杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト3
ボーダとロマンについて熱く語り合った後、トールはボーダの鍛冶場を後にした。
次に向かったのは、冒険者達が集まっている、冒険者ギルドであった。そこは歓楽街に近い場所にあり、日々冒険者に仕事を斡旋していた。
トールは冒険者ギルドの中に入る。中には多くの冒険者らしき人々が、テーブルにて昼にも関わらず酒を飲んでいる光景が見られた。
この場所は食事場も兼ねており、奥には冒険者達が仕事を請ける受付と仕事を依頼する人の受付が備えられているのである。
いままで見たことの無い黒い甲冑を身にまとった人物の登場に、店で飲んだくれていた冒険者達は値定めを始める。甲冑なんかを身にまとうのは、余程の実力者か、ただの馬鹿であると、冒険者の中では考えられている。
そんな中に入ったトールは、まずは目的の人物をきょろきょろと探す。目的はカルンとイオンであった。
その2人はちょうど仕事を探しているのか、依頼が掲示されている場所に佇んでいた。それを見つけたトールは、声を掛けようと二人の傍まで歩いて行こうとした。
「おい、見慣れねぇ奴だが何処から来やがった?」
しかし途中で冒険者に声をかけられ、トールは歩みを止める。そこはトールが知っている顔であった。以前にも用事があってこの場所に来たとき、絡んできた冒険者であった。
実はこのように、冒険者が新参者に絡むという行為には意味があった。新参者が自分達のライバルになりえるのかを見定めるといったものだ。
あからさまに新人の場合は、彼ら冒険者は絡むことはしない。むしろ親身になって相談にのったり、アドバイスをしたりしているのである。意外と良い奴らなのである。
しかし実力者と思われる者には、自分達の縄張りに入ってきたものの実力を確かめるといった意味合いで、こうやって絡むことがあるのだ。
「ジンさんだな。俺だよ、トールだ」
トールがジンと呼んだ男は、一瞬なにを言われているのかわからなかったが、すぐさま意味を把握し疑いの目を向ける。
「トール? お前があの杖だって言うのか?」
以前にカルンとイオンを探しに来たときに、トールはこのジンに絡まれたことがあった。正確には絡まれたというより、困惑の中声をかけられたというほうが正しいかも知れないが。
いきなり浮かぶ杖が単体で現れた時、冒険者達はどのように反応していいか分らなかったのである。そして、様子みがてらトールに絡んだのがこのジンであった。
その時はカルンも一緒居たため、軽く彼女にひねられることになったが。
「ああ。この体はゴーレムだよ。俺が動かしているんだ」
「そ、そうなのか? まあそれなら……」
ジンはゆっくりとバツが悪そうに自分のいた席へと戻っていく。周りではジンをからかう笑い声が聞こえていた。
そうしてジンとのやり取り終えると、トールは改めてカルンをイオンに向かっていく。カルンとイオンも今のやり取りを見ていたため、直ぐさまトールへと挨拶をした。
「こんちわっす、杖のお兄さん」
「こんにちはトールさん。大分姿が変わられましたね」
「おう、こんにちは。本当は驚かせようと思っていたんだけどな」
彼女達は一度依頼の張り出してある掲示板から目を離すと、トールへの挨拶を優先する。ここ2ヶ月ですっかり仲良くなっているのである。
一旦彼女達と共に、トールは空いている席へと座る。
カルンはすぐさま飲み物を注文し、それにつられるように同じ飲み物をイオンも頼んでいる。トールはもちろん頼まないが。
「それにしても、本当にトールさんなんですよね? これが前に言ってたゴーレムなんですか?」
「そうだよ。ようやく完成したから、御披露目ってところだな」
トールはゴーレムを動かし、力瘤を作るポーズをとる。その動きは人間のそれと比較しても遜色の無い。
「これがゴーレムって言うのも、すごいもんっすね」
カルンはボーダと同じようにゴーレムをぺたぺたと触っている。
とそこに店員が飲み物を持ってテーブルへとやってくる。果汁を絞ったものに氷が入っている。それを2人は受け取ると、一口飲む。
