うかれる杖とあきれる魔道技師17
「は?」
その間抜けな声は誰のものだったか。
カルンはリーノに剣を突きつけていた男の首を刎ねると、そのまま山賊のかしららしき男へ肉薄する。
かしらもそれに気がついたようであったが、それは遅きに失した。
「フッ!」
カルンは一拍の呼気を吐きながら、その手に持った槍を山賊のかしらへと振るう。それはかしらの肩から反対側の胴体へと滑り込み、両断する。そしてそのままカルンは、別の山賊たちの下へと向かっていった。
トールがあっけに取られていたが、最初に首を刎ねられた男が倒れこむ音で気を取り戻す。
「ナーリャ! リューナ! リーノの治療を!」
一体なにが起こったのか把握できていなかったナーリャとリューナであったが、その声で正気に戻り急いでバックから傷薬、ペリエ薬を取り出す。
「リーノ君、大丈夫!?」
「すみません、不覚を取りました……」
ナーリャはリーノの服を切ると傷口をあらわにする。それをリューナが魔法で出した水で洗うと、ペリエ薬を塗っていく。その効果は直ぐに発揮され、徐々に傷口を塞いでいく。
「これで大丈夫でしょう。後は……」
リューナはペリエ薬をリーノに塗った後、辺りを見回すと何時の間にか剣戟の音がやんでいる事に気がつく。そしてその直ぐにカルンが姿を現した。
「カルンちゃん、怪我は無い?」
「大丈夫っすよ、イオン。あんな相手に怪我なんてしないっす」
イオンはカルンに駆け寄ると、魔法で出した水でカルンのことを洗う。返り血で赤く染まっていたためだ。
「それにしても見事なもんだな。まるで槍が見えなかったよ」
トールは先の一件を思い浮かべながら、そう話す。最初にカルンが首を刎ね飛ばしたときのことだ。
トールはあの時、山賊たちの隙を見つけるため、そしてリーノを助け出すためにかなり注視していた。しかしそれでもなおカルンの槍さばきは見ることが出来なかった。そしてふと思い立つ。カルンは本当に人間なのかと。
「いや~あんなの楽勝っすよ」
カルンが照れながらも上機嫌で話している横で、トールは《知識の泉》に画像参照で問いかける。カルンを対象にして。
…画像取得:人間規格外種と判断。本個体は魔力過多症候群と、対外魔力排出不良による全身強化型と判別。驚異的な膂力と引き換えに対外への魔力排出の不備をもつ。
規格外種ときたもんである。こんな者まで存在するのかと、トールは改めてこの世界に感心する。
まあそれでも人間には違いないと考え、トールは普通に接する事に決める。なにしろこちとら元人間の杖なので。
「それで、他の山賊たちはどうなりましたか」
傷の手当を受けていたリーノは、それが終わり立ち上がって現在の状況を聞く。
「山賊っすか? それなら根絶やしにしてきたっすよ」
あっさりとそう告げるカルンに、リーノは口を開けて呆然とする。山賊は前方に現れただけでも10人以上、その他潜んでいたのも含めると、15人は固いとリーノは踏んでいた。それをものの数分で全滅させたというのだ。
「根絶やしって……全滅させたんですか?」
「そうすっよ。あれ、なんか不味かったっすか?」
「いえ、そういうわけではないのですが……」
リーノは困惑し、付近を確認する。
リーノが見える範囲でも、山賊が数体首と胴が離れているのが見て取れた。その他は上下に分かれている者、縦に別れている者までいる。
「これは凄まじいな」
思わずトールはそう口に出た。それを聞いて、イオンがビクッと体を反応させる。
「えっと、カルンちゃんは悪い子じゃないんです。ただちょっと人より力が強いといいますか……」
こちらを探るように、イオンはおずおずと声を出す。その様子に、トールはちょっと失礼な事を言ったかなと反省する。
「ああ、そういう意味で言ったわけじゃないんだ。気分を悪くさせたなら謝るよ」
「そうですよトールさん。失礼な事言ってはダメですよ」
