うかれる杖とあきれる魔道技師16
ダナン城塞都市を出発して3日ほどが経過した。その間特に問題が起こる事も無く、順調に進んでいた。
あたりの景色は次第に平地から山間部へと入り、木々も所々と立っている。街道も当初ほど整えられておらず、デコボコした箇所が多分に見られていた。
ナーリャとリューナは、最初の日の夜に仲良くなったカルンとイオンの2人と、道中馬車の窓を開けて話しながら進んでいた。そのためリーノはほとんどナーリャと話すことができず、トールはリーノの肩を叩いていた。
そうして3日目の夜、一向は山間で野営に就いていた。
「明日には到着すると思います。お疲れでしょうが、今しばらくの我慢を」
リーノはそう労いの言葉をナーリャ達に向ける。
流石に3日間も馬車に揺られていたため、ナーリャとリューナの2人にも疲労が見られていた。
「馬車で移動するのって、結構大変なんだね」
「特に山に入ってからですね。王都からダナンまでの道のりは平坦だったので、ここまで辛くはなかったのですが」
リューナは王都からダナンまで来た時のことを思い出しつつ、そうナーリャへと語る。
「2人ともお疲れっす」
「お疲れ様です」
ナーリャ達とすっかり仲良くなったカルンとイオンがトール達のほうへとやってくる。この度の間は食事を共に過ごしていた。
「お疲れさま、カルンちゃん、イオンちゃん」
「お疲れ様です、カルンさん、イオンさん」
4人の少女はもう手馴れたもので、一緒に食事の準備をし始める。ナーリャとイオンは食事の準備、リューナとカルンはそのあたりの薪を拾ってきていた。
リーノ少年も最初は手伝おうとしていたが、ナーリャに待ってて下さいねといわれ、すごすごと引き返してきていた。トールは最初からもう手伝うのは諦めていた。
「ナーリャさんって、料理の上手なんですね」
「そうだな。悲しい事に俺は食べた事がないんだがな」
こっちはこっちで、リーノの最初の警戒心は何処行ったのやら、すっかり仲良くなっているトールとリーノである。男同士の友情という奴である。
料理が完成し、皆で食べ始めるとカルンが急にそわそわとし始めた。
「カルンちゃん、どうかしたの?」
その様子をみたイオンが、カルンに問いかける。
「んー? なんか首の後ろのあたりがむずむずして、落ちつかないっす。なんかやな予感がするっすよ」
そういって持っていた食器を置くと、カルンは槍を手に持つ。
そしてカルンが槍を手に持った瞬間、近くで悲鳴が上がった。
「ギャ!!」
トールは慌てて少し高いところまで浮び上がり、あたりを見回す。
トール達がいるところから少しはなれた場所、先頭の馬車が止まっていたあたりに一人の男が倒れ臥せっていた。
「てめぇら! 大人しくしやがれ!!」
男が倒れていた付近の山間から毛皮を纏った男達がぞろぞろと出てくる。その数は10人といったところか。
「この商団は俺達がいただく。なに、大人しくしていれば命まではとらねぇからよ」
その集団、山賊たちの先頭に立つ者が、笑いながらそうあたりを威圧している。手には先ほどの倒れている男を切ったであろう、血塗られた剣を持っている。
「いいか! 大人しくしねぇなら命は無いと思え!」
トールは地面まで戻ってくると、皆に今の状況を伝える。
「まずいな、多分山賊だ。数は先頭のほうに10人ほどだが、辺りにどの程度いるかわからん」
「どうしよう」
魔物とも戦った事があるが、ナーリャとリューナは基本非戦闘員である。さすがにこの状況で怯えるなというのは酷である。
「応戦するしかないでしょう。そのための護衛です」
リーノは立ち上がると、声を張り上げる。
「護衛の諸君! 山賊どもにやる物資も命もない! 根絶やしにしろ!!」
その声はあたりに響き渡り、そうして戦闘が始まった。各馬車の護衛たちが山賊へと切りかかり、山賊たちも応戦する。
各所に剣戟の音が響き渡り、あたりは一瞬にして騒然となった。
「すみません、ナーリャさん、リューナさん。御2人は馬車の中に避難を」
リーノは辺りを見回すと、山賊がいる方向に目処をつけ、呪文を唱えだす。
「vawJ eItc SmcC bnSJ yApx HmaosJ eukf」
リーノが呪文を唱えると、手の前には水の塊が浮び上がってくる。それを盗賊の方へと向けると、水の塊は高速で盗賊の方へと飛んでいった。
「うげぇ!」
水は盗賊にぶつかるとそれを吹き飛ばす。リーノは続いて同じ呪文をつむぎだす。
「ちっ、魔法使いがいるぞ! そっちに向かえ!」
山賊たちがリーノのほうへと殺到してくる。リーノはまずいと思ったのか、一旦呪文の詠唱を止め、馬車から離れようとする。
「御2人は早く馬車へ! 敵は私が引き付けます!」
リーノは2人の返事を聞かないまま、あたりを確認し広い場所まで進もうとする。しかし。
「しかたねぇ! やれ!!」
盗賊のかしらと思わしき男が叫ぶと、トール達が乗っていた馬車の護衛の一人が振り返りリーノを背中から切りつける。
「ぐっ!!」
切りつけられたリーノはそのまま地面へと倒れこむ。
「なにを!!」
「大人しくしろ!!」
リューナが叫ぶと、リーノを後ろから切りつけた男は剣先をリーノのほうへと向ける。
「団長の坊主はこの通りだ! 全員大人しくしやがれ!!」
あたりで戦っていた冒険者達に動揺が走る。その隙を突いて山賊たちは攻勢に仕掛けてきた。
「ダメだぜ、坊主。ちゃんと護衛は選ばなくっちゃな」
何時の間にかやってきていたのか、山賊のかしら風の男は勝ち誇った顔をしてこちらに近づいてくる。
「さて、これで形勢は決まったな。なに、大人しくしていれば命はとらねぇよ。命はな」
下卑た笑い声を上げ、山賊はナーリャ達を嘗め回すように見る。それはナーリャ達をどうするかは決めている者の目である。
トール戦闘が始まってから今まで山賊の隙うかがっていた。ナーリャ達だけを助けるならどうとでもなる。《守護者の巨人》を使い、彼女達を覆いながら逃げてしまえばいい。
しかしそうなるとほかの面々はどうなるか判ったものではないし、さりとて戦闘に加わってはナーリャ達を守れない。そのため隙を見て、《守護者の巨人》にてナーリャ達の安全を確保した後、殲滅を図るしかないと考えていた。
そんな事をトールが考えていると、横から声が聞こえてきた。カルンとイオンである。
「カルンちゃん」
「いいっすか、イオン」
「ええ、この際仕方が無いでしょう」
「了解っす!」
カルンは楽しそうに槍を持ち、その後大声を上げた。
「やぁやぁ我こそは、かの英雄アーセファの裔、カルンなり! 犬畜生に劣る悪党ども、根絶やしにしてやるから覚悟するっす!!」
カルンのその名乗りに、その場は一瞬静寂に包まれるが、その後笑いが起こる。
「おいおい、嬢ちゃん。この剣先が見え……」
リーノに剣先を向けていた男が何かを言おうとしていたが、それは最後までいえなかった。自身の首から上が無くなったからである。