「おいしっすねー」
「そうだね。この氷も魔道技術で作られているらしいですね」
以前より魔法で氷を生み出すことは可能であった。しかし通常の水を出すのとは異なり、氷を出すというのは魔法的にも難易度の高いものであったのである。
しかし魔道具の発展と共に、冷却用の魔道具も発明され、そして氷を生み出すもの作られたのだ。そういったものを料理を扱う店が、近年になって多くなっているのである。
「本当はその辺を開発して一儲けしようと思っていたんだが、さすがに先を越されていたな」
トールは金儲けしようと企んでいたことが、既に実用化されていたことを知ったとき、少し落ち込んだのである。
「魔道技師の方々は色々と考えているんですね。最先端の技術というのは、どういったものなのでしょうかね」
いまトールが操っているゴーレムこそ、その最先端技術である。普通のゴーレムはこんな風に操作できたりしない。
トールはそんな自覚も無く、最先端ってどんな感じだろうと同意している。
「ぷはぁ、ご馳走さまっす」
トールがイオンと話しをしていると、先ほどの果汁をあっさりとカルンは飲み干す。そして氷を口に入れ、がりがりとかじっている。
「ふふ。カルンちゃんに掛かれば、最新技術も形無しです」
「本当にな」
おいしそうにがりがり氷をかじっているカルンに、トールとイオンは微笑ましそうにそれを見る。
「そういえば依頼探しはいいのか。俺が邪魔しちまったみたいだけど」
「大丈夫っすよ。今日は良い依頼が無かったっすから」
「そうなんです。なのでナーリャさんのお店に遊びに行こうかと思っていたんですけど、よろしいですか?」
最近はこの2人がナーリャの店に遊びに来ることが多い。ナーリャとリューナも同じ年代の同性の友人が出来、喜んでいるようであった。
トールとしても、この2人が遊びに来ることは歓迎すべきことなので、その旨を伝える。
「もちろんだ。いつでも来てくれ」
「それじゃあ、今すぐ行くっすよ」
「せめてこれを飲ませてね、カルンちゃん」
カルンは早速とばかりにナーリャの店へ行こうと告げる。しかしイオンはまだ果汁の入ったカップに、ほとんど口をつけていなかった。
そうしてイオンが飲み終えるまで、カルンが子供じみた催促をし続けていた。それに促されるように、イオンは急いで飲むこととなったのであった。
そうして急ぎの一服を済ませ、トールはカルン、イオンを連れてナーリャの店へと戻ることにした。ゴーレム自慢は一旦中止である。
「そういえば、トールさん。そのゴーレム以外にも何か作られたんですか?」
魔道具に少し興味のあるイオンは、トールにそんなことを尋ねてきた。
「そうたなぁ。まだ稼動していないが、部屋の中を涼しくするものに、あとは新型馬車、と言っていいか分らないが、その試作模型ってとこかな、俺が作ったのは」
ゴーレム作りの息抜きとして、トールは他の魔道具製作も行っていた。クーラーと似非エンジン作りである。
クーラー自体は既にある冷却魔法陣を改良し、風を起こす機能を追加して作り出した。問題は自動気温調節が無いため、手動でスイッチのオンオフを切り替える必要がある。
そして似非エンジンである。通常のエンジンのように、燃焼圧力を動力に変える仕組みではなく、ただ単に魔力で動かしているゴーレム腕に、軸を回転させるといったものである。要は軸さえ回ればいいのである。
もちろん信頼性、効率、出力など、まだまだ改良の余地がある。そういった意味で試作品なのである。
「部屋を涼しくする魔道具ですか。今の季節にちょうどいいかも知れませんね」
「あたいも暑いのはかんべんっす」
2人は新型馬車という言葉より、部屋を涼しくするものの方が興味があったようである。
そんな話しをしながら歩いていると、ナーリャの店にまでたどり着いた。しかしそこには、いつか見た馬車が止まっていた。クリシュの馬車である。
相変わらず鎧を着込んだ護衛の男が2人、店の前で立っている。中に居た客達は追い出されたようで、その周りでたってなかの様子を探ったり、護衛に文句を言ったりしている。
「ありゃ、クリシュが来てるのか」
