うかれる杖とあきれる魔道技師22
ヴォルフ達が立ち去った後、トールとカルンは取り合えず建屋の中へと戻っていった。すると、そこには寝ていたはずのナーリャ、リューナ、イオンの3人が起きていた。
「トール、大丈夫?」
「トールさん、大丈夫ですか?」
ナーリャとリューナはトールの方へとやってくると、破損箇所が無いか確認し始める。
「俺は問題ないよ。そんなに過保護にならなくても大丈夫だから」
トールの様子を確認してくる2人に対して、トールは宥める様に大丈夫だと話す。
「リューナちゃん、こっちは壊れているところはなさそうだよ」
「こちらも大丈夫そうです」
しかしトールの言葉もむなしく、ナーリャとリューナのそれぞれがトールを確認している。それは無茶したペットに対するような扱いである。
トールは抗議を諦めて、なすがままにされる事にした。
「そういえば3人共起きていたみたいだけど、どうしたんだ?」
「流石に外であれだけ騒げば、目も覚めますよ」
リューナに言われ、それもそうかとトールは納得する。
「それで、外の様子はどうだったのですか?」
「特に問題は無いよ。ちょっと酔っ払った連中が来ただけだから」
トールはぼかしながら説明をする。わざわざ本当のことを言っておびえさせる必要は無いと考えたためである。
「よっぱらいかぁ。ダナンの技術区でも時々酔っている人を見かけるよね。お酒っておいしいのかな?」
「どうでしょうね。私も飲んだ事がありませんから」
ナーリャはトールの言った事をまんま信じたようであったが、リューナはトールを細めた目で見ている。トールはそれに気付かない振りをして、明日も早いを2人に眠るように進める。
見張りはイオンがカルンと交代し、ナーリャ、リューナ、カルンの3人はベッドへと入っていった。
「それじゃあ、宜しく頼むな、イオン」
「こちらこそ宜しくお願いしますね、トールさん」
そうして夜が明けるまでトールはイオンと共に見張りに付いた。
その後、何事も起こることなく、朝を迎えた。ダナンから北に位置し、標高も若干高いこともあり少し冷えた朝である。
トールは《守護者の巨人》による腕にある触覚の機能を使って、朝の気温を感じていた。一睡もすることなく朝を迎えたが、杖となった体のおかげか、特に睡魔に襲われる事もなかった。
「おはよう、トール」
トールが外に出て朝日と眺めていると、起きてきたのはナーリャだった。リューナとカルンはまだベッドの中で夢に浸っているようである。
「おはよう、ナーリャ。よく眠れたか?」
「ちょっと眠いけど、大丈夫だよ」
笑顔でトールに答えて、ナーリャはそのまま水筒を持って顔を洗いに建屋の裏手に回る。トールは昨日の今日で問題は起こらないだろうとは思いつつ、念のためとナーリャについていく。
裏手に回り、ナーリャは水筒から水を出し顔を洗い始める。
「今日はどうしよっか?」
「取り合えずポンプに配管、土台を設置してちゃんと水を吸い上げられるか確かめよう。その後ここの鉱夫達に協力してもらって、設置してもらおう」
「そんな感じだね。……ふぅ」
ナーリャは顔を洗い終えると、もってきていたタオルで顔を拭く。
「それじゃ、リューナちゃんを起こして朝ごはんにしよっか」
建屋に戻ると、警護に当たっていたイオンの他にカルンも目を覚ましていた。
ナーリャはまだ寝ていたリューナを起こすと、完全に寝ぼけているリューナが顔を洗いに行くのに付いていった。
「おはようございます」
リューナが顔を洗いに行った後、それと入れ替わりにリーノが中へと入朝の挨拶をする。
「おはよう、リーノ。昨日は良く眠れたか?」
「ええ、よく眠れました。そちらは問題なかったですか?」
ふむ、とトールは一旦考え、リーノには一応昨日あった事を伝えておこうと考える。
