杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト2
「さて、それじゃあわたし達はもどるよ」
トールのゴーレム試運転もとい御披露目会が終わると、ナーリャ達は自分の仕事に戻ろうとする。
「あ、ちょっと待ってくれ。出来ればゴーレムに、魔力を入れていってくれないか?」
ゴーレムに入っている魔力量は現在からである。先ほどトールに貯蔵されている魔力で動かしていたが、出来ればちゃんとしたゴーレム用の魔力を確保しておきたかったのである。
「仕方ありませんね」
2人はゴーレムのほうへと近づくと、その兜を取った。
そこのゴーレムの頭の部分には、大きな宝玉が収められている。これは魔物から取れる魔石を、魔法陣の力によって大きく合成したものである。これが、魔力貯蔵槽になっていた。
2人はそのゴーレムの頭に手を当てると、魔力を込め始める。人間大の大きさである魔石の魔力保持量はかなりもので、2人が魔力を込め終えるのにも少し時間が掛かった。
「これでよしっと。結構入るものだね」
「大きければその分容量も増えますからね」
ナーリャとリューナの2人は、魔力を込め終えると工房の外へと出て行く。トールにあまりはしゃがないように、と伝えながら。
残されたトールは、早速とばかりに再度ゴーレムへと入り込む。今度は自身の魔力ではなく、先ほどナーリャ達が込めてくれた魔力を使い、ゴーレムを起動させた。
「さてと、それじゃあ試運転の続きとしますか」
トールはゴーレムを動かしながら、そのまま工房の外へと出て、つながっている店へと入っていった。
そこには以前とは異なり、かなりの来客が来ていた。というのも、ナーリャ達が事あるごとに買って出た治療のためである。それが宣伝となり、その上効果がよりと噂になり買いに来る客が増えたというわけである。
2人が使っていたペリエ薬、他の店にももちろん取り扱いがあったが、実は2人が作った薬ほど効果は高くなかったのである。なぜか効果の高い、2人の薬を求める客は多いということだ。それだけでなく、ナーリャとリューナの2人が目当てのものもいたが。
「あれトール、もういいの?」
「どうせ外に出たいというのでしょう?」
店の奥、工房から出てきたトールに、ナーリャは一声かける。リューナの方といえば、トールがゴーレムを起動させて外に出てきたことの理由を、しっかりと推測していた。
「ああ、試運転がてらちょっと外に出てくる。何人かの人にも挨拶したいしな」
いきなり店の奥から出てきた、全身を甲冑に包まれた大男に出現に、その場にいた客は驚きの声を上げている。
「すみません、うちで作ったゴーレムなので大丈夫です」
リューナが客に説明して回る。ゴーレムは最近物流等で活躍をし始めているが、その姿は動物を模したものが多く、人型のものは滅多に見ない。見た目も甲冑に覆われた人にしか見えないため、ここに居た客はゴーレムとは想像できなかったのである。
それがゴーレムだと知るや、何人かの客、主に冒険者風の男達、がトールのゴーレムの傍まで寄ってくる。
「これがゴーレムか。今の魔道技術ってここまでも物が作れるのか」
「人型のゴーレムは初めて見るな」
「剣を持たせたら普通に戦えそうだ」
普段旅をすることが多い冒険者達は、ゴーレムも間近で見る機会は多い。そのため希少性の高い人型のゴーレムに関心した様子である。所々叩いたり触ったりして確認をしていた。
「あーすまないが、通してもらっていいだろうか?」
トールが集まってきた冒険者のため通れなくなってしまい、通してもらうべく声を出した。
先ほど、トールが声を出していた事に、気が付いていなかった冒険者達の反応は劇的であった。驚いて硬直するもの、急いで離れるもの、離れた先が棚で商品に突っ込むものと様々であった。
「しゃ、喋れるのか……?」
そのうち、驚いて硬直していた冒険者がトールに語りかける。
「ああ。といっても話しているのは、ゴーレム本体じゃなく俺だけどな。」
トールはゴーレムを起動させたまま背中から出てくる。
杖がゴーレムから出てきたことで、驚いていた連中は一様に納得していた。杖が喋るのには、もう慣れたものである。
「お前さんが入っていたのか。脅かすなよ」
「別に脅かすつもりは無かったんだがな。それと商品棚に突っ込んだ奴、ちゃんと金払っていけよ」
