うかれる杖とあきれる魔道技師25
次の日からは、トールはナーリャとリューナと共にポンプ作りの作業を進めていった。
トール達が作ったポンプ、配管、土台は鉱夫達が次々と運び出し、坑道へと設置していく。当初のヴォルフの取り巻きだけではなく、何時の間にかほとんどの鉱夫達がこの作業に取り掛かっていた。
そうなると今度はポンプ部品の製作が追いつかず、トール達はほぼ一日中作業は続ける事となった。ポンプの組み立ても鉱夫たちに任せ、必死になって部品を次々と作っていく。
トールも最初は魔法陣の作成のみ手伝っていたが、魔力より手が足りないとナーリャとリューナの要望で、2人に魔力補充をしてもらいながらポンプ作りに精を出す事となった。
こうして3日ほど経ち、トール達2人と1本が疲労困憊になった頃、排水用のポンプラインは5本まで拡張されていた。
「皆さん、お疲れ様です」
リーノがお茶をナーリャ達へと配る。取り合えず5本のラインが完成し、一段落ついたと判断しポンプ作成は一旦休止となった。
時刻は昼過ぎで、ナーリャ達は久々にゆっくりとした遅めの昼食を楽しみ、今は食後の休憩を取っていた。
「ありがと、リーノ君。流石に疲れたよ」
「本当にお疲れ様です」
笑顔でお礼を言うナーリャに、リーノは顔を赤くしながら答える。
リーノは他にも、リューナ、カルン、イオンへとお茶を配り終えると、自分のお茶を入れてテーブルの席へと座る。
「数日は様子を見ることになると思いますが、依頼のほうはこれで達成となります。ここ数日でも水嵩が減ってきていますので、ほぼ問題ないと考えています」
「うん、ありがと。あとは水嵩が減った分配管を伸ばせるように、幾つか追加で作っとかないとだね」
「そうですね。坑道の奥までは大分距離があると思いますから、様子を見ながら作っていきましょう」
疲労も相まって、ナーリャはお茶を一口飲むと体をテーブルの上に倒れこませる。その事をリューナに行儀が悪いですよと注意されている。
「まあ、取り合えず一段落だな。報酬の方はよろしく頼む」
「ええ、もちろんです。少し色をつけて貰う様、セービア様には伝えておきます」
よし、とトールが内心ガッツポーズをとっていると、なにやら建屋の外が騒がしくなってくる。
何事かと思い、リーノが確認しに外へ出ると、そこに鉱夫の一人が慌てた様子で走ってきた。
「どうしました? 何か問題でも?」
「リーノ坊ちゃん、大変でさぁ! 魔物が山から下りてきやがった!」
魔物の来襲の知らせを受け、一同は慌てて外へと出る。
そこは鉱夫たちと、リーノが連れて来た冒険者達が右往左往している様子が見て取れた。
「おい! 弓もってこい、弓!」
「魔物は何処だ!?」
「山から来てるぞ! くっそ、目に物見せてやる!」
外の騒然とした様子に、トールは自分に緊張が走るのを感じた。
魔物との邂逅はこれで4度目である。一度目は角ウサギ、2度目はボアベア、そして3度目がオニである。そのうちまともに戦闘をしたのは、オニとだけであり、トールはこの世界の魔物の強さの基準を把握出来ていなかった。
「魔物は山からですか? 数は?」
「数は分からねぇんですが、山の方から飛んでくるのを見た奴がいるんでさぁ。」
リーノは魔物の数を確認すると、一瞬迷ってそぶりを見せたが、ナーリャ達のほうへと振り返る。
「危険ですので、ナーリャさん達はこの建屋から出ないようにしてください。ボクは前線の指揮を取りに行きます」
リーノはナーリャ達に建屋から出ないよう言うと、返事を聞かずにそのまま飛び出していった。
「さて、俺達はどうするか。避難しておくか?」
トールの問いかけに、ナーリャとリューナは一度目を合わせ頷きあうと、2人とも何かを決めた表情となる。
「手伝おう! ここでじっとなんかしてられないよ!」
「幸い私達も攻撃魔法が使えますから、何かの役にはたつでしょう」
「…分かった。カルンとイオンは申し訳ないが、護衛をお願いしたい」
なんとなくそんな回答が帰ってくると思っていたトールは、カルンたちへお願いをする。
