うかれる杖とあきれる魔道技師31
「さてと、大丈夫か?」
ナーリャ達を囲んでいた冒険者と鉱夫たちを追い払うと、トールは改めてナーリャ達の様子を伺う。2人は苦笑いを浮かべてはいたが、特に外傷等は見当たらない。先ほど見たとおり、ただ単に色々と話しかけられていただけの様である。
「あはは……なんだか凄かったね」
「まったくです。まさか、こんなことになるとは。おかげで助かりました」
2人ともゆっくりと食事も出来ていなかったようで、ようやく食べれると少し疲れたような顔で食事を口にする。
「一体なんだったんだ、アレ?」
「たぶんお礼が言いたかったんすよ。2人は昨日直ぐに寝ちゃったっすから」
カルンの一言に、トールはなるほどと納得した。昨日のハーピー撃退の功労者で、その後治療に当たっていた美少女と言っても差し支えない二人は、そりゃあ人気も出るって物であると。
別の意味でも護衛は必要そうだなとトールが考えていると、食事を終えた2人が立ちあがる。
「さてと、それじゃ戻ろっか」
「そうですね。ポンプも残りを作らないといけませんしね」
流石に昨日の今日で疲れは残っているだろうが、そういったことはおくびにも出さずにナーリャとリューナは、ポンプ作りに戻っていく。
トールも、もちろんそれを手伝う。カルンとイオンはいつも通り護衛に当たってくれていた。外では時折、釘を打ち付ける音が響き渡る。ハーピーに建屋を壊されたのを修繕している音である。
ポンプ作りの作業中、何人かの男達が見舞いだの、差し入れだのとやって来ていたが、それらは全てカルンとイオン、そして時々巨人を作り出したトールに追い払われる。
そうして少しのトラブルと昼食を挟みつつ、作業は夕方まで続けられた。
今まで作り貯めてきた分と今日の作業分で、必要となるポンプは揃っていた。
「やっと終わったー!」
「終わりましたね」
「ああ、こいつで最後だな。御疲れさん、2人とも」
作業も終えて、ナーリャは鼻歌を歌いながらお茶を淹れはじめる。自分で持ってきていた茶葉だ。
水筒から水を出し、それを小さなやかんにいれ魔法陣で火をあてる。そうして御湯を沸かし始めた。
「そういえばナーリャさんって、水を魔法で出さないんですか?」
イオンは単純に疑問に思っただけであろう。ナーリャは常に水を生み出す水筒を使用していた。
その一言に、ナーリャは一瞬作業を止める。そしてリューナの方をチラリと見た。リューナはその視線に答えるように、一回頷いた。
「えっと、実はわたしは欠陥魔道師なんだ」
そのナーリャの言葉に、イオンはあっ、といった気まずそうな表情になる。
この世界において迫害の対象にもなりえるそれは、あまり尋ねてはいけない事柄だったのだと思ったのだろう。
「気にしなくていいですよ。ちなみに私も欠陥魔道師です」
気軽といった風に、リューナも自身が欠陥魔道師と呼ばれることを告げる。
「えっと、済みませんでした。不躾な質問を」
イオンはそう言って頭を下げる。どこかで見た光景である。
「本当に気にしないで。今はリューナちゃんがいるしね」
「そうですね。私にとってもナーリャさんがいますし」
笑顔で顔を向かい合わせながら、ナーリャとリューナは互いの存在に感謝する。
「? どういうことっすか?」
その発言を疑問に思ったのだろう、カルンがそう口にする。
「わたしは火と土しか扱えないの。それで……」
「私は水と風です。ちょうど御互い欠けた属性を扱えるのですよ」
ほー、とカルンは納得しているが、イオンは魔法の知識を持っているだけにそこに疑問を抱く。
「でも、他人の魔力は反発しあうはずです。それだけじゃあどうにもならないのでは?」
「この2人は特別だよ。魔力を反発せず混ぜ合わせ、互いの属性を補えるんだ」
そんな事が、と思わずといった感じでイオンは呟く。魔力学の常識ではありえない事だ。
「だからわたし達は、2人でようやく一人前の魔道技師なんだよ。ね? リューナちゃん」
「ええ、そうですね、ナーリャさん」
本当はさらに4大属性以外の属性を扱えるのだが、トールはここでは黙っている。特に知らせる必要がないと思ったためである。
