うかれる杖とあきれる魔道技師27
「なんだあいつは!」
トールはすぐさま《知識の泉》を使用する。
…画像認証:ハーピー長個体と判明。通常のハーピーと比較し、魔素の保有量が多く、膂力が強い。また群れを指揮するため、催眠効果を持った鳴き声を出す。
「ナーリャ、リューナ、耳をふさげ!」
《知識の泉》から情報を得た瞬間、トールは2人に向かって叫ぶ。
リューナは咄嗟に自分の耳をふさいだが、ナーリャは一瞬反応が遅れた。
「ピュイィィィィ!」
長ハーピーは大きく息を吸い込む動作をすると、その後高い鳴き声を上げる。
リューナは耳を塞いで防いだが、ナーリャはもろにその鳴き声を聞いてしまった。
「え? あ……」
ナーリャの焦点がブレ、その目は虚ろとなる。箒を掴んでいた手はだらんと垂れ下がり、体は徐々に傾き始め、今にも箒から落ちそうになっていた。
「ナーリャ!」
トールは急いでナーリャの元へたどり着くと、光る腕でその体を支える。
「しっかりしろ、ナーリャ!」
トールは大声でナーリャに呼びかけ、頬を叩く。
「う、ぁあ? トール?」
ナーリャはトールの呼びかけで次第に虚ろになっていた焦点が戻り、意識を取り戻す。彼女は一度頭を振ると、支えていたトールから離れた。
「大丈夫か?」
「う、うん。ありがと、トール」
意識を取り戻したナーリャは、少し回りを見渡すと、視線を長ハーピーのほうへと向ける。そこにリューナも駆けつけ、2人と1本は集結する形となった。
そこでトールは、一旦落ち着くために《守護者の巨人》の能力を使用して光る幕で皆を覆った。
「ナーリャさん、平気ですか?」
「うん、ありがとねリューナちゃん」
「無事で何よりだ。しかしあれは厄介だな」
トールが厄介といった能力、ハーピーの催眠効果がある鳴き声である。先にハーピーについてトールが《知識の泉》で調べた時も、個体によってはそういった能力があることは分かっていた。しかし実際に目の当たりにすると、その厄介な能力が良く分かった。
目に見える攻撃、風の渦なんかはトールにとって杖の補助があるのか、叩き落す事は容易であった。しかしあの鳴き声による催眠は、《守護者の巨人》による能力では防ぐ事は困難である。
「鳴きそうになったら、何とか攻撃して妨害するしかないですか」
「そうだな、それしかないか。まずは俺が突っ込んで、あの鳴き声を妨害するよ。2人を守れなくなるかと思うけど、何とかなるか?」
「こっちは大丈夫だよ」
トールが下のほうを見ると、先ほどの鳴き声にやられたのか冒険者が数名棒立ちになっている。彼らは仲間や近くの鉱夫に声を掛けられ、すぐさま意識を取り戻してはいたが、一旦崩れた陣形はハーピーたちの攻撃によって崩されたままになっていた。
「こっちも攻撃を再開しないと、下のほうもたて直せなさそうだな」
「ええ。攻撃を再開しましょう。ナーリャさんは大丈夫ですか?」
「うん。心配かけてゴメンね」
トールは《守護者の巨人》によって作り出されていた幕を解除すると、長ハーピーに向かって突き進んでいく。攻撃はあたらないとは考えていたが、取り合えずあの鳴き声を邪魔するためである。
何度か作り出した腕で殴りかかるが、ひょいっとばかりに避けられ続ける。しかしトールの攻撃が功を奏したのか、催眠効果がある鳴き声を長ハーピーは使ってこない。
「よし、取り合えずは防げているが……」
ナーリャとリューナは長ハーピーへの攻撃はやめ、周りにいる取り巻き達に攻撃を仕掛けている。その結果少しずつ下の方も陣形を戻しつつあった。
「おりゃっす!」
「vawJ tte iuC ZUpax qAyn Zphx HOYmaodJ wksyAr vawJ msXKaKvx amvC uaYJ HOYmaosrp SumWs yAr」
