うかれる杖とあきれる魔道技師26
上空には既に先行してきた個体のほかにも、多くのハーピーがやってきていた。その数は十を超え、さらに山頂方面からまだやって来ている。
上空に陣取ったハーピーたちは、そこから下に向かって風の渦を飛ばし冒険者や鉱夫たちを狙いうちにしようとしている。
それらをかいくぐり、冒険者達は自前の弓と魔法で対抗し、鉱夫たちはこの宿場に保管されていた弓を放っていた。
トールはハーピーたちが放ってくる風の渦を、《守護者の巨人》による光る腕で叩き落し、ナーリャ達へ当たらない様防ぐ。
ナーリャとリューナ、それにイオンはそれぞれが呪文を唱え、上空に向かって魔法を放つ。ナーリャは火球を、リューナは水球を、そしてイオンは土で出来た多量の矢を放っていた。
「vawJ tte iuC ZUpax qAyn Zphx HOYmaodJ wksyAr」
イオンが再度呪文を唱えると、地面から十数ものとがった形状をした石の矢がイオンの周りに浮び上がる。その状態でイオンは狙いを定めると、石の矢を上空に向かって放つ。
放たれた石の矢は、数発はハーピーに命中しその体勢を崩させるが、ほとんどが避けられてしまっている。
「なかなか飛んでいる者に当てるのは、一苦労ですね」
イオンが呟きながら上空にいるハーピーを見ていると、1匹の頭が急に消し飛んだ。イオンが横を振り向くと、そこには投擲した後の姿のカルンが立っていた。
「おっしゃ、命中っす!」、
カルンは小さくガッツポーズと取ると、次の石を拾って再度投げ始める。しかしそのほとんどはあらぬ方向へと飛んでいってしまっている。先ほどの命中はたまたまのようであった。
「カルンは結構なノーコンだな」
トールは思わず呟くと、ハーピーから放たれた風の渦を叩き落す。
辺りを見回すと、ハーピーの数は戦闘開始より徐々にその数を増やしていた。こちらが打ち落とす数より、山頂よりやってくる数の方が多いためである。
「数が多いっすよ!」
石を投げつつハーピーの風の渦を避けて叫ぶカルンに、トールはどうしたものかと考えを張り巡らす。冒険者達はまだ怪我を負った者はいないようであるが、鉱夫たちには怪我をして運ばれる者が散見し始めていた。
次々とハーピーから打ち出される風の渦は、冒険者や鉱夫たちの他にも、建屋に命中し屋根を吹き飛ばしていく。
「これでどうです!『vawJ tte iuC ZUpax qAyn Zphx HOYmaodJ wksyAr vawJ msXKaKvx amvC uaYJ HOYmaosrp SumWs yAr』」
イオンは長めの呪文を唱える。それは石の矢がイオンの回りに浮かぶのは先ほどと同じであったが、その矢には薄く緑色の燐光が光っていた。
「行きなさい!」
イオンから発射された石の矢は、再度ハーピーへと肉薄する。しかし数度撃たれていた矢に慣れていたハーピーは、それらを回避しようと既に動いていた。
そのまま避けられるかと思われた矢であったが、緑の燐光が一瞬強く輝くと、その方向を変えハーピーへともう一度向かっていった。
流石のハーピーも、その石の矢は避けきれずに多くが命中し数匹が墜落する。
「おお、凄いな!」
「ええ、あれは複合属性の攻撃魔法ですね。おそらく土と風の複合魔法かと」
トールが思わず賞賛し、リューナは魔法を唱えながらトールに解説をする。
もう一度イオンが呪文を唱え始めようとするが、ハーピーたちもそれを阻止しようと風の渦をイオン目掛けて撃ち始める。
トールはそれを防ごうと動くが、ちょうど同じタイミングでリューナへと撃たれた風の渦防ぐので精一杯であった。
回避するためにイオンは呪文を中断し、横へと跳ねた。
「大丈夫っすか、イオン」
「なんとか平気だよ、カルンちゃん」
何とかハーピーたちの打ち出してくる風の渦を避けながら、呪文を唱えようとするイオン。しかしそれも上手くいかず、回避に専念させられてしまっていた。
「ナーリャ、リューナ、なんかいい方法はないか?」
このままだとジリ貧だと考え、トールは風の渦を落としながら魔法を上空に撃っているナーリャとリューナに相談をする。
「そうだね。ハーピーたちの連携を阻止できれば、イオンちゃんの魔法で何とかできるかもだけど」
「それも現状では厳しそうですね。上空に陣取られると、こうも厳しくなるのかと」
