うかれる杖とあきれる魔道技師18
「それで、杖のかた。何か知っている事があれば、教えて頂きたいのです」
「そうだなぁ。俺は別に構わないが……」
トールは《知識の泉》で得た知識のため、どう思うかナーリャとリューナの方を見る。杖であるトールの視線を感じたわけではないだろうが、ナーリャとリューナはトールに対し頷いた。
「いいと思うよ。トール、知っている事があれば教えてあげて」
「そうですね。それでいいと思います」
2人の同意を得られて、トールは改めて《知識の泉》に問いかける。
…魔力過多症候群:人間平均値の100倍以上の魔力生成を行う症状の事。通常は自身の魔力過多に耐えられず、体が壊死していく。まれに耐えられる固体がいるが、その際は多くの魔力を内包し、一部英雄と呼ばれる個体へと変貌する。
…対外魔力排出不良:体の外へ魔力供給が出来ないこと。肉体に備わっている、体外への魔力経路が遮断されている状態。
ふむ、とトールは《知識の泉》より得た情報を頭の中で整理する。
カルンを《知識の泉》で調べた時は、英雄ではなく規格外種と出ていた。後でそれらの違いを調べようと考え、まずはカルンとイオンへ伝える。
「カルンは魔力過多症候群と、対外魔力排出不良って状態みたいだな。魔力過多症候群はその名の通り、魔力が一般の人より多く生成される事のようだ。後は対外魔力排出不良は、魔力経路が遮断されているため、体の外に向かって魔力を送る事ができない症状だな」
「魔力過多症候群に、対外魔力排出不良ですか……」
真剣な目つきでイオンはトールを見つめる。カルンば自分の事なのに、お気楽な様子である。
「ああ。この対外魔力排出不良って奴が、おそらくカルンの魔法の行使を妨害しているんだろうな。体外への魔力経路の遮断をどうにか出来れば良いみたいだが……」
トール追加で対外魔力排出不良を直す方法を《知識の泉》に問いかけてみるが、何個か検索ワードを変えてトライしたがほしい答えは返ってこなかった。
こと魔法関連の知識は《知識の泉》に頼りっぱなしな為、トールには解決策は思い浮かばなかった。
「すまないがこれに関しては、解決方法は分からない。ナーリャとリューナはどうだ?」
「そうだね。魔力経路が遮断されているとなると、ちょっと簡単にはいかないかもしれないね」
「ええ。魔力経路に関してはまだ分かっていない事も多いのです。血の流れと共に全身に魔力が流れているとされていますが、その後どのようにして魔力が外に出て、魔法が発動しているのか。そのあたりの理論はまだ不明瞭です。すみません、お力になれず」
頭を下げるリューナに、イオンは気にしないで下さいと頭を下げ返す。
「原因は分かったのです。それだけで大分違うと思います」
イオンはカルンのことに関して、光明が見えたと素直に喜ぶ。
「まぁ、なるようになるっすよ」
「……ハァ。本人がこれですので」
イオンはため息をつき、そのイオンの肩をカルンは暢気そうに叩いている。
「そういえば、カルンが山賊たちを倒す前に言っていた、何とかの裔ってなんだ?」
トールはふと気になっていた事をカルンに尋ねる。カルンは山賊たちに切りかかる前に口上を述べていた、かの英雄の裔という言葉について。
魔力過多症候群の中には、英雄となる者がいると《知識の泉》にて知ったので気になったのだ。
「ああ、それっすか。なんとなくカッコいいから、いつも名乗っているんすよ。我こそは英雄アーセファの子孫なり! って」
「なんとなくって。それじゃあカルンはその英雄の子孫なのか?」
「違うっすよ?」
自称である。
なんだか真面目に気になって聞いたのが馬鹿らしくなり、トールは頭、もとい宝玉を抱える。
「細かい事は気にしないほうが良いっすよ、杖の兄さん」
アッハッハと笑いながら今度はトールの事を叩き始める。トールはそれをなすがままにされている。
と、そうして話し合っていた一行であったが、部隊の状況を把握できたのかリーノが皆の元へと戻ってくる。
「すみません、お待たせしました」
「いえ、こちらも一段落ついたところです。それで他の方々はどうでしたか?」
