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うかれる杖とあきれる魔道技師20

 

 トールは獣人との話を終え、建屋の奥へと戻っていった。そこで一息つく。

 トールは先ほどの獣人、ヴォルフのような荒くれ者達との会話は慣れてはいない。そのため少し疲れを感じていた。

 荒くれ共と付き合うときは隙を見せるな、脅して恩を売れと前世に友人に聞いていた。その友人は大規模施設の建築業界に身をおいており、地元の有力者、悪く言ってしまえばヤクザ者とも付き合いがある男であった。そのためそういった輩との付き合い方を、酒の席で大いに語っていたのを思い出したのである。

 だからと言ってトールは、先ほどの会話が上手くいったかは自信が無かったが、やれるだけの事をするのだと自分を納得させていた。

 そこで先ほどの獣人に《知識の泉》を使うのを忘れていた事を思い出し、後でまた試そうと考える。


「お帰り、トール。なんか面白い事でもあった?」


 そうナーリャに声を掛けられ、トールは思考の海から戻ってくる。

 ナーリャ達5人は、思い思いの席に座り談笑しているようであった。


「ああ、ちょっと最近でる魔物について聞いてきたよ。空を飛んで風の塊を飛ばしてくる奴らしい」


 トールはナーリャとリューナが座っている間に浮かぶと、先ほど手に入れてきた魔物に関する情報を伝える。

 その情報を聞いて、リューナが顎に手を当てながら口を開く。


「空を飛び、風の塊を飛ばしてくる魔物ですか。私が知っている限りではハーピーでしょうか?」


 ハーピーと聞いて、トールはすぐさまRPGとかで出てくるモンスターを思い出す。人型で手は羽になっており、鳥のような足を持つ生き物である。

 その推測が正しいのか、《知識の泉》で確認する事にした。



 …ハーピー:魔物の一種。空を飛び魔素によって風を操り、それを飛ばして獲物を狩る。人型をしており、羽の手、鳥の足をもつ。一部の個体は音響を操り、人間に催眠を仕掛ける。



 説明と同時にトールの頭の中にその姿が浮び上がってくる。概ねトールが考えていた通りの形状であった。そして注意すべき能力、催眠についても知る事ができたため、それを一向に伝える。


「ハーピーだった場合、他にも催眠をかけてくる個体もいるらしい。そこにも気を付けないとだな」


「催眠っすか。厄介っすね」


 カルンは既に戦う事を想定しているのか、何かを投げるようなそぶりを見せている。


「基本魔法の打ち合いになるでしょう。それはそれとして、そろそろ鉱山のほうへ行ってもよろしいですか?」


 リーノは魔物対策の話しを打ち切り、本来の件である鉱山の冠水対策のほうへと話しを切り替える。そもそもトール達がここに来たのは、冠水をどうにかするためである。


「うん、大丈夫だよ」


「はい、大丈夫です」


「では行きましょうか」


 リーノに連れられ、一行は建屋の奥の部屋から出る。入ってきたときと同様注目を浴びるが、今度は下世話な野次を飛ばしてくるものはいない。それどころか見定めるような視線が多く見られた。

 それらの視線に、トールは先ほどの忠告が上手く効いているか、それとも効きすぎたかと冷や汗をかく。汗はかけないが。

 そのままリーノの案内で鉱山の坑道へと向かう。そこには多くの人足が一様に水を持った桶を運んでいた。

 リーノはその中の一人を捕まえて話しかける。


「ご苦労様です。中の状況はどうですか?」


「こりゃあリーノ坊ちゃん。中はダメですね。必死に水を掻き出してはいますが、一向に減った様子がありやせん」


「そうですか。苦労をかけますが引き続きお願いします」


「へい」


 リーノと話していた鉱夫はそのまま桶を持って外へと水を捨てに行った。


「ここから先は足場が悪くなっています。気を付けて進んで下さい」


 トール達が坑道の中に入ると、そこは辺り一面が水で濡れており足場が悪くなっていた。ナーリャとリューナは転ばないようにと慎重に歩みを進めていく。カルン、イオンはそこそこ慣れているのか、問題なく進んでいた。トールは言わずもなが、浮かんでいるので問題なく進む。

 何度も水を運ぶ鉱夫とすれ違いながらも、一行は百数十メートルほど進み、冠水の現場、水溜りまでやって来た。


「これは……想像以上だな」


 トールは思わず感想を漏らす。そこは斜め下に伸びている坑道を、完全に水が覆っている状態であった。


「雨の影響、割れ目からの湧き水、水脈がらの排水とここまで浸水しています。何とかポンプで上手くいけばいいのですが」


 トールは改めて辺りを見回す。縦、横幅は3メートルほどありポンプの設置には問題なさそうである。後は作ったポンプがどの程度まで水を引き上げられるか、ポンプの設置幅をどの程度にするかが問題である。