ハーピーたちのアドバンテージは、こちらより上空に陣取っていることにある。人間という者は上方から来る事柄に対処が難しく出来ているのである。ほかにも全体を見回せる上、3次元的な挙動に対応が出来ていない。
こっちも空を飛べればとトールは考えているが、如何せん自分1本では先ほどと同じように打ち落とされるのが落ちである。と、一つ思いついた事があった。
「なあ、箒って持ってきているか?」
「箒ですか? ええ、一応は持って……そうです、それです!」
「え? ナニナニ?」
突然大声を上げたリューナに、ナーリャは驚いたようにリューナの方を向いた。
「空飛ぶ箒ですよ! あれであれば上空からハーピーをけん制できます!」
「あ! そっか、それがあった!」
トールにナーリャとリューナは急いで荷物が置かれている建物へと走っていく。そこは屋根が少し壊れた程度でまだ無事であった。
中に入ると持ってきたかばんを引っ張り出す。中を覗くと、拡張された空間の中にポンプの部品が少し入っているほかに、2本の箒が入っていた。これは1本だけだと2人で乗れないと、ナーリャがダダをこねたために作られたもう1本も含まれていた。
「トール、取り出して」
「おう、任せろ」
相変わらず空間拡張されたカバンは広く、トールの《守護者の巨人》による光る手を伸ばしてでなければ取れない。
早速トールは光る手を伸ばし、2本の箒を掴み出した。
「自分で言っておいてなんだが、かなり危険だと思うぞ」
トールは箒を2人へ渡しながら、忠告を口にする。しかしナーリャとリューナは意を返さず、そのまま外へと向かっていく。
「そんなの分かってるよ。トールは心配しすぎ」
「危険は百も承知ですよ。しかしこれが今の最善手でしょう。それにトールさんが守ってくれるんですよね?」
2人は箒に跨ると、魔力を箒へとへと送り空を飛ぶ準備をし始める。
トールは2人から視線と笑顔を向けられ、やれやれと呟きながらも気力を巡らせていく。二人は撃墜される心配をしていない。これも一重にトールへの信頼感がなせるものだと感じ取ったためである。
「危険になったら降りるぞ。それまでは任せておけ」
トールも決意し、2人と1本は頷き合うとそのまま上空へと飛び上がっていく。
最初に驚きの声をあげたのは、ハーピーではなく人のほうであった。空を飛び上がる2人に、冒険者と鉱夫は揃って声を上げている。
それらを横目に、トール達はハーピーがいる高度まで飛び上がってきた。
「さあ、いくよ!『vawn ShGpyI WC bnSJ yApx HmaosJ eukf』」
「いきます!『vawJ eItc SmcC bnSJ yApx HmaosJ eukf』」
ナーリャとリューナの2人は、右手を前へと突き出し呪文を唱える。ナーリャからは火球が発生し、リューナからは水球が生まれる。それぞれをハーピーへと打ち出すと、突然上空に現れた敵に反応仕切れなかったハーピーに直撃する。
「やった!」
思わず声を上げたナーリャに、一匹のハーピーが迫ってくる。
「させるかよ!」
ハーピーとナーリャの間に入ったトールは、今まで作り出していた光る腕ではなく、盾の様な形状を作り出しハーピーの突進を防ぐ。
光る盾にぶち当たったハーピーは、よろめくと距離を取るため下がろうとする。
「逃がすか!」
トールは今度は大きな腕を作り出すと、よろめいていたハーピーに叩きつける。今度は避けられることなくハーピーに当たり、そのまま地面へと墜落していった。
「気をつけろよ、ナーリャ」
「うん。ありがとうトール」
互いに一声掛け合い、2人と1本は上空を縦横無尽に飛びまわる。
近くに風の渦を打ち出そうとしたハーピーがいれば、トールが腕を伸ばしけん制する。離れた場所にいる個体には、ナーリャとリューナの魔法を撃ちつけた。
上空での2人と1本による攻撃で、徐々にハーピーたちの連携が崩れてくる。そうすると下からは先ほどイオンが打ち出した、追尾する石の矢が撃ち出され始める。
そうなってくるとハーピーたちの数も徐々に減り始め、戦況は人間側が優勢になり始めていた。
「ピュワァァ!」
そんな時、一際大きな鳴き声が当たりに響き渡った。
トールが鳴き声のほうを見ると、そこにはその他のハーピーよりも一回り大きな個体が存在していた。