傷薬を仕舞い込みながら、リューナはトールを窘める。トールも反省してすまないと謝罪する。
「気にしなくていいっすよ」
カルンは特に気にした様子は無く、手を振って答えている。
「本当にそういった意味は無かったんだよ。……それにしても規格外種か。すごいもんだ」
思わずトールは《知識の泉》で得たことを口にする。それにすぐさま反応したのはイオンであった。
「カルンちゃんのことが分かるのですか!?」
イオンはトールのことを掴むと揺さぶり始める。
「お、落ち着いてくれ! ゆさ、揺さぶらないで。ああ、星が、星が……」
振られているトールは段々と柄の部分がぐにゃぐにゃし始めていた。それを見てナーリャが慌ててイオンをとめる。
「イオンちゃん落ち着いて。トールが壊れちゃう」
ナーリャに止められ、トールのぐったりとした様子に気がついたのかイオンは慌てて掴んでいた手を離す。
「す、すみません!」
トールはその場でぐにゃぐにゃと、のた打ち回っている。そんなトールをナーリャは掴むと、ぎゅっとまっすぐに伸ばす。
「はーい、トール。きちんとしましょうね」
「なんだか扱いが雑になってきてないか?」
「そんなことないよ」
無理やり伸ばしたナーリャに、トールは抗議の声を上げるが何処吹く風とナーリャは取り合わない。
「さてと。それじゃあカルンのことだっけか」
トールは気を取り直してイオンに聞いた。イオンはトールの事を見つめると、切り出した。
「カルンちゃんのことをさっき『規格外種』と言ってましたが、何かご存知なんですか」
「あー、詳しいことは知らないんだがな」
詳しいも何もついさっき知った事実である。トールは言葉を濁しながら答える。
とそこでリーノが手を上げる。
「すみません。私は席を外しますね。被害の確認と、今後の予定を決めなくてはなりませんので」
「あ、すみません。なんだか私達のことばかりで……」
「お気になさらずに。それに私がいたら話しにくいこともあるでしょう」
リーノは笑って席を外す。残ったのはトールとナーリャとリューナ、それにカルンにイオンである。
「さて、それではトールさんに聞きたい事、たしか規格外種と言っていましたね」
「はい。ご存知であれば教えていただきたいんです」
「う~ん……」
《知識の泉》で得た知識である。トールはあまり外には話したくなかったが、つい口を滑らしたのは自分である。迂闊だったと反省しつつ、トールは答えることにした。
「俺も詳しい事は分かっていないが、カルンは魔力過多症候群という奴らしい。あと魔力放出不備だな。名称から察するに魔法が使えないとかじゃないか?」
イオンはチラリとカルンの方を見る。カルンはあまり考えていないような顔つきで、暢気そうに笑顔で頷く。
「そうです。こと魔法に関して一切発動することが出来ません」
「そうなんすよ。昔っから魔法が一切使えなかったんす」
深刻そうなイオンとは対照的に、カルンは特に気にした様子も無く答える。
「魔法が使えないって、全ての属性がですか?」
自身も『欠陥』と呼ばれてきたため、リューナも気になるのだろう。そうカルンへと問いかける。
「そうっすよ。魔法と名のつくものは駄目っすね。魔道具もほとんど起動できないっす」
あっけらかんと言うカルンに、ナーリャとリューナは少し衝撃を受けた表情になる。ナーリャは水と風、リューナは火と土の属性が扱えず、それだけでもかなり生活に支障をきたしていた。しかしカルンはそれを事も無げに言っている。
「それでもあたいには、イオンが付いていてくれたっすからね」
楽しそうにカルンはイオンについて語る。イオンも少し嬉しそうだ。
「カルンちゃんはそういった体質なの。だから私達はどうにか出来ないかと思って、各地を周る事にしたんです」
「半分は面白い事探しっすけどね」
カルンはニシシと笑ってそう言った。