その光景に、すぐさまトールはクリシュが来ていることを察する。しかしカルンとイオンの2人は、このいかにも豪勢でお偉いさんが乗っていそうな馬車が、店の前に止まっていることに、驚いた様子である。
「杖の兄さん、あれ大丈夫なんすか?」
流石のカルンも心配そうにトールに尋ねてくる。
クリシュは既に何度か店へと来ており、トールにとっては慣れた光景になっていた。
「そういえば2人はあったこと無かったな。あの馬車は、ここの領主の娘のクリシュが乗ってきたものだよ」
そのトールの説明に、カルンとイオンはまたもやお驚いた表情になる。
普通領主の娘などに会えるのは、その街の実力者であったり、貴族などに限られる。それも自分から会いに行くのが、ほとんどのはずだ。それなのに、わざわざこの店まで領主の娘がやってきているのである。
「えっと、実はあの2人って良いところの出身なのですか?」
イオンが思わずそう尋ねるのも仕方ないことである。
トールは苦笑すると、そんなことは無いよと告げる。
「以前、喋る杖である俺を目的で来たことがあったんだよ。その際にナーリャとリューナを気に入ったらしくてな。それ以来時々こうやってお茶を飲みに来るんだよ」
トールはそう説明すると、店の前で立っている護衛の前まで進む。
護衛の2人は、トールを見るや否や、警戒した表情となる。
「止まれ! 今この店はやんごとなきお方がいらっしゃる。入店は控えてもらおう」
最初に来たとき依頼、トールはこの護衛とは顔見知りになっていた。そのためいつも通りに通ろうとして、あっさりとめられたのである。
トールは前とは違って、いかにも緊張した面持ちでいる護衛に疑問を覚え、すぐさま気が付く。今はゴーレムの中にいるんだったと。
「すまない。俺はあの杖のトールだよ」
「なにを言っている。かの方は文字通り杖なのだ。お前は人間ではないか」
そうトールは話すが、護衛の男はあっさりと否定する。
見た目はその通りだなと思い、トールはゴーレムから出てこようと、片膝をついた。
その動作にさらに警戒を高めてた護衛は、鞘に収められていた剣の柄を握る。そして黒い甲冑の背中から何かが出てきたとき、剣を抜いた。
「まってくれ。はら、俺だよ、俺」
ゴーレムの背中から出てきたトールは、剣を抜いて対峙している護衛に向かって叫ぶ。誤解で斬られたらたまったものではない。
その叫ぶ杖を見て、護衛は一瞬ポカンとした表情になるが、すぐさま面持ちを治して剣を鞘へとしまう。
「本当にトール殿で御座いましたか。そうしますと、今跪いているこの男は……」
「こいつはただのゴーレムだよ。俺が作った」
無駄にえらそうに胸を張るように、トールは体を弓なりにする。
その説明を聞いた護衛は、ふぅと呼吸を一吐きすると、額に浮かんでいた汗を拭った。いきなりフルプレートの大男との戦闘を懸念して、緊張していたようであった。
「そうでしたか。すみません、これも職務ゆえ」
「気にしないでくれ。むしろこちらが悪かった。それで、中に入っていいか?」
「はい。問題ありません。えっと、こちらのお嬢さん方は?」
護衛はカルンとイオンのほうを向いて、そうトールに聞く。
「ナーリャとリューナの友人だよ。遊びに来たんだが、どうせだからクリシュ様に紹介でもしようかと思ってな」
一応クリシュに様付けをして、そうトールは護衛へと話す。
護衛たちは互いに一瞬目を合わせる。
「そういうことでしたら、しばしお持ち下さい。確認してまいります」
一人が店の中に入っていく。おそらく同行しているだろうペルラに確認しに行ったのであろう。
トールはもう一度ゴーレムの中に入ると、護衛が戻ってくるのをまつ。
「えっと、私たちも入っていいんですか?」
心配になってきたのか、イオンはトールに話しかけてくる。カルンはいつも通りの笑顔で、楽しそうに馬車を眺めている。
「問題ないさ。二人はナーリャとリューナの友人だからな」
トールがイオンに問題ないと告げていると、ドアの開く音が鳴り、中から護衛の一人が出てきた。
「お待たせしました。どうぞ中へお入り下さい」
トール達3人は、馬車を見ていたカルンを連れて店の中へと入っていった。




