういえばカルンさんとイオンさんは、御仕事は大丈夫なんですか? トールさんに引っ張られてきたみたいなんですけど」
「心外だな。別に俺が引っ張ってきたわけじゃないぞ。ただ今日は良い依頼がなさそうだから、うちに遊びに来たんだよ」
「そうなんです。すみません、急に御邪魔しちゃいまして」
「気にしなくていいよ。トールが無理やりゴーレム自慢のために連れて来たのかと思っちゃったよ」
ナーリャとリューナ、2人ともひどい話である。トールの信用ゼロである。それも今朝から浮かれっぱなしのトールがいけないのだが。
「そういえばカルン様とイオン様は冒険者なのでしょう? ぜひ御2人にも御話を聞かせて頂きたいわ」
クリシュは思い出したようにカルンとイオンに話を振る。実際はいつ冒険話を聞こうか機を狙っていたのだろう。
「そうっすね。それじゃこんなのどうっすか?」
カルンは今まであった冒険話を思い出しながら、クリシュに向けて話始めた。
北の国から山脈を越えてダナンの街まで来たとき、あまりにも腹が減って木の実を食べたらおなかを壊したこと。それをイオンに介抱されながら、襲ってきた魔物と対峙した時のこと。そうやってダナンまでやってきて、鉱山までナーリャとリューナの護衛を受けたときのこと。その後ダナンに居残って、魔物退治や護衛の仕事のことを。
英雄譚というには程遠い内容であるが、それでもクリシュは瞳を輝かせながら話を聞いている。それは実際の冒険者達の生の声という、物語とはまた違った話に、胸を躍らせているようであった。
「で、今日は良い依頼が無くて、ナーリャ達のところに遊びに来たって訳っす」
「そうでしたのね。大変面白い御話を御聞かせ下さって、ありがとう御座いました」
「いえ、拙い内容でしたが、楽しんでいただけたのなら良かったです」
3人は御互いにふふっと笑いあう。
イオンは最初クリシュに対して緊張感を持っていたようだったが、それも解消されて仲良く御話をしている。それに交じってナーリャとリューナも加わり、5人の見目麗しい少女達の御茶会といった態をなしてきた。
トールはなんとなく話しに入りづらく、護衛として一歩引いているペルラと話すべくそちらへと近づいていく。
「トール殿、先ほどは驚いてすまなかったな」
「気にしないでくれ。誰だって杖がこんな姿をすれば、驚くってもんだ」
5人の華やかな御茶会を微笑ましそうに、ペルラはその様子を見ているようであった。だがその表情を正すと、トールに向かって尋ねてきた。
「あのカルンという少女。どの程度だ?」
トールは一瞬なにを聞かれているか分らなかったが、遅れてその意味を把握する。どの程度の実力かということだろう。
あのカルンに何かを感じ取ったのか、ペルラはトールに尋ねてきたのであった。
「かなり強い。山賊10人以上を、一人でわずかの間に全滅させた」
「ふむ、やはりそうか。ぜひ守備隊に入ってほしいものだが、その辺りはどうだろうか?」
「さてな。後で聞いてみたらどうだ?」
「それもそうか。すまなかったな、つまらないことを聞いて」
ペルラは表情を和らげると、再度5人の御茶会へと目を向ける。5人とも楽しそうに会話をしており、時折笑い声が響く。
そんな様子を見守っていたトールとペルラだが、ペルラが何事かに気がついたように、クリシュに声を掛けた。
「お嬢様。そろそろ御時間です。あと、御2人にお願いがあったのではありませんか?」
「まあ、そうでしたわ。実は御2人にお願いがありますの」
声を掛けられてクリシュは、思い出したとばかりに手を合わせる。
そんなことを言われたナーリャとリューナは、一体なんだろうと首をかしげる。
「御2人に、是非共に王都まで一緒に行って頂きたいのです」




