うかれる杖とあきれる魔道技師19
それから何事も無く夜が明け、一向は鉱山へと向かって進み始める。そして日が落ちる前に目的の場所へと到着した。
鉱山は洞穴が一つあり、その周りには鉱山扶が寝泊りしているであろう建屋が幾つか立ち並んでいる。
一向が到着すると、それを知った責任者らしき男がこちらへとやって来た。
「お疲れ様です、リーノ様。この度はご面倒をおかけします」
「お気になさらずに。困った時はお互い様です」
リーノは挨拶を済ませると、他の馬車に乗ってきた鉱山ギルドの人たちに指示を与え、トール達を一番大きな建屋の中に案内する。案内された内にはカルンとイオンも含まれていた。
リーノに案内されナーリャ達が建屋に入ると、歓声が上がる。それはこの冠水を解決しになってきた者へのものとは違い、下卑た野次が多く含まれていた。
その中にはトールが見たことの無い人種、犬や猫といった生き物の耳を持つ獣人と思われる人もいた。
「あそこにいるのって獣人か?」
「え? そうですね。鉱山で働く人々には、獣人の方も多くいらっしゃいます」
リューナの答えに、トールは早速とばかりに《知識の泉》へ獣人のことを確認しようとしたが、それはリーノによって阻まれた。
「皆さん、こちらへどうぞ」
リーノにしたがって建屋の奥へと進む面々に、トールは置いていかれないよう《知識の泉》の使用を諦めて、後へと付いて行く。
注目を集めながら奥へと入ると、一つの大きなテーブルに、椅子が並んでいる。それぞれが椅子に座ると、リーノは説明を始めた。
「さて、それでは改めて鉱山の、今の状況を説明させていただきます」
鉱山冠水は概ねこちらに来る前に受けた説明と同じ内容であったが、幾つか異なる点もあった。
一つは冠水の範囲である。冠水した箇所が事前に受けた説明より多くなっているのだ。これは数日前にあった、雨の水が入りこんだためと思われるとの事だ。
もう一つが魔物の出現である。ここ数日で飛行型の魔物が散見されているとの事だ。今回連れてきた冒険者には、その対処も依頼する予定だという。
「それと、ナーリャさんとリューナさんには注意いただきたいのですが……」
少し言い辛そうに言葉を濁すリーノ。
「どうかしたの?」
「いえ、その、この鉱山に勤めている者達は荒くれものが多いので、身辺に注意をお願いします。護衛にはカルンさんとイオンさんにお願いしたいと思っています。女性同士のほうが気が合うでしょう」
聞けば納得の内容である。先ほどの野次も含めて、トールが少しだけだが見た炭鉱夫は、お世辞にも品行方正とは言い辛い趣きをしていた。
「了解っす。あたいに任せておけば大丈夫っすよ」
「承知しました。お二人の護衛は引き受けさせて頂きます」
「ありがとう御座います。宜しくお願い致します」
2人に同意を得られて、リーノはホッとした表情になる。
それから一休憩した後、鉱山の現状を確認することになった。トールはナーリャとリューナが休憩している間、先に外の様子を見て回る事にした。
それは、いざという時の脱出路の確認と、ここの住人達が気になっていたからである。正確には獣人が、であるが。
「じゃあちょっと先に外に出てるわ」
「気を付けてね」
「トールさん、あまり目立つ事はしないで下さいね」
了解、と言ってトールは建屋の奥の一部屋から外に出る。そこには先ほど入ってきた時と同様、多くの男達が詰め寄っていた。
トールが外に出ると、案の定注目を浴びる事となった。杖が単体で動いているのである。注目を浴びない方が可笑しいというものだ。
トールはとりあえず近くにいた獣人に声を掛けてみることにした。
「よう、景気はどうだい?」
「ブファ!」
いきなり杖に話しかけられた獣人は、飲んでいた飲み物を思わず噴出す。
気管に入ったのか、しばらくの間むせていたがトールが声を掛けた獣人は次第に落ち着きを取り戻す。
「お前か、今喋ったのは?」
「ああ、トールって言うんだ。宜しく頼む」
ものめずらしそうに獣人の彼、犬の耳を持っている、はトールを興味深そうにじろじろと見ている。