カルンとイオンも引き続き投石と魔法で、ハーピー達を攻撃している。ほかにも冒険者達による魔法攻撃と、鉱夫たちによる弓攻撃で、再度形勢は人間側へと傾き始めた。
「これならなんとか、こいつさえ妨害できれば」
そんな事をトールが考えていると、長ハーピーはトールを無視し、一気に上空へと飛び上がった。慌ててそれを追うが、速度差があり距離が引き離されていく。
そうして長ハーピーがトールから離れると、またしても大きく息を吸い始める。
「また来るぞ!」
トールの叫びに近い大声に、ナーリャとリューナは咄嗟に耳を塞ぐ。
「ピュイィィィィ!!」
長ハーピーは先ほどよりも大きな鳴き声を響かせる。
ナーリャとリューナは耳を防ぐことに成功していたが、完全に防ぎ切る事ができなかったのか、頭を振って意識を明確にしようとしている。
そこにハーピーが風の渦を投射しようとしていた。
「! ナーリャ! リューナ!」
トールは急いで向かおうとするが、長ハーピーを追ったため距離が離れていた。
ナーリャとリューナは、トールの声に自身へと向かって狙いを定めているハーピーに気がつく。ナーリャは咄嗟にバックからプラーミァを取り出し、リューナへ投げる。
リューナはナーリャがプラーミァを取り出すのと同時に、魔法陣の描かれた紙を取り出していた。
「飛びなさい!」
リューナが魔法陣を起動すると、リューナに向かって投げられていたプラーミァはその方向を変え、一直線に勢いよく風の渦を撃ち出そうとしているハーピーへと飛んでいく。そしてハーピーの前まで行くと、爆発を引き起こした。
爆弾による攻撃を食らったハーピーは、その羽を燃やしながら地面へと落ちていった。
「2人とも無事か?」
「うん。連携が上手くいったね」
「はい。咄嗟の事でしたが、上手くいきましたね」
まるで示し合わせたかのような2人の連携に、トールが感心していると、さらに上空に逃げていた長ハーピーがこちらへと突っ込んでくる。
「来るぞ!」
2人と1本はバラけて長ハーピーの突進を避ける。そのままトールは長ハーピーに肉薄する。
「おりゃ!」
盾と腕を作り出し、トールは長ハーピーにけん制を掛ける。
しかし今までなら避けていた長ハーピーだったが、トールの攻撃を羽で受け止めると、鳥の形をした足でトールを捕まえようとしてくる。トールはそれを避けると、再度拳の握りあげ攻撃を仕掛けた。
「これなら!『vawJ Sszd YwgeC Hma osJ ey TPmTx yAr』」
リューナは呪文を唱え、両手に雷光を纏う。その手を長ハーピーに向けると、雷が長ハーピーに向かって1本の線となり襲い掛かる。
バチンといった音が鳴り、雷は長ハーピーの羽に焦げ目を作る。
「キュイ!」
長ハーピーは一鳴きすると、トールから距離をとった。
トールも仕切りなおしとばかりに、ナーリャとリューナの方へと戻っていく。
「いつの間にあんな魔法を?」
「私も常に研鑽しているんですよ」
リューナが放った雷の魔法は、以前トールが教えた魔法とは異なり目標へ向かって伸びていった。前であれば、ただ単に手に纏うだけだったのである。
「しかし、流石にあれで決定打とはなりませんね」
「うん。流石にわたし達の魔法じゃあ、とどめとはいかないね」
「そうなると、またオニのときみたいに、俺が特攻するか?」
それはプラーミァの爆発を推進力に変えた突撃である。オニとの戦闘で止めを刺したものだ。
「いえ、少なくともアレの動きを止めないことには、避けられてしまうでしょう」
オニとの戦いでは、ペルラとバッルートの2人がトールの攻撃に合わせて足止めを行っていた。今回は動きを抑えきれるものが居らず、また空中での戦闘のため3次元的に避ける事が可能であった。
「さて、どうしたものかな」
トールの呟きに、長ハーピーがまるで答えるように嘶いた。




