うかれる杖とあきれる魔道技師21
思わずカルンたちとの会話が盛り上がってしまい、結局夕食まで話し続けていたトール達であったが、その後は鉱山の排水に必要な配管、土台の作成に追われていた。
そうしてある程度の数をそろえると、すでに夜は更けて久しく、すっかり深夜の時間帯となってしまっていた。
流石にこれ以上は明日に響くと、ナーリャとリューナの2人は眠りについていた。
「すまないな、カルン」
寝ずの番を買って出てくれているカルンに、トールはナーリャが持ってきていたお茶を入れて持っていく。
「気にしなくて良いっすよ、杖の兄さん。これも仕事っす。あと、お茶ありがとっす」
カルンとイオンは交代で見張っており、今はカルンの番であった。
カルンはおいしそうにお茶を一口飲むと、ハァと息を吐く。
「これおいしいっすね。お茶を飲むのも久しぶりなんすけどね」
「ああ、このお茶はナーリャのお気に入りでな。勝手にもらってしまったが、まあ大丈夫だろ」
トールはカルンの横まで浮いていく。
建屋の中はナーリャ達が作業していた時とは異なり、静寂に包まれている。外からはまだ起きている者がいるのか、時折人の声とともに虫の鳴き声が聞こえてきていた。
「杖の兄さんはナーリャ達とは長いんすか?」
「ん? ああ、まだ2ヶ月はいかないぐらいかな。そう思えばまだ出会ってからそこまで、時間が経ってないんだな」
トールはこちらの世界に来てから、今までの事を思い出す。ほとんど訳も分からない状態でやってきてから、こうやって鉱山くんだりまで来たことを。
「そうなんすねぇ。3人の姿を見ていると、長い間一緒に過ごしてきたみたいっすよ」
「そういってもらえると嬉しいな。仲良く出来ていてなりよりだよ。そういえばカルンはイオンとは幼馴染なんだっけ?」
「そうっす。こうやって村を出て一緒に旅を始めたのは、半年くらい前からっすね」
それまでのことをカルンはトールに聞かせてくれる。
魔法が使えないカルンは、きこりや狩人の真似事をして生活をしていたそうである。しかし魔法が使えないことと、この異常なまでの身体能力を持っている事から、村人からは不気味がられており、排斥とはいかないまでもあまりいい扱いをされてこなかったようである。
しかし幼馴染のイオンだけは異なり、私生活の手助けから、時には村人達との仲介役まで出てくれ 、親身にカルンの世話をしてくれていたらしい。なのでカルンはイオンの事が大好きなのだとか。
「それでイオンと約束したっすよ。16才になったら村を出て、あたいが魔法を使えないのをどうにかしようって。あたいとしては別に良かったんっすけど、この体質の事を他の誰かに言われると、イオンが悲しむんすよ。だからこうして旅を始めたんすね」
にひひ、と笑いながらカルンはトールが入れたお茶を飲む。
トールはその話しを聞いて、カルンとイオンが仲のいい理由はもちろんの事、この世界において魔法が使えないことの不便さと差別が根強いことを改めて認識する。
「なぁ? もし魔法が……」
そうトールがカルンに話しかけようとしたとき、シッ! とカルンが静止する。
「ドアの前に何人かいるっす」
小さな声でトールを制止するカルン。そのまま立ち上がると、ドアを開けて外へと出て行った。
「何かようっすか?」
トールも慌てて外に出ると、そこにはカルンの前に4人の男達が立っていた。
「おや嬢ちゃん、自分から出てきてくれるとはおじさん嬉しいねぇ」
ニヤニヤと笑いながら男達は悪びれた様子も無く、カルンの前に立ちふさがっている。
カルンは一度大きくため息をつくと、男達にむかって警告する。
「もう一度聞くっす。なにかようっすか?」
「何か用って、そりゃあナニの用だよ」
一人の男がそういうと、ほかの男達が笑い出す。
その様子を見ていたトールは、男達がかなり酔っ払っている事に気が付く。足取りは怪しく、顔色は暗くてよく見えないがこの分だと真っ赤になっているだろう。
「昼に警告したはずだが、聞いてなかったのか?」
トールは男達の前に出ると、強気な態度を意識しながら対応する。この手合いに嘗められたところでいいことは無い。
トールは改めて男達を見る。するとその姿顔つきに見覚えが合った。この鉱山に来て獣人のヴォルフと話をした時、周りに集って来たうちの数人である。
「ああ? んだよオメェは!」