「あたい達はナーリャとリューナの護衛っすからね。2人が戦うのなら、一緒になってやるだけっすよ」
「護衛の立場からすれば、本当は良くないとは思うんですけどね。カルンちゃんの言う通り、一緒に戦いますよ」
いい笑顔で答えるカルンと、苦笑いしながら答えるイオン。
その答えを聞いて、トールはありがとうというと、慌てて外に出て行ったリーノが開けっ放しだったドアから外へと出る。魔物はまだ襲来していないようで、冒険者と鉱夫たちが迎撃の準備を進めている。
外に出たトールは、まずは正確な魔物たちの位置を把握する必要があると考えた。
「ちょっと空を飛んで見てくる」
「え? ちょっとトール!?」
トールは一声掛けると、そのまま空へと飛んでいく。所々木々に覆われ、多くは土と岩がむき出しな山を見下ろせる高さまで飛んでいった。。
トールは辺りの山々の光景に心を奪われるが、今はそれどころじゃないと考えを改め、魔物を探しはじめる。
連なった山々の頂上の方をトールが見たとき、そこに集団が飛んで居るのを見つけた。その羽を持った生き物をよく見ると、それは人のような頭に腕の部分が羽になった生き物であった。
トールは以前鉱夫たちと話をした時のことを思い出す。ハーピーと呼ばれていた魔物の特徴に合致していた。
「ハーピーだ! 数は10以上! 山頂方面から来るぞ!」
トールは下にいる冒険者、鉱夫たちに知らせるように大声を上げる。
その声を聞いた冒険者達はすぐさま武器を持ち直し、体勢を整える。鉱夫たちは、一部は何処から声がしたかをきょろきょろと探していたが、その他は準備していた弓を山頂の方へと構える。
ハーピーたちはトールに気がついたのか、一鳴きすると先行して数匹がこちらへと向かってきた。
「来るぞ!」
ハーピーが近くに来ると、トールは《守護者の巨人》を使用し光る腕を作り出す。普段使用しているそれよりも大きく作り出すと、そのまま先行してきたハーピーに殴りかかった。
ハーピーは殴りかかってきたトールを綺麗に避けると、ピーという鳴き声をあげそのままトールへと向かってきた。
「こなくそ!」
トールは腕を振り回し、何とかハーピーを叩き落とそうとするが、それらは華麗に空を飛びまわるハーピーに避けられていく。
「ピュイ!」
ハーピーが一鳴きすると、その前に風の渦が発生する。それは間も置かずトールの方へと向かって飛んできた。
「うぉ!」
トールはそれを避けきれず、そのまま風の渦に巻き込まれながら地面へと叩きつけられる。
「くっそ、空じゃあどうしようもないな。当たる気がしない」
すぐさま人の胸ほどの高さまで浮び上がると、トールは戦況を確認する。
ハーピーたちは基本上空で飛びまわっており、そこから先ほどトールを打ち落とした風の渦を打ち出している。
冒険者と鉱夫たちは、それを避けながら魔法と弓で応戦していた。
「トール、大丈夫!?」
トールが落とされた事を見ていたナーリャとリューナが、一目散にトールの方へと駆け寄ってくる。カルンとイオンは上空を警戒しながら遅れてやってきた。
「すまない、俺は大丈夫だ。こいつで上から叩き落とそうとしたが、あっさりかわされちまったよ」
トールは出していた腕を振る。
「無茶はしないで下さいね。さて、それじゃあどうしましょうか? 私達は下から魔法で攻撃するとして、カルンさんは?」
「あたいはこれでいくっすよ!」
相変わらずの楽しそうな顔でカルンはトール達の前に手を差し出す。そこには石が握られていた。
「カルンちゃんは弓だと、力が強すぎて弦を切っちゃうから。私は魔法で攻撃しますね」
イオンは持っていた杖を構える。
「それじゃあ、俺はハーピーが出してくる風の渦を受け止める事にするから、気兼ねなく魔法と石を撃ってくれ」
一同は行動計画が決まると、それぞれが攻撃を開始する。
昨日は更新できずにすみませんでした。
仕事の都合上時々更新できないこともあるかと思いますが、基本昼12時更新で進めて行きたいを思います。




