幕間3
「主任、いますかー?」
白を基調とした部屋の中に入ってきたのは、まだ年のころは二十半ばといった青年であった。
彼は中に入ると、辺りを見回す。
「主任、どこっすかー?」
「おう、こっちだこっち」
その声がするほうへと青年が振り向くと、そこには髪がもじゃもじゃの男性が、何かの機械の下から這い出てくるのを目撃した。
「主任、また自分で弄っちゃってるんですか。怒られますよ」
「うるせえ。整備部の奴らろくな仕事をしやがらねえんだから、しょうがないだろ?」
主任と呼ばれた男は、立ち上がると見に包んでいる作業着をはたきホコリを落とす。
「で? 今日はどうしたんだ?」
「ああ、そうそう。これ、チキュウの御土産っす」
そういって差し出したのは、日本のある場所なら売っていそうなお菓子だ。某鶏の子供を模したものである。
「お、サンキュー。それで向こうの調査はどうなんだ?」
主任は早速とばかりに包みを破り捨てて一つ摘むと、それを口に放り投げる。
「ええ、あっちの文明はある意味凄いですね。物質に重きを置かれて、あそこまで発展するなんて異常ですよ」
「ああ、なんかそんな感じらしいな」
「そんな感じってレベルじゃありませんって。魔素も魔力もマナも無い状態で、デカイ構造物が空飛んでるんですよ。他にも何処にいても使える通信網なんて、どんな原理かさっぱりですよ」
お手上げとばかりに青年は両手を上げる。それにそんなに興味が無いのか、主任はもう一個とお菓子をつまみ上げた。
「まあそういう文明なんだろうよ。そりゃあマナが無けりゃ物質的に発展するしかないってもんだ。そんな世界がたまたま見つかっただけで、こちらとしては僥倖だろうよ」
「そりゃ主任としては嬉しいでしょうけど、調査するこっちの身にもなってくださいよ。毎日が緊張の連続ですよ? マナ探知も役に立たないから、いつ攻撃されるかも不明なんですから」
青年は上げた両手を振って、いかに困難かを訴える。しかし主任はお構いなしにお菓子を頬張っている。
「あと、あの世界の戦闘能力も以上です。下手すりゃ星すら破壊出来ちまうらしいっすよ。ほんと、勘弁してほしいですよ」
「星を、ね」
主任はそういって自分の席にむかう。青年もまたそれに続いていった。
「お前、異動になったんだから付いてくんなよ」
「いいじゃないっすか。寂しい事言わないで下さいよ」
「まったく。こちとら結構忙しい……ん? げ、またあそこからかよ」
主任は自分の席に戻るや否や、そこにある機械を操作する。そして何かしらを見つけたらしい。
「どうしたんですか?」
「ほれ、あそこだよ。あの新しくできた」
「ああ、あのいけ好かない部長様のところですか」
青年は嫌そうな顔をして、しかめっ面になる。
「そうそう。で、この間派遣された、索敵体αが撃破されたってんでうるさいんだよ。お前のところの品質がどうのこうのって」
「あれ? でもあれってその名の通り索敵用っすよね? 何で戦闘になんかなっているんすか?」
「知らん。それにお前が抜けた後で、急に戦闘もできるようにしろって御達しが来てな。急遽改造したんだよ」
はぁ、と青年は一息はくと、自分の持ってきたお菓子に手を伸ばす。それを見た主任が、伸ばしてきた手を叩き落す。
「痛いじゃないですか!」
「うるせえ。これは俺がもらったもんだから、俺のもんだ」
ケチ、と青年が呟いていると、彼の目にある資料が入ってくる。そこには宝玉と柄しかない、単純な構造の杖が描かれていた。
「そういえば、あの杖ってどうなったんですか?」
「ああ? あれか。あれは今のところ順調に育っているよ」
主任もう一つお菓子をつまみあげて、口に頬張りながら青年の質問に答える。
「育つって、変な言い方ですね。それじゃあ順調に機能は開放されていっているんですね」
「ああ。お前がそんな事気にするなんて、珍しいな。なんかあったか?」
「いや~、異動になってからいきなりチキュウの調査でしょ。それに加えて御兄さんの、要望をかなえる要員になったんですよ」
「なんだよ、その要望をかなえる要員って」
青年はお菓子に再度手を伸ばす。そしても一度叩き落とそうとする主任の手を、ひょいっと避けると一つ摘んだ。主任は悔しそうである。
「えっほへふね。ん。彼が杖となる事と了承してくれた時、一個要請があったじゃないですか?」
「ああ、家族がどうのって奴だな」
「そうそう、それです。で、俺がそのフォローに行く事になったんですよ」
青年は胸を張ると、ドヤ顔で主任の方を見る。それにイラついたのか、主任は手を振り上げて青年の頭を叩いた。
「イテ! 酷いじゃないですか」
「うるせえ。それで?」
青年は叩かれた頭を抑えながら、話しを続けた。
「んで、彼の妹さんと業務の都合上あってるんですけど、それが可愛いんですよ。だから何時かは彼のことを、お兄さんといわなければ、なんで」
「馬鹿か。さっきの、常に緊張してるって話は何処行った」
主任は興味をなくしたように、先ほどの連絡を受けた機械へと集中し始める。青年が何か言っていても、完全に無視である。
「まったくもう。じゃ、俺はそろそろいきます。あまり変な事していると、いつかお縄ですよ」
そういって青年は部屋を出て行く。この部屋に残っているのは主任と呼ばれた男だけとなる。
「さて、順調に育っている。なにやら色々ときな臭いが、俺にはそんな事は関係ねぇな。後は至るかどうかだが、このまま経過観察が妥当か」
カップに注いであった飲み物を一口飲むと、主任はしかめっ面になる。完全に冷めていたようだ。
「あーまじい。さてと、あの部長様に適当に返信しておくか。どうせ文句だけだろうしな。あとは……」
そういって主任は自分の仕事兼趣味へと戻っていく。
画面には杖と鬼、そして機密と書かれた画像が映っていた。
幕間3です。
本日は、人物紹介と魔法紹介備忘録も同時投稿しています。
よろしければ、そちらもご覧ください。




