うかれる杖とあきれる魔道技師24
食事場へたどり着くと、そこは既に鉱夫達でにぎわっていた。
そんな中トール達が姿を見せると、ヴォルフがやってきて一行を出迎えてくれた。
「よう、お疲れさん。お嬢さん方はこっちに座ってくれや」
ヴォルフが案内した先は、既に鉱夫たちが座っていたが、彼の一声で一斉に立ちあがり席をナーリャ達に譲る。
その光景はまるで統率の取れた軍隊のようにきびきびとしたものであり、トール達の目を丸くさせた。
「なんだかすごいな」
トールが思わず漏らした感想にナーリャとリューナも口をあけて同意している。そうこうしている間にテーブル一つ分の席が空けられ、鉱夫達によってナーリャ達はそこに案内される。
「ここに座ってくれ」
ナーリャ達がヴォルフに促されるまま座ると、今度は別の男達が料理をどんどんとテーブルに運んでくる。薄く焼いたナンのようなものに、細かく切った肉、野菜の炒め物、それに野菜が多く入ったスープなどである。
あっという間にナーリャ達が座ったテーブルには、あからさまに5人では食べきれない量の料理が置かれていった。
「これはすごい量だな」
「どうしよう、こんなに食べられないよ」
そんな風にナーリャが困惑していると、辺りは鉱夫達に囲まれてしまう。
トールが少し警戒をし始めると、ヴォルフが笑顔で同じテーブルに座ってきた。
「いやぁ、嬢ちゃん達の作ったポンプってやつか? あれはいいな! 水の排出もスムーズに行くし、なによりちまちま桶で運ぶより楽だな!」
ガッハッハと笑い声を上げて、ヴォルフはナーリャ達を褒め称える。
その事にあっけに取られると、周りにいた鉱夫達は次々と料理をよそってナーリャ達へと配膳していく。
「遠慮せずに食ってくれ」
ヴォルフに言われ、恐る恐るといった感じで皆は食事を取り始める。
周りの鉱夫たちは、ナーリャ達が食事を取り始めると、そちらも同じく食べ始めた。
「お嬢ちゃんは何処から来たんだい?」
「青い髪のお嬢さん、俺と一緒に食べないか?」
「てめぇみてーなむさ苦しい男より、おれっちの方がいいだろ」
「カルン姉さん、こちらもいかがっすか?」
鉱夫達は思い思いにナーリャ達に話しかけ、それに押されるように彼女らは受け答えをしている。中には昨晩カルンに伸された男もいた。
一体ナンなんだとトールが思っていると、こちらにはヴォルフが話しかけてきた。
「よう。あんたは食わねえのか?」
「あいにくと食べられないんでな。それで、これはどういうことだ?」
「あん? ああ、あいつらがポンプ作った奴にお礼言いてえってんで、話したんだよ。そしたらまだ若い嬢ちゃんだって、盛り上がっちまってな。あいつらも悪気は無いんだがな」
なんだか必死になってナーリャ達に話しかけている鉱夫を見て、呆れたようにヴォルフは息を吐く。
「そういうことか。まあ、好かれる分には問題ないとは思うが……」
「迷惑はかけんなって言ってるから、大丈夫だとは思うぜ。もしなんかあったら言ってくれ」
なんかあってからじゃ遅いんだがな、とトールが思っていると、男達の歓声が上がる。トールが其方を見てみると、カルンが槍を取り出していた。
おいおいとトールが思っていると、カルンは手に持った木屑を上空へと放り投げ、それを槍で細かく切り刻んでいく。どうやらカルンは、煽てあげられパフォーマンスをし始めたようだった。
カルンのパフォーマンスに歓声が上がり盛り上がりを見せ、鉱夫達に囲まれ最初は引いていた女性達であったが、次第に打ち解け始めたのか会話が弾み始める。
トールの方にも鉱夫達はやってきて、一様に珍しそうな顔つきでトールを眺めるが、ノリがいいのか特に気にした風も無く、中には酒を飲めとぶっ掛けてくるものまでいた。
それをトールが器用に避けると、その光景を見た鉱夫達はさらに盛り上がり、次第に辺りは馬鹿騒ぎとなっていく。
その騒動がようやく治まるのは、とうの昔にナーリャ達は食事を終えて、夜も更けてきた頃であった。
「疲れたよ~」
寝泊りしている建物に入ると、一番にナーリャはベッドのほうへと進む。
「ナーリャさん、直ぐに寝てはいけませんよ。さすがに体を拭いてからにして下さいね」
この鉱夫達が寝泊りしている宿場には、風呂は男性用しかなく、入りたいなら混浴という形になる。流石にそれは許容できなかったので、ナーリャ達は水でぬらした布で体を拭く程度で我慢していた。もちろんその際は、トールは外で見張りとなる。
「それじゃ俺は外で見張っているからな」
トールは早々に建物の外にでる。中からはキャッキャと姦しい声が聞こえてくる。
流石に聞き耳を立てるのも問題だと、トールは思考を始める。内容はなんだかんだで忘れていた獣人についてだ。
…獣人:猿以外から進化した二足歩行を特徴とする生命。一般に人間より魔力生成量が低いが、魔素を直接肉体強化に用いることが出来る。
《知識の泉》に獣人について問いかけると、そのような答えが返ってくる。
人間は魔素を魔力に変換する器官を持ち、それを操る事で魔法を使用している。それに対し、獣人は魔素をそのまま肉体強化に使用できるようである。
他にもトールは獣人に関する情報を得ようと、《知識の泉》に問いかけようとするが、あまり成果は得られなかった。
この《知識の泉》であるが、最近分かってきたのが目次の無い辞書のようなものであるということだ。正確には若干違うが、これはピンポイントで単語を選ばないと、回答をしてくれないようなのである。
例を挙げると、以前トールが調べたポーションの作成方法などは、この世界にはポーションという名称が存在しない。
そのため不定名称などといった回答が帰ってきたのである。
「トール、もういいよ」
そんな事を考えていると、中からナーリャの呼ぶ声が聞こえてくる。どうやら体を拭き終えたようだった。
トールが中に入ると、ナーリャとリューナは既に寝間着に着替えているようであった。
ナーリャは薄っすらとピンク色の寝間着に荷を包み、リューナはこれまた薄い青色のものである。
「流石に疲れちゃったから、お先に失礼するね」
「済みませんが、宜しくお願い致します」
「それじゃあイオン、お願いするっすね」
「大丈夫です。任せて下さい」
ナーリャとリューナは先にベッドに入る。今日の見張り役であるイオンはそのまま起きて、交代役のカルンは先に仮眠を取るようである。
今日の食事時の雰囲気を考えれば、流石に今日は何も起こらないだろうとは思われるが、念のための番である。
「トールさんは大丈夫ですか? 確か昨日も寝てなかったと思うのですけど」
「ああ、問題ないよ。俺はあまり眠らなくても大丈夫みたいだ」
トールは眠る事はできるが、昨日寝ていなくてもほとんど睡魔は襲ってきていなかった。杖の体バンザイである。
トールはそうしてイオンと番をして過ごし、交代の時刻になるとカルンを起こして共に番をする。
昨日と違い、今日は外から声が聞こえることも無く、静かに時間だけが過ぎていった。