「そうじろじろ見ないでくれ。こう見えても恥ずかしがり屋なんだ」
「お、おう。そうか」
突然杖に話しかけられれば、無理の無い話しである。
「それで、最近の景気はどうだい?」
「あ、ああ。景気も何も鉱山がああなってちゃ商売上がったりだよ」
獣人の男性は落ち着いて今まで飲んでいた酒を一口飲む。
「冠水は収まらないわ、魔物は出始めるわでもう散々だよ」
「魔物……そういえばどんな魔物が出るんだ? なんか空を飛んでいるみたいだが」
「俺も見たわけじゃないからなんともいえないんだが、鳥のような魔物らしいぞ。それで空から風の塊を飛ばして来るそうだ」
それは厄介そうだ、とトールは感じていた。空からの攻撃を言うのは、えてして人間の反応を遅らせる。
「それは厄介だな。なんか対策とかは取っているのか?」
「さてな。ギルドのお偉いさんが連れてきた冒険者達に対応させる、と言ってはいたがどうなるか」
そうしてトールが獣人と話していると、あたりには人だかりが出来ていた。話す杖が珍しいのであろう、興味深そうにトールの事を見ている。
「それよりもお前さんは一体何物なんだ? 杖、でいいんだよな?」
「ああ、俺は杖だよ。名前はさっき言った通りトールって言うんだ」
「へぇ。あんたも魔道具って奴かい?」
街中では近年は見られるようになった魔道具である。なので珍しいもの、おかしな物があれば大体魔道具という認識を持つようになっている。
トールはいつもの事だと、素直に頷いた。
「ああ、そうだ。ダナンの街だとちょっとした有名人だよ」
「人じゃねえだろうが」
そういって獣人の男はトールの事を2,3度笑いながら叩く。
「おっと、俺の名前はヴォルフってんだ。宜しくたのんまぁ」
「ヴォルフか。こちらこそ宜しく頼む」
トールが柄の先端をヴォルフのほうへと向ける。最初何の事だか分からなかったヴォルフであったが、トールが握手だよというと苦笑いしながら柄を掴む。
「それで、さっきの嬢ちゃん達はお前さんの連れかい?」
「俺の連れというか、俺が連れなんだけどな。鉱山の冠水を解決しに来たんだよ」
へぇ、とヴォルフは目を鋭くさせながら呟く。
「あんな状況の鉱山を、解決できるたぁ思えないがな」
「まあそういうなって。ここに居る皆にも、手伝ってもらう事になるだろうからな」
ふーん、と一件興味がなさそうな態度でヴォルフはトールの事を見ているが、その目の鋭さは相変わらずである。
「それで? 俺達にしてほしいことってのは?」
「それは後からリーノが説明するだろうが、機材の設置と稼動をお願いしたいって感じだな」
「リーノ坊ちゃんがねぇ……」
ヴォルフは顎に手を当て、何事かを考えながら呟く。
「するってえとあの嬢ちゃん達は、俺達にあてがう為に連れてきたわけじゃあなさそうだな」
その言葉に、周りにいた男たちは一様に笑い出す。
「ああ、彼女達には手を出さないでくれよ。ろくな事にならないからな」
一応トールは忠告しておく。ただこの忠告をまともに聞いている男達は少なそうである。ニヤニヤと笑っていた。
「さて、それは一応聞いておくとしよう。しかしここに居る連中は、馬鹿ばかりでな。少し羽目を外す奴も出てくるかもしれんなぁ」
「もう一度言っておくが、ろくな事にならないからな。何せ付いている護衛は、一人で盗賊15人ほどをわずかな間で、惨殺しているかならな」
トールはこの忠告をナーリャ達に危害が加えられないように言っているわけではなかった。むしろ逆で、仕事をしてくれる鉱山扶が減るのを阻止するためにである。
護衛についているカルンであれば、冗談抜きにここに居る男達を瞬殺出来ると思っていたからだ。
そのトールの言葉に、またしてもあたりからは笑い声が上がった。
「冗談はよしてくれよ。んなことあるわけなぇだろ?」
「嘘だと思うんならやって来た連中に聞いてみるといい。ここにくる途中襲ってきた山賊がどうなったってな」
そのトールの言葉に、今度は笑い声は上がらなかった。
長々と更新休んでしまい、申し訳御座いません。
本日よりまた基本昼の12時更新となります。