それにそんな事を伝えると、魔力学の常識が崩れていて混乱をきたしているイオンに、さらに追い討ちをかけることになるとも考えての事である。
すると、ドアがノックされる音が聞こえてきた。
「ナーリャさん、リューナさん。リーノです」
2人の返答を聞いて、リーノが中へと入ってくる。そこにはヴォルフと他にも鉱夫もついてきていた。
「御疲れ様です。作業の方は如何ですか?」
「うん、ちょうど今終わったところだよ。これで冠水が引いていっても、排水ラインは延長できるよ」
「おおそうか。それは助かるな」
リーノに付いて来たヴォルフは、顎を摩りながら素直に喜んでいる。
「そうですか。それであれば依頼は完了したものとして、ダナンへ帰れそうですね」
リーノとヴォルフは、追加でナーリャ達が作り出したポンプと配管、それに土台の数を数える。その数が十分にあることを確認すると、満足そうに頷いた。
「大丈夫そうだな。お嬢さん方、ありがとうよ」
「いえいえ、これもお仕事ですから」
気が付くと部屋の中はポンプ関連の部品で一杯になっている。端からポンプが並べられ、ベッドの上にも配管等の部品が多くおかれている状況である。
早速とばかりにヴォルフは、一緒に来た鉱夫に、人を呼ぶように伝える。命令された鉱夫はすぐさま外へと出て行った。
「さてと、それじゃあ嬢ちゃん達は、直ぐにでも街に帰るのか?」
「えっと、どうなんだろ、リーノ君?」
「そうですね。今日明日と準備をして、明後日には帰りたいと思いますが、如何でしょう?」
「わかりました。それでいいと思います。ね? ナーリャさん」
今日は既に日も落ちかけており、準備をするには面倒だと判断したのだろう。明日一杯を使って準備し、ダナンへと帰る日程である。
「うん、わたしもそれでいいと思うな」
こうして帰還の日程を決めたところで、鉱夫達が大勢部屋へと入ってきた。作られたポンプを運び出すためである。
鉱夫たちは掛け声を掛け合うと、どんどんとポンプや関連する部品を運び出していく。そうしてポンプ等によって散雑としていた室内は、ナーリャ達の荷物を残すのみとなっていった。
「綺麗になったな」
「そうだね。アレだけあったのに直ぐ持ってっちゃった」
トール達が鉱夫たちの働きに感心していると、ヴォルフも仕事に戻るといって鉱夫と共にポンプを担いで出て行く。
残った面々は、食事の時間になるまでお茶にしようと、リーノも誘ってテーブルへとつく。
「それでは改めまして、今回はありがとう御座いました」
「さっきも言いましたが、これも仕事のうちですから」
改めて御礼を言うリーノに対して、先ほどナーリャがヴォルフに言った言葉をそのままリューナが話す。
「それでリーノ。今回の依頼は、これで達成ということでいいかな?」
「はい。先ほど運び出したポンプで、今回の依頼は達成となります」
念のためトールは依頼について確認をし、リーノは笑顔で達成だと告げる。
それを聞いて嬉しそうにナーリャはリューナにハイタッチを求め、それにリューナも答えていた。
「それにしても、まさかハーピーがあれだけやってくるとは、思いもしませんでした。今回も危険な目にあわせてしまい、申し訳御座いません」
「もう気にするなよ。返ってこっちが気になっちまうよ」
「そういってもらえると助かります」
リーノは今回の依頼で山賊に続いて、ハーピーに襲撃にまであったことを気にしているようであった。山賊に関しては、内側に入りこまれていた事もあって、鉱山ギルドの不手際であったと考えているようである。
「それはそうと、何でハーピーがいきなりやって来たんだ? そういう習性を持っているのか?」
「いえ、そういった話は聞かないですね」
「ふむ、そうなると餌を求めて、とか何かに追われてって感じかな」
通常ハーピーは、多くの人間がいる所には近づかないとの事である。少数でいる場合は狙ってくるが、長まで来る事は滅多にない。
「まあ、考えていてもしょうがないか。そういえば……」
トールは一旦ハーピーのことを考えるのをやめると、先ほどからナーリャの方ばかり見ているリーノをからかうため、話しをし始めた。




