うかれる杖とあきれる魔道技師28
長ハーピーは羽に焦げ目を作っているが、依然として顕在である。トールが殴った箇所も特に怪我を負った様子は無く、悠々を空を飛んでいる。
トールが長ハーピーを警戒しながら何かいいアイデアがないかと思案していると、ナーリャが口にした。
「もしかしたら、上手くいく方法があるかも」
ナーリャも長ハーピーを警戒しながら、提案をする。
「本当か?」
「うん。まずはあいつに……」
ナーリャがそう口にした時、長ハーピーは一鳴きする。例の催眠を警戒し、咄嗟に2人は耳を塞ぐが、それは催眠のためではなかった。
長ハーピーが一鳴きすると、その前には幾つもの風の渦が生まれ出てきた。
「ちっ!」
トールが2人の前に出て、《守護者の巨人》による盾を作り出す。しかし長ハーピーの作り出した風の渦は、発射と同時にあらぬ方向へと飛んで行った。
「なんだ?」
トールはそれを疑問に思っていると、その答えは直ぐに判明した。発射された風の渦は、大きく軌道を変えると、曲がってナーリャ達のほうへと迫ってきたのである。
それに虚を突かれ、トールは咄嗟に反応すること出来なかった。いくつかは盾で防いだが、他はトールを通り抜けナーリャ達へと迫っていく。
「うわ!」
「この……!」
2人はかろうじて風の渦を避けるが、避けたはずの風の渦がまたナーリャ達目掛けて戻ってきた。
「ホーミングかよ!」
ナーリャとリューナは、それぞれ箒の速度を限界まで出し、なんとか振り切ろうとする。しかし風の渦の速度は速く、なかなか振り切ることが出来ない。
「くそ!」
トールは慌てて2人の元へと行こうとするが、如何せん箒のほうがトールより早く、追いつく事ができない。
トールがどうするかと考えていると、ナーリャがトールの方目掛けて飛んできた。
「よし、そのまま……」
真っ直ぐ向かってくるナーリャに、トールはそのままくれば風の渦を落とせると思い、ナーリャに向かって指示をしようとした。しかしナーリャの行動は、トールの想像を超えたものだった。
「トール、こっち!」
ナーリャはすれ違いざまトールのことを捕まえる。そしてその勢いのまま、風の渦からまた逃げ出した。
「ちょ、ちょっとナーリャ! なにを……」
「トールはこのままわたしのことを守って! リューナちゃん、けん制お願い!!」
ナーリャはトールを捕まえると、方向を変え今度は長ハーピーへっ向かっていく。
長ハーピーはナーリャが迫ってくると見るや、またもや一鳴きして、風を渦を複数作り出す。
「トール、お願い!」
「ナーリャ!? もうどうにでもなれ!」
ナーリャの無謀とも思える突撃に、トールは混乱する頭を何とか整理すると、前から飛んでくる風の渦を抑えるため盾を作り出す。
それをナーリャの前方へと展開すると、風の渦による攻撃に突っ込んでいく。
長ハーピーもそのまま突っ込んでくるとは思っていなかったのか、動揺した様子を一瞬見せる。しかし直ぐに立て直すと、ナーリャの突撃を避けるべく翼をはためかせた。
「させません!『vawJ Sszd YwgeC Hma osJ ey TPmTx yAr』」
そこにリューナが唱えた発雷の魔法が突き刺さる。バチンという音と共に、長ハーピーの羽に直撃させその行動を一瞬阻害する。
そのまま突っ込んだナーリャは、トールを持っている手を反対側を突き出すと、肉薄した長ハーピーの羽を掴んだ。
「vawJ xmQI mxXeUCdn dzUC HOma nmgD ayuR cmayJ arC!」
掴むと同時に、ナーリャはありったけの魔力を込めて呪文を唱える。それは箒製作の際に覚えた、重力操作の魔法であった。
その効果は劇的で、すぐさま長ハーピーは体制を崩して地面へと落下を始める。しかし何とか操作された重力に逆らおうと、すぐさま体勢を整えようとする。
「トール、お願い!」
風の渦の中を突き進んだ時と同じ台詞とナーリャは叫ぶ。しかし今度のは意味が違っていた。ナーリャは持っていたトールを振りかぶると、そのまま長ハーピーの方へと投げつけたのである。
「ちょ、おま……!」
抗議をあげるまもなく、トールは長ハーピーに向かって投げられた。すぐさま肉薄したトールは、そのまま大きく光る腕を作り出し、長ハーピーの羽を掴んだ。
「こうなりゃ自棄だ! 一緒に落ちてもらうぞ!!」
トールのことを振り切ろうと、長ハーピーは翼を羽ばたかせ足をばたつかさせるが、トールはそれを許さなかった。
数秒の後、トールは長ハーピーと共に地面に落下していた。
「な、なんだ!?」
地上で戦っていた冒険者と鉱夫達は、落下した勢いでドスンと大きな音を立てた物体に思わず声を上げる。
地面に叩きつけられた長ハーピーは、それでもなお健在で、必死にトールを引き離そうともがいていた。
「させるかよ! カルン!!」
「了解っす!」
トールは振り解こうとする長ハーピーを押さえつけながら、落ちると同時に駆け寄ってきていたカルンの名前を叫ぶ。
カルンは待ってましたとばかりに、槍を構え投擲のポーズをとる。そしてそのまま槍を投げた。
その勢いはバリスタもかくやと言うもので、一直線に長ハーピーに向かって飛んでいく。
「ピュイ!?」
それに長ハーピーが気付き、鳴き声をあげるがそれは遅かった。
カルンによって投擲された槍は、そのままの勢いで長ハーピーの頭を貫き、勢いがそがれることなく貫通して後方まで飛んでいく。
それを間近で見ていたトールは、洒落にならんと戦々恐々とする。少しずれればトールに直撃コースであった。
「カルン、わざわざ投げなくても良かったんだぞ」
「いや~、その場の勢いって重要っすから」
人間とハーピーの間に訪れた静寂にトールとカルンの暢気に聞こえる声が響く。そしてそれは直ぐに歓声へと変わった。
「よっしゃ、デカイの倒したぞ!」
「俺らも続け! 続け!」
士気をあげた冒険者と鉱夫達は、さらに攻勢を強める。弓と魔法を持って一斉に上空のハーピー達へと攻撃を仕掛ける。ハーピー達は自分らの長が殺され、あからさまに動揺した姿を見せており、その陣容はばらばらになっていた。
統率は乱れ、今まである程度組織だって行動していたハーピーは、地上からの攻撃と、空中からのナーリャ達による攻撃でその数をどんどんと減らしていく。
そして、日が傾き始めた頃、最後の一匹が墜落していった。
「我らの勝ちです!!」
最後の一匹が落ちたのを確認すると、指揮を取っていたリーノは勝鬨を上げる。その声に、冒険者や鉱夫達に歓声が覆いかぶさった。
「お疲れ様、トール」
「お疲れ様です、トールさん」
「ああ、お疲れ様、ナーリャ、リューナ」
空で戦っていたナーリャとリューナは、地上に戻ってくるとトールを労う。それに答えるように、トールもまた2人を労った。