「冒険者数名が軽い怪我程度で済んでいます。あと、最初に切られた御者は、既に事切れていました」
その報告に、ナーリャは少し暗い顔をする。死者が出たことに、何か思うところがあったのであろう。
「そっか。怪我をした冒険者の人たちに薬を渡してきて良い?」
「もちろんです、ナーリャさん。助かります」
辺りでは既に山賊の亡骸の処理を済ませており、一部夕食を食べ始めている。山賊達が持っていた武器等は、冒険者の取り分となるようで、脇に集められていた。
トール達も夕食を済ませてしまおうと、準備に取り掛かかる。ナーリャは先に冒険者達に薬を渡し、その他の面々は手早く食事の準備を済ませる。、そうしてカルンたちを含めて食事を取り始めた。
「ナーリャさん、リューナさん。この度は私の失態で御2人を危険な目に合わせてしまい、申し訳御座いませんでした」
食事を始めて早々、リーノはナーリャとリューナに対し謝罪を口にする。今回の件は自分の不手際だと。
「まさか雇った冒険者の中に、山賊が紛れているとは思いもよらず、私の不徳の致す所です」
「気にしないで、リーノ君。こうして無事だったわけだし」
「そうですよ。特に怪我も無く、無事に済んでいますし」
ナーリャとリューナの2人に気にしないでくれを言われ、リーノに少し笑顔が戻る。
「そう言って頂けると助かります。あと、カルンさんとイオンさんでしたか? 御2人にも感謝を」
「気にしなくて良いっすよ、リーノ君」
「仕事を果たしただけですから、お気にしないで下さい」
リーノは改めてカルンとイオンに感謝の意を述べる。
「そういえば、一つ気になっていたんだけどいいか?」
「なんでしょう?」
トールは山賊に襲われた事で気になっていた事があった。今がちょうどいいと思い、聞いてみることにした。
「さっきの山賊に冒険者に成りすました奴がいただろ? ああいうのって結構あるのか?」
トールはそれが気になっていた。冒険者といわれてはいるが、所詮は何でも屋みたいなものである。もちろん冒険を本職としている人々もいるが、多くはそうではない。
今後ナーリャ達と魔道具作りの材料集めのため、冒険者を雇って護衛をお願いすることもあるだろう。そうする前に商人であるリーノから冒険者への信頼度を確認しておきたかったのである。
「こういったことはほとんどありません。今回雇ったのは冒険者ギルドへ手配した方々でしたから。ですので冒険者ギルドへは抗議を入れる必要があります」
冒険者ギルド。昔は個々に冒険者へ依頼することが多かったようであるが、個人の信頼の上に成り立っていた職業であったため、あまり冒険者というのは多くなかったのである。しかしその冒険者を取りまとめ、依頼を一元化することで組織だった運用を可能とし、また組織としての信頼を確保してきた団体である。
今回の護衛は、トール達がポンプの存在を鉱山ギルドへ伝え、それを運ぶという事で急遽募集という形を取っていたが、それに対応できたのも冒険者ギルドがあってのことだった。
「普段はこうやってもぐりこんでくる事はありません。しかし今回の件で冒険者ギルドの信頼も落ちるでしょう。鉱山ギルドとしても、今後の対応を求めていく必要がありそうです」
トールはそれらの説明を聞いて、何処の組織も大変だなと思っていた。獅子身中の虫とは何処の世界にもあるのだなぁと。
「なぜ今回の輸送が襲われたのかも調べなければなりません。鉱山ギルドとしても、身内を疑う必要があるでしょう」
今から気が重いです、とリーノは呟く。
「そうか。いや、変な事聞いて悪かったな」
「お気になさらないで下さい」
その後は山賊達のことは会話には上がらず、ほとんど世間話して食事を終えるのだった。
7/12 追記
申し訳御座いませんが、都合により7/12,13は更新が出来ません。
次回更新は7/14(木)となります。
ご連絡が遅くなり、申し訳御座いませんでした。
7/14 追記
度々で申し訳御座いませんが、今週一杯更新が難しい状況となりました。
次回更新は7/18(月)の予定となります。
申し訳御座いませんが、宜しくお願い致します。