「とりあえず配管とポンプを設置して、水を引き上げていかなきゃ話しにならないな。何個か作ってきているからそれで試すか」


「そうですね。他にもポンプを設置する簡易台を作る必要がありそうです」


 それもそうかと、トールは土台を見逃していた事に気付く。すっかり抜けていた事を反省し、次の案を考える。


「それじゃあ取り合えず部屋に戻って、配管と土台の作成かな? あとは中継点用に大きな桶も必要か」


「そうだね。今日中に何個か作っちゃおうか」


 指針を決め、トール達は再び建屋へと戻る。転ばないようにゆっくりと進んでいた事もあって、思いの外時間が経っていたようで、外は既に日が傾き始めていた。

 リーノは最初に入った建屋とは別の建屋へと案内する。


「御2人の部屋はこちらに用意してあります。あと、護衛のカルンさんとイオンさんも同じ部屋でお願いします」


 最初に案内された鉱夫達の休憩所とは事なり、少し小さめであるがしっかりとした作りである。

 中に入ると人は居らず、テーブル1つのほか同じ部屋にベッドが8つほど置かれていた。


「ご不便かと思いますが、こちらで我慢して頂けると助かります」


「大丈夫、素敵な部屋だよ」


 笑顔でナーリャに答えられ、リーノは少し顔を赤らめると、それではと言って外へと出て行く。

 残った4人と1本はそれぞれ動き始める。

 ナーリャとリューナは必要そうな物をリストアップし始め、カルンはベッドへと飛び込み、それをイオンに窘められている。

 トールはナーリャとリューナに交じってリストアップ作業を行っていた。


「配管はこのぐらいとして、土台はどうしよっか?」


「基本木でいいんじゃないでしょうか。そう長く使うものでもないでしょうし」


「配管はポンプの吸入口だけじゃなく、排出口にも付けたいな。そうすれば距離を稼げる」


 ポンプの構造上吸入には制限があるが、排出には無い。理論上ではあるが。

 そうこうトール達が話しをしていると、ベッドに飽きたのかカルンがトール達のほうへとやってくる。


「そういえばさっきっから言っている、ポンプってなんなんすか?」


「ちょっとカルンちゃん、邪魔しちゃダメだよ」


 カルンはナーリャ達の向かい側に座り、ポンプについて聞いてくる。それを慌てた様子でイオンはカルンを止めようとする。

 トールはイオンは苦労性だなぁと心の中で思いながらも、カルンの質問に答える。


「ポンプってのは水を吸い上げる装置のことだよ。今回の冠水を解決する道具って訳だ」


 トールは実際に見たほうが早いと、ナーリャにポンプを出してもらうようにお願いする。

 ナーリャは持ってきていたカバンの一つを床に置き、口をあける。それはナーリャ達がここに来る前に作っておいたポンプを入れるための、空間拡張、重量軽減の魔法陣を使ったカバンである。

 その中にトールが《守護者の巨人》で作り出した手を入れ、ポンプを取り出し床へと置く。

 あからさまにカバンの中に入るはずの無い体積の物体を取り出した事に、カルンとイオンは驚いた様子になる。


「なんかありえない物が出て来たっすけど……」


「このカバンも魔道具の一種なんです。見た目以上に物が入って、軽くする事ができるんですよ」


 ほぇ、とカルンは口をあけてカバンの中を覗く。その中はカバンの体積以上の空間が広がっていた。

 持ち上げたり覗いたりと、興味深そうにカバンをいじっているカルンに、イオンも横からカバンを眺めている。


「それでこれがさっき言っていたポンプだ」


 トールに声を掛けられ、カバンに夢中だった二人はポンプの方へと注目する。


「ここのレバーを上げ下げすると、こっちから水を吸い上げてここから出るって構造だ。単純に桶で水を汲むより、何倍も水を吸い出すことが出来る」


 カルンはトールの説明を聞きながら、キコキコをレバーを上下に動かしている。


「このポンプといい、さっきのカバンといい、面白い事考えるんっすね、魔道技師って人は」


「それが仕事だからね。まあポンプに関してはトールの発案だけどね」


「トールさんがですか。物を作り出す魔道具というのもすごいですね。このトールさんも御2人が作ったんですか?」


 ポンプを弄るのが楽しいのか、さらにレバーをいじるカルンを横目に、イオンはトールを眺めながらそう聞く。


「トールはわたし達が作ったわけじゃないよ。森にあった祭壇みたいなところにあったのを、冒険者の人が見つけて、それをわたしが買ったんだ」


 その時を思い出すように、笑いながらナーリャは語った。そうしてなし崩し的にリューナがやってきた時のこと、トールがいきなり話し始めたときのことを語り合っていった。



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