うかれる杖とあきれる魔道技師33
カリュプス鋼を受け取り、鉱山ギルドの店からトール達が退出したあと、部屋にはセービアとリーノが残っていた。
「さて、リーノ。あなたから見て御2人とあの杖の御仁は如何でしたか?」
「はい。追加でポンプと次々と作る腕前をもち、ハーピーや山賊で襲撃された際にも治療を率先して買って出た人格といい、付き合うにはもってこいの魔道技師であると考えます。それと空を飛ぶ魔道具を所有していました。確認したところ、御2人が作られたそうです。」
リーノは道中に会った出来事を反芻しながら、セービアへ自分の感想を伝える。
それを聞いたセービアは、またしても驚いた表情になるが、それも一瞬の事ですぐさま元に戻る。
「空を飛ぶ、ですか。そのような魔道具を作れるというのは、かなり優秀な方々のようですね。……リーノ坊ちゃん」
セービアは口調を改めると、リーノに向けて語りかける
「よろしいですか。現在あなた様のお兄様方は、確実に実績を上げています。それに勝つためには、あの御2人の力を借りる必要があるでしょう。先のカバンの件しかり、その空飛ぶ魔道具しかりです。このギルドの長の子として生まれたからには、そういったことも念頭に置く必要があります」
神妙な表情でセービアの話しを聞くリーノ。その顔つきには、若干納得がいっていないことが見て取れた。
セービアのいっている事は、時には友人を利用しろ、と聞こえるのだろう。そういったリーノの子供じみた甘さと、優しさはセービアは嫌いではなかった。
「ですが、それでもなおご友人の力を借りたくないというのであれば、それは自分が更なる力を得る必要があります。それでもダメなら、頼るしかありませんな」
「それでもボクは、友人を利用したいとは考えません。そのためなら、いかなる努力を惜しまない覚悟です」
その答えに、それなりの覚悟を感じたセービアは、笑顔で頷く。正直なところ、必要に応じて清濁併せ持つ必要があり、褒められたものではないが、その覚悟だけは評価したかった。
「わかりました。今はそれでいいでしょう。しかし今後、どういったことが起こるかわかりません。別の覚悟も持てる様にしましょう」
セービアはそういうと、次の指示をリーノに伝えた。
□ ■ □ ■ □
ナーリャの店に戻ってきたトール達は、早速荷物の片付けに入った。ナーリャ達は持って行った食器や着替え、保存食などを片付ける。トールは空間拡張されたカバンから、ポンプ用の余った部品にもらったカリュプス鋼を《守護者の巨人》を使用して、その空間から取り出す。
そうして3者共に片付けをはじめ、ようやくゆっくり出来るようになったのは、日も傾き始めた夕方になった。
「おじゃまするっす」
「御邪魔します」
ちょうど片付けが終えた頃、そんな声が店のほうに聞こえてきた。カルンとイオンの声だ。
ナーリャとリューナは、この街に戻ってくる前に一緒に食事をしようと、カルンとイオンを誘っていた。そのため、時刻を見計らって、場所を教えていたナーリャの店までやってきてくれたのだろう。
「いらっしゃい。ちょっと狭いけど入って」
ナーリャは店に案内すると、カウンターの方までカルンとイオンをつれてくる。
リューナはナーリャがここに連れて来るだろうと予想し、既に椅子を準備していた。
「ありがとう。いいお店ですね」
「えへへ、ありがと」
イオンは案内されたカウンターの前に座ると、店の事を褒める。その言葉に嬉しそうにナーリャは答えていた。
カルンはというと、並べられている商品が珍しいのか、そちらの前に立って眺めていた。
「なんか珍しいものでもあったか?」
トールはカルンのほうへと向かうと声を掛ける。
カルンは、一旦トールの方を見たが、商品の方が興味がそそられるらしく、すぐさま視線をそちらへと戻した。
「なんか見たこと無い物ばっかっすね。お、これなんすか?」
「それは火薬ですね。火をつけると爆発するんですよ。後はピアンの湿布ですね。これは痛みを抑える効果があります」
リューナもカルンのほうへ来ていたようで、トールと一緒になって商品の説明をする。ナーリャは笑顔でそれを眺めながら、お茶を淹れていた。
ナーリャがお茶を淹れ終えると、イオンは立ち上がってカルンを連れ戻しに行った。
「もう、カルンちゃんてば、ダメだよ勝手にしちゃ」
「えっへっへ、すまないっす、イオン」
カルンと一緒になって、トールとリューナもカウンターの方へと戻ってくる。ナーリャはその間、店に常備してある自分で作ったクッキーぽいお菓子を用意していた。