「昼間に話しをしたと思うが、杖のトールだ。もう中は寝静まっているし、周りにも迷惑だからお引取り願おう」
「あ? うっせえよ、杖のくせしやがって!」
段々と声が大きくなる男達にトールが辟易していると、カルンが一歩前へと出る。
「めんどいんで、やっちゃっていいっすか?」
何時の間にか槍を取り出しながら、カルンは軽い様子でそう言う。
その槍を見て、男達はここで引いたら男が廃るとばかりに、やんのかと騒いでいる。もはや完全にただのチンピラである。
仕方ないと、トールはため息を一つしてから男達へと最終勧告を告げる。
「これで最後だ。ここで帰ってくれるなら特段何もしないし、後から告げ口をしたりもしない。ただしこれ以上のさばるなら、痛い目を見てもらうことになるぞ」
「うるせぇ! 出来るもんなら見せてもらおうじゃねぇか!!」
完全に頭に血が上った男達を見て、言い方が悪かったかなぁとトールは反省する。完全に挑発する形になっている。
と、そう頭の中で考えていたトールに、男の一人が捕まえようと手を伸ばしてくる。それをひょいっと避けると、トールは声を上げた。
「カルン、あまり怪我はさせないでくれ」
「了解っす!」
カルンは持っていた槍の柄を使い、トールを捕まえようとした男の手を叩き落す。
「いぎゃ!」
思わず悲鳴を上げ、男は自分の手を抱え込む。その様子を見たほかの男達は、声を荒げてカルンへと殴りかかって行く。それをあっさりと避け、カルンは槍を巧みに使いながら、男の一人の足を柄で引っ掛け転ばせる。
見事なもんだとトールは感心しながら、《守護者の巨人》を使い光る腕を発生させる。そしてそのまま男の一人の腕を捕まえると、ひねり上げた。
「いでてててて!」
悲鳴を上げる男を押さえつけながら、トールはカルンの様子を見る。
そちらの方はトールが最初に言ったことを守るように、カルンが相手に怪我をさせないよう槍の柄を使い、アキレス腱辺りを叩いて転ばせ続けている。相手が起き上がると、もう一度柄を使い転ばせるといった事を繰り返しており、3人の男達がまるで子供のようにあしらわれている。そんな様子を見て、トールはなんだか相手が可愛そうになってきた。
「なにやってんだ!」
トールが一人を押さえつけ、カルンがほか3人を転ばせ続けていると、そんな声が聞こえてきた。
トールがそちらをみると、そこには犬の耳を持った獣人、ヴォルフが何人かを引き連れて立っていた。
「ヴォ、ヴォルフさん……」
カルンに転ばせられていた男のうちの一人が、立ち上がるとヴォルフのほうへと駆け寄っていく。
「こ、こいつらがいきなり、殴りかかってきたんでさぁ」
転んだ時にぶつけたのか、男は腕を押さえながらそんな事をのたまう。
「おいおい、嘘つくなよ。お前らがここに来た理由を、正直に話せばいいだろうが」
「……おい、どうなんだ?」
ヴォルフが駆け寄ってきた男に、睨みを利かせながら尋ねる。そんなヴォルフを見て、男達は一斉に目を逸らした。
男達の様子を見て、ヴォルフは察したのか大きくため息をついてトールとカルンのほうへとやってくる。
「こいつらが馬鹿やったってことは分かった。すまねえが、こいつで許しちゃくれないか?」
ヴォルフはそういってトールとカルンに頭を下げる。
トールは腕をひねり上げていた男を放すと、ヴォルフの前まで浮かんでいく。
「ああ、こちらとしては、特に被害を受けていないからな。ただし、俺らが滞在中同じ事が無いようにしてくれ。カルンもそれでいいか?」
「あたいは護衛の仕事をしただけっすから。ただしもう一度同じ事が起こったら、今度は転ばせるだけじゃ済まないっすよ」
脅すようにカルンは槍を回し、転んでいる男の前に突きつける。突きつけられた男は、表情を真っ青にしている。
「すまないな。貸しにしておいてくれ。……お前らも分かったな!」
「へ、へい!」
始めにやって来た男4人は、そそくさと自分達が寝泊りしているであろう宿舎の方へと走り去っていく。
「カルンって言ったか? お前さんいい腕してんな」
「これでおまんま食ってるっすからね」
ヴォルフに褒められカルンは、にひーと笑うと槍を背にしまう。
「あとトールだったか。今回はすまなかったな」
「なに、済んだ事だ。もう一度同じ事を起こさなければいいさ」
「そういってもらえるなら助かる。よし、お前ら行くぞ!」
連れていた男達を引きつれ、ヴォルフはその場を立ち去っていった。