トールはもう一度ゴーレムの中に入ると、そのまま外へと出ていった。先ほど商品棚に突っ込んだ奴の悲鳴を聞きながら。
外は晴れ上がり、初夏の陽気に包まれている。特に気温を感じないトールは、全身フルプレートの姿でも、問題なく行動が出来ている。
トールがまず初めに向かったのは、近場で鍛冶を行っているボーダの店である。以前ゴーレムの材料について相談にのって貰った事と、もう一つ御世話になったことがあったためである。
「ボーダのオヤッさん、いるか?」
トールが中に入ると、そこに相変わらずのガタイのいい男が立っていた。ボーダである。
彼は休憩中だったのか、急須とコップを持ってたたずんでいた。
「ん? 誰だ……って、杖の坊主か?」
トールのゴーレムを一目見て、ボーダはすぐさま見抜いた。というのも、いまゴーレムが纏っている全身鎧は、実はボーダ製作のものであった。
「さすがに分かるか。そう、杖のトールだよ」
「ははぁ。ってことは完成したんだな、ゴーレム」
「おう。オヤッさんにまず最初に見せに来たよ」
「いい感じじゃねぇか。まさかこんな使い道があるとはなぁ。どうだ、調整するところはあるか?」
このフルプレート、ボーダが作ったは良いが在庫として倉庫の肥やしになっていたものである。それもこれも、フルプレートは冒険者にとって防御力は魅力的だが、如何せん体力的に問題あるため不人気なのである。
基本街から街へと移動することが多い冒険者達は、軽装を好む傾向にあった。移動したは良いが、疲れきって戦えない状態になろうものなら笑えない。
軽い金属などで作られた物ならまだしも、今ゴーレムが纏っているフルプレートは通常の重い金属で作られた物だったのだ。
「調整は今のところ大丈夫そうだ。それにしても、オヤッさんがこいつを作っておいてくれたおかげで、おお助かりだよ」
「こいつは俺の趣味で作ったもんだからな。どいつもこいつも、こいつの良さがわかってねぇんだよ」
ボーダの趣味。実はこの男厳ついガタイに顔つきをしている割に、英雄譚が大好きなのである。
その中でも、一番好きだといってはばからないのが、「1人と7人の黒騎士」という物語である。
その物語の概要は以下の通りである。
昔々平和に暮らしていた街に、あるとき魔物の集団が押し寄せてきた。街では突如現れた魔物に対抗すべく、すぐさま対策会議が行われたのである。
しかし街に住む貴族、街の守備隊、そして冒険者達は自分達の損害を恐れて、誰一人一番槍を努めようとしなかったのである。
魔物達の集団が迫る中、街の住人は彼らに失望し、諦めの境地に立っていた。
するとそこに、一人の騎士が街の城門から出て行ったのである。その騎士は全身を黒い鎧に身を包み、たった一人で魔物を迎え撃ったのである。
その騎士はとても強く、魔物の集団と互角以上にわたりあい、そして魔物達を退けたのである。しかし騎士も無事ではすまなかった。魔物を追い払うと同時に倒れこみ、遂には命を落としてしまったのである。
その後、数を増やし再度魔物が来た際には、またしても前線に誰が行くのかで揉めることとなる。しかし一人の黒騎士に心打たれた者達が、その身を黒い鎧に包み魔物達の前へと立ちふさがった。その数7人。
彼ら7人は襲い来る魔物の集団に怯みもせず戦い続けた。そしてその7人の姿と、初めの1人の勇猛さに心打たれた人々は、いつしか諍いをやめ、協力して魔物へと当たったのである。
そして無事、魔物を退治しきれた街に平穏が戻ったという。その最初に立ち上がった1人と、その後の7人を称えて、「1人と7人の黒騎士」として語り継がれてきたのである。
その話が好きなボーダは、いつしか英雄が装備する武具を作りたいと考えるようになったのだ。その一環として、全身黒ずくめの鎧というわけである。
「冒険者達はロマンってもんがわかってねぇ」
「まあ、冒険者はさすがにロマンに命は賭けられないよ」
下手すると、直ぐにでも命を落とす職業である。現実主義になりやすいのだろう。
「それと、大分まけてくれてありがとな。おかげで助かったよ」
「いいってことよ。どうせ誰も着なかった鎧だ。こうやって使われた方が、本望だろうよ」
ぺしぺしとゴーレムの肩を叩きながら、ボーダは嬉しそうに笑う。
トールはボーダの優しさに感謝しながら、ロマンについて熱く語り合ったのであった。