「食事前だけど、召し上がれ」
そうして女の子4人と杖1本によるお茶会が開かれる。
会話の内容は、4人がそれぞれ今までなにをしてきたのかから、鉱山での思い出話、トールの不思議性についてなど多種多様にわたった。
そうして外もすっかり暗くなり、夕食時になったため4人はナーリャの薦めで、シアラの店である『飛跳ねる雌鹿亭』へ向かう事になった。
「トール、行くよ」
そう声を掛けられたトールであったが、トールはそれを辞退する。
「すまないが今日は4人で行ってきてくれ。ちょっとやっておきたいことがあってな」
「ええ~。食事はみんなでって言ってるのに」
「すまないな。今日だけだから」
「仕方ありません。トールさんもたまには、一人になりたい時もあるのでしょう」
ナーリャが文句をいい、それをリューナが宥める。
そうして仕方ないとナーリャも承諾して、4人は飛跳ねる雌鹿亭へと向かっていった。
わざわざ残ったトールはというと、店の奥にある工房へと入っていく。そこには余ったポンプ部品のほかに、積み上げられたカリュプス鋼が置かれていた。
それをトールはしばらくの間眺めていたが、次第に声がもれ出てきた。
「く、くくく、くっくっく……」
いかにも我慢しきれないといった笑い声が、杖1本しかいないこの工房に響き渡る。
「ようやくだ。ようやくこれでロボが作れる」
そう、トールがナーリャ達の食事の同伴を断ってまでここに残ったのは、これが原因である。正直トールには我慢仕切れなかったのだ。
宝玉をカリュプス鋼にこすりつけ、まるで頬ずりをするかの様にしているトールは、傍から見ればまさに奇奇怪怪といった様相である。かなり危ない。
「設計図はこっちに閉まってあったな。ペンとインクはここで、メモ書きはこっちっと」
鉱山へ出発すつ前に描き溜めていた図面と仕様書、それにメモ書きとを用意すると、早速とばかりに魔法陣を描き始める。それは、ポンプ作りにも使っていた、形状変化の魔法陣である。
「ここをこうして、っと。よし完成だな」
すぐさま魔法陣を描き上げると、カリュプス鋼を持ちその魔法陣の上へと置く。そして完成したイメージを頭に浮かべながら、魔法陣を起動し始める。
魔力が注がれた魔法陣は、その描かれた文様を光らせると、その効果を発揮し始める。カリュプス鋼は徐々にその形状を変え、次第にある形へとなっていく。それはまるで人間の腕の骨を模した形であった。
「やっぱり想像していた通りだ。いちいち部品ごとに作らなくても、ある程度アセンブリ状態でも作れる!」
トールは歓喜に包まれると、完成したばかりの腕の骨格を見る。きちんと5本の指が備わり、手首、前腕、肘、上腕、肩関節と、片腕の骨格が見事に繋がった状態で出来ている。それはトールが日夜描き進めてきた図面通りの出来栄えであった。
「すげえ、すげえよ魔法陣! これなら直ぐでも作り出せる!!」
思わず声を上げて叫ぶトール。外ではそれにびっくりして猫が逃げ出していた。
「さあ、今度は反対の腕だ!」
魔法陣を驚異的な速度で描き上げると、もう一度カリュプス鋼をその上に乗せ、魔法陣に魔力を込め始める。
そのまま徐々に姿を変え始めるカリュプス鋼を眺めながら、トールは悦に入る。危ない杖である。
と、途中まで形を変えていたカリュプス鋼であったが、その変化が止まってしまった。それを訝しめていると、ふっと視界が変わった。
トールがそれが落下していると気が付いたのは、床に放り出された後のことだった。
「うぇ? ちょ、ちょっと!」
いつものように飛ぼうとしても上手く飛べず、そのまま転がっている事しか出来ない。しばらく慌てていたが、トールは以前にも同じ現象があった事を思い出す。そう、魔力切れである。
トールは後になって知ることになるが、この形状変化の魔法陣、複雑な構造であればあるほど魔力を消費するのである。したがって骨格をきちんと模した腕なんかを作り出せば、その魔力消費量もそれなりになるのだ。
《守護者の巨人》の機能を得てから、トールの魔力保持量は増えたといっても、腕2本分の魔力には足りなかった。
「あー……ナーリャさーん、リューナさーん」
弱弱しい声で同居人の2人を呼んでも、彼女らは外へと食事を取りに出ている。
結局2人が帰ってくるまで、トールは床に転がった状態であった。
これにて「うかれる杖とあきれる魔道技師」編は終了です。
次回は幕間をはさんで、「杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト」編をお送りします。