「昨日の夜にちょっと問題があってな。酔っ払って鉱夫達がやってきたんだよ」
「! それで、大丈夫だったんですか?」
「ああ、問題なく帰ってくれたよ。ヴォルフって獣人も、今後無いようにしてくれると約束してくれたよ」
始めはトールの話しを聞いて驚いていたリーノであったが、説明を聞いていくうちに落ち着いた様子となる。
「そうでしたか。では今回はヴォルフさんに任せて大丈夫でしょう。彼はここの纏め役みたいなものですから」
リーノの話では、ヴォルフは役職を持っているわけではないが、リーダーみたいな事をしているとの事である。そのため下手に上役が出しゃばるよりかは信用できるだろうとの事だ。
「しかしナーリャさん達には、怖い思いをさせてしまいました。えっと、お二人は?」
「今顔を洗いに行っているよ。あと、ナーリャ達には詳しくは伝えてない。変に怖がらせてもと思ってな」
「そうでしたか。分かりました、私もその辺りは言及しないようにします」
リーノは頷くと、ナーリャ達が戻ってくるのを待つ。暫くして2人が戻ってきたところで、リーノは朝食へ行きましょうと誘った。
「食事場がありますから、そこで食べましょう」
リーノの案内で外に設けられている食事場へと一行は向かった。食事場は屋根があるだけの吹き抜けとなっており、そこにテーブルと椅子が並んでいた。この鉱山で働いている多くの鉱夫を収容できるつくりとなっている。
その食事場の一角に陣取ると、配給係らしき人からそれぞれ朝食を受け取る。パンとスープ、それは肉野菜炒めみたいなものであった。
トールは食べられないので、いつも通りナーリャとリューナの間に浮かんでいる。やる事が無いので、辺りを見回していた。
すると、ある一団がやって来た。昨日の獣人、ヴォルフだ。
「よう、昨日は悪かったな」
「昨日も言ったが、もう一度同じ事を犯さなければいいさ」
ヴォルフと彼が連れていた一団はトール達の直ぐ傍に陣取ると、思い思い食事を始める。その中でヴォルフだけはナーリャ達が座っているテーブルへとやってくる。
「それでリーノ坊ちゃん。昨日この杖に借りを作っちまってな。何か協力できる事はあるか?」
「そうですね……」
リーノは坊ちゃんと呼ばれた事に不満をを見せるが、気を取り直してナーリャ達のほうへと視線を向ける。
「それだったら、今日の作業を手伝ってもらったらいいんじゃないかな?」
「人手があると助かりますね」
見た目厳ついヴォルフにも動じた様子は無いナーリャとリューナは、今日の作業、ポンプの設置と試運転の協力について話をする。それを面白そうな顔をして、ヴォルフは食いついてきた。
「ほう、そういえば嬢ちゃん達は、この冠水をどうにかするために来たんだったか」
「そうだよ。それの手伝いをお願いしたいんだけど」
「おう。具体的にはどうしたらいいんだ?」
トール達はヴォルフへ、今日の作業について話しをし始める。辺りにいたヴォルフの連れの男達も、共に話しを聞き始めた。
具体的な作業内容は現場判断になるため、大まかな計画について話始める。ポンプと配管、それに土台の搬入に設置。その後の試運転までを今日中に終わらせ、上手くいけばそのまま排水作業を開始する予定である。
取り合えずの部品は作ってあるが、大掛かりな排水にはまだ足りないと思われるため、ナーリャとリューナは途中で戻ってポンプ関連の部品作りになる。
トールは現地で作業指示をする係りとなった。
「以上が今のところの計画だ。何か聞きたいこととかあるか?」
「今のところはねぇな。実際ポンプとやらを見て見ないことには、なんとも言えんな」
それもそうだと、トールは設置時に聞きたいことがあれば言ってくれと伝える。そうして朝食兼簡易会議は終了した。




